第39話
俺がそこで見た光景は到底信じられない……それこそ世界の終焉を見ているようだった。
……軍隊だ。上空に立ち込めている黒雲に開いている、ぱっくりと空間ごと切り取られたような巨大な穴から、無数の鎧をまとった膨大な数の兵士が地上に降下してくるのである。
恐らく数としては……数万以上はいるだろう。剣、斧、小太刀、槍、弓、棍棒など多種多様な武器をその手には宿している。
その正体は……骨だ。その軍隊を構成するのは、鎧と武器を纏った骸骨だったのだ。
どのような原理で動いているのかは分からない……が、その骸骨共は地上……つまりはマルファスの大地に降り立った瞬間、カタカタという不気味な音を鳴らし素早く動き始め……手当り次第、市民を攻撃し始めた。
「う、うわぁ!!なんだコイツらっ!!骸骨……?まさか魔物かっ!?」
「逃げろ逃げろーーっ!!早く逃げないと殺されるぞ!!って、どけぇ!!」
「ふっ、ぐぐ……いてぇ……痛てぇよぉ……。俺の腕ぇ……俺の腕どこいったぁ!?」
空中を歩行しながら、俺は地上を見下ろす。
その光景は阿鼻叫喚どころではない、まさに地獄絵図という言葉が当てはまった。
骸骨の軍隊が戸惑い怯え逃げ回る市民を次々と攻撃し、傷つけ、惨殺していく。
まるで機械のごとく緻密で正確な戦い方だ。感情がないからか、命乞いをする者にしても命を奪う事に戸惑いは全く無い。軍隊の配列で広範囲に徘徊していく。
偶然居合わせた冒険者や衛士、警備系が骸骨の進行を食い止めようとするが、如何せん数が多すぎた。大したことも出来ずに骸骨……いや大量のスケルトンの波に飲み込まれていく。
この事態を把握し、マルファスの冒険者ギルドや騎士達が対処に当たるまでにはまだ少しの時間が必要だろう。……その間に、何人の被害が出るか。
「なんなんだよ……これっ!?」
この光景自体信じることが出来ない。
先程までは感謝祭を楽しんでいた善良な市民であったはずなのに……様々な所が血にまみれ、怒号や悲鳴が上がり、建物は倒壊し……もう、目を背けたかった。
「っ!!……違うっ、今はローズを!!」
そして今の俺の目的はローズをあの集団から取り返すことだ。それを思い出した俺はバッ!と辺りを見渡すが……しかし、どこを探しても壊滅的な地獄絵図が広がっているだけであり、ローズの姿はもう何処にもなかった。
「……そんな」
恐らく、というか確実にこの厄災を引き起こしたのはあの黒の外套の男が持っていたオーブの仕業だろう。
……考えられる限り最悪の事態になってしまった。
俺が不甲斐ないばかりに、ローズが誘拐され……更にはこの彼女の故郷であるマルファスも危機にさらしてしまっている。
この光景に一瞬でも驚愕し、足を止めたのがいけなかった。このような緊急事態において足を止めることがどれだけ愚行であるかなどは分かっていたのに!!
あそこで追撃をかける事ができていたのならば、恐らくはローズだけでも取り返す事ができていたのだから。
先程の行動には俺自身、圧倒的後悔しか覚えない。
俺は拳を力のあらん限り握りしめ、唇を血が出るまで噛み締める。自分自身への怒り、後悔、失望、不甲斐なさを実感した。
……どうする?どうする?どうする?
どうすれば良いっ!?どうすればローズを助け、この責任をとる事が事ができる!?
「……あ、」
大粒の汗を顔面に滲ませ、大いに焦っていると……俺は、ポケットの中に1つのアイテムがある事を思い出す。
俺はすぐさまそれを取りだし、手のひらにのせた。
……ローズがその片割れを持っているクマの指人形である。何か力を持っている訳ではない、別に高級品である訳でもない。だが……今この場合はだけはこれを見てるだけで何故かとても安堵し、冷静になることが出来た。
たとえ離れていても、不思議とローズと繋がっているような気がする。失敗をいつまでも引きずるのは良くないだろう、次にどう活かすかが大事なのだから。
そう考えると、先程までの様子が一転。
頭がすぅっと冴えてくるような感覚を覚えた。
「落ち着け、落ち着けぇ……落ち着つくんだ俺」
「ふうぅぅ……」と深呼吸をして脈動を追いつかせる。とりあえず焦って、考え無しに行動するのは愚の極み。冷静な思考を持つ事が大切だ。
「……俺が今考えるべきことは2つ。ローズを取り返す事と、スケルトン共をどうにかしてこのマルファスを救う事だ。……とりあえず、今はこれだけで良い」
そうであるのならば……まずはこの都市の統治者であるウィリアム公爵の所に向かうのが最適か。
すでにこの混乱も把握するだろうから……行動順序の最適解を話し合えれば良いと思う。
俺にとっての最優先事項である、ローズの救出にしてもあの黒い外套の奴らがどこにローズを連れていったのかを知る必要がある。
……となると、そもそもこのマルファスの構造、全体図を元にウィリアム公爵と予想を立てなければ。
「ははは……さっきまで依存してはいけないとか思ってたくせに……もう十分手遅れじゃねぇか」
最初はたまたま助けただけの、可愛い女の子ぐらいにしか思っていなかったのに……彼女を攫われただけでこうも取り乱しているという事に俺は苦笑する。
……どうやらもう引き返すことは出来ない所まで来てしまっているらしい。
「待っててくれ、ローズ。さっきは俺の力不足で君を助けることが出来なかったが……次こそは。俺の全身全霊をもって、命に変えても君を助けてみせる」
俺は腑抜けた自分を起こすために、1度自身の頬をビンタする。……痛。さすがに強すぎたかな?
「……よし」と意識を切り替えた俺は……最短ルートでウィリアム公爵の屋敷へと向かうため、スケルトンが徘徊する大通りへと跳躍した。
意識しろ。
ここからの俺は偽りの仮面を被ったレノでは無い。
SSSランク犯罪者『
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