第5話
エルザと別れてから(放置してそのまま、その場を去ってから)3時間が程経過しており日本時間でいえば太陽の位置からして恐らくは昼頃だろう。
そんな中俺はひたすら歩き続けていた。
エルザの
「ほうほう、やっぱり名剣だなこりゃ。聖剣と呼ばれるだけの事はある。……やっぱエルザには悪い事をしたかな?」
光合成によって作り出された酸素が美味しい。不純物が一切混ざってなくて、とても新鮮な感じがするんだ。
心が満たされれば空腹は我慢出来るし。だから、俺は上機嫌のままエルザから罰として奪い取った家宝の聖剣を眺めていた。
「いやいやあれはあいつが悪いよな。俺の事を童貞って……いや、ぜってえあいつも経験無いだろ」
うん。そんなことを愚痴ってみるが、まるで負け犬の遠吠えみたいで悲しくなる。
この世界にはスキルという特殊能力はあるけど、魔法というのは存在していない。
このまま30歳まで童貞こじらせた結果ピュアな魔法使いになったりして。そうなれば……いや、嬉しくはないわ。
「それにしても……SSSランク犯罪者、か。改めて思い出すと萎えるわ。本来なら俺は勇者ポジションの筈なのに、まさか極悪指名手配犯になるとはなぁ。……あんな事するんじゃなかったぜ」
本当に後悔しか無いな。
世界最大クラスの規模と影響力を持っている機関……冒険者ギルドに危険度SSSランク犯罪者として指名手配されている身である俺であるが、しかし実際のところその理由は国を潰したとか人を殺したとかでは無い。
本当に、本当にきっかけは些細なことだったのだ。
「……はぁ」
……いや、これ以上話していると憂鬱になりそうだからこの事についてはまた今度話すとしよう。
まぁそんなこともあって俺の名前は悪い意味で全世界に知られてしまっている。
一番きつかったのは似顔絵まで書かれている事だ。……無駄に上手いしよく似てるのがムカつくし。
俺が人のいる所に顔を出すのを極端に避ける理由がこれだ。多分そんなことをしてしまった日には、直ぐに騎士や冒険者が俺の事を殺しにくると思う。
俺に掛けられている懸賞金を狙って。……星金貨1000枚だよ?日本円でいえば10億円。いや向こうとこっちじゃ価値が違うし……多分それ以上だな。
俺としてはリンチにされたくないので……だからこうしてコソコソ人気のないところを通るしかないのだ。
「冒険者ギルドも10億なんて大金、俺の懸賞金なんかに使うんじゃなくてもっと良いことに使えよ。孤児院に寄付したりさ」
「はぁ……」とため息を吐きながら俺はそう漏らす。
……あぁ、いやいや。というかよく考えてみれば、こんなことしてる暇ねぇじゃん。今は上手い空気で空腹をまぎらわせているだけで、そんなものが長持ちするはずないんだし。
とりあえずは山菜でもなんでも良いから食えるものを探さないと。……餓死しちゃう。
「さて、とりあえずは食料補給の為に散策でも──」
「きゃあああああああああぁぁぁっ!!!」
俺が一人げにそう呟いた瞬間、前方の遥か向こうの方から大音量の人間の声が聞こえてきた。
……タイミングよすぎないか?まるで俺の行動を阻まんと言わんばかりに聞こえてくる恐らくは……いや確実に女性の悲鳴。
ここで俺の心の中にある天秤が損得を測ろうとする。今の声色からして悲鳴の主には、恐らくはかなり困ったことが起きているのだろう。
日本人としての俺の良心が疼くが……しかしこのまま言っても良いのか、具体的には顔を出しても良いのかという思いもまたあった。
仮にその女性を助けたとして、俺の似顔絵は全世界に広まってるからもちろん知ってるはず。……拒絶されたらかなりショックだしなぁ。
美少女(仮)に拒絶されるほど、嫌なことは無い。
「まぁ……一応見に行くだけ行ってみるかなぁ」
とりあえず様子見をしよう。助けるか助けないかはその状況によって判断するってことで。
そのように決定した俺はそのままゆっくりとたくさんの木々の間を歩き抜けていくが……うん。なんだか嫌な予感がするな。まるで面倒ごとに巻き込まれそうな感じ。……行くけど。
「……ん?」
そうして数分も経たない内に意図的に作られたような円型のとある一つの大きな広場が見えた。
たくさんの木々やぼうぼうに生い茂っている雑草が全くなく、そこだけごっそりと空間ごと破壊されているような感じだ。
そのまま中心部に視線を走らせると……おいおい、まじかよ。
「嫌、嫌、嫌ぁっ!!誰か助けてっ!!」
一人の美少女が涙で顔をクシャクシャにしながら、何とか逃げ出そうと手足をバタバタと動かしていた。
逃げ出そうというのは、ザ盗賊の容貌をした一人のおっさんが彼女の身体に馬乗りになっていたからである。
ああなると見るからにひ弱そうな彼女には逃げ出すのは難しいだろうな。
その上、まるで彼女を取り囲むようにしてさらに十数人の盗賊もいるのでこのままいけば死よりも悲惨な目に合うだろう。
「げへへ……大人しくしなお嬢さん。なあに少し俺達に付き合ってくれたらいいんだ。きっとあんたも気持ちよくなるぜぇ?」
「や……やだっ!止めて、止めてください!!」
うわぁ……なんか小物感が凄いな。
というかおっさんども吐息臭そう。あれを至近距離で大量に浴びているお嬢さんはとても可哀想だ。
彼女らの辺りにいくつもの騎士の死体が散乱してることから俺は予想する。
……つまりはあれか?ラノベ的に言えばあの子はお嬢様で、きもいおっさん盗賊達が襲撃をかけたって事か。……下衆すぎだろおっさん達。
「うーん、助けてあげたいんだけどなぁ。ただその後をどうするかが問題なんだよな……」
唸りながら俺がそんなことを考えていると、「嫌っ!!」とさらに美少女の悲鳴が強まる。馬乗りおじさんがついに美少女の柔肌に触れたのだ。
「……よしやろう。絶対にやろう、後のことなんて知らん。というか見ててイライラする。俺なんてまだ女性の手にすら触れたことなんてないのに!!……あんな下衆に先越されたなんてイライラが止まらん」
……なんて俺の欲望丸出しで言ってるけど、本心としては美少女が可哀想だからという思いだ。……ほんとだよ?
まあ俺は女神から貰ったチートスキルもあるし、あんなモブ余裕だろ、なーんて。
これが俗に言う慢心である。
「よしじゃあカッコ良くいくかな。あの美少女が俺に惚れるのを期待して、っと!!」
色々不純な考えが混じっていたが……俺は彼女を助けるためにスキルを使って勢いよく跳躍した。
不純な動機で、かなり欲望に忠実な俺だったが……こうしてヒーローの真似事をしてみるのも悪くない。
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