第11話
「……この度は、助けていただき誠にありがとうございました」
「あぁ……いや君こそ大丈夫だった?」
「はい。王子様が助けに来てくださったお陰でございます」
盗賊達と戦闘を繰り広げてから……いや違うな。俺のスキルで一方的に瞬殺してから既に一時間程が経過していた。
現在俺達は少し歩いたところにあった見事に切り倒されて地面に横たわっている太い樹木の上にそれぞれ座って話をしていた。
一時間も時間が経過しているのにはもちろん理由がある。盗賊達に殺されたこの美少女の護衛の騎士達を埋葬してあげるためだ。それを自ら名乗り出るのだから、やはり聖女にしか見えん。……あいつらとは天と地の差だなおい。
しかし埋葬と言っても簡易的なもので、死体を『森羅万象』に登録されているスキル『炎熱操作』を用いて燃やしていく。そしてそれを地面に埋めるだけだ。
……こう言ってはなんだけど良くやったと思う。
現にこうして結果が出ている今だからこそ言えるからかもしれないが……名前も知らない騎士達を俺は称えずにはいられなかった。
戦死した彼らを見て涙を流す美少女。心の底から後悔しているようで……本当に優しい性格をしていた。
……ただまあそれもそこまでの数がいた訳じゃないのでそれ自体は数十分も掛からずに終わった。……なら何故?と思うかもしれないけど、お恥ずかしながら俺の腹がついに限界を迎えたんだよ!!
結構シリアスな雰囲気の中『ぐうううぅぅ……』という腹の音が鳴るのを想像してみてほしい。更には美少女の真ん前で。……とっても恥ずかしかったよ、うん。茹でダコみたいに顔を紅潮させるぐらいには。
そんな俺を見て、美少女が面白そうにクスッと笑ったのを一生忘れない。
……その後、俺は彼女の馬車の中に保存されていた食べ物をたらふく食べたのだ。他人の食料に手を出すのは流石の俺も少し気が引けたが……美少女からの許しも得ているし、助けた料金という事で気にしないことにした。
そのような経緯があってさらに数十分もの時間を使い……今こうして美少女と一緒にのびのびと休憩をしていた。……隣には美少女。控えめに言って最高だな。
とりあえずしばらくは黙々と作業などしていたのでこれがこの美少女との、落ち着いての初会話と言っても良いのだろう。
「……そういえば君名前は?これから話をしていく中で名前がわからないと不便だし……あぁ、もちろんどうしても言いたくないのなら良いんだけどさ」
とりあえずまずは彼女の名前を聞いてみることにした。……もちろん最もな理由は今話した通りだけど、下心がないといえば嘘になる。
更には高等テクニックをもぶち込む俺。さりげなく配慮できてますよアピールだ。……紳士だろ?
そして、そんな俺の言葉の意味を理解した美少女は、プルプルと身体を震えさせて涙目で気を動転させながら話した。
……何この可愛い生き物。
「あっ……す、すいません自己紹介もまだでした。私はローズ・マリーゴールドと言います。……もし良ければ王子様のお名前も……」
俯きながら震える声で言葉を紡ぐローズ。
……というか先程から思っていたのだが、王子様とは一体なんだろうか。いやまあ、全く悪い気はしないんですけどね。むしろそのままでも良いって言うか。
ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら、しかし俺はすぐにその笑みのベクトルを変えて苦笑気味に、少し不安げにして話す。
「ああごめん。俺の名前は…………東雲麗乃って言うんだ。……聞いた事あるだろう?」
偽名を使うというでも考えたが……こんな純粋そうなこの前で俺は嘘をつきたくなかった。
故に少しだけ言葉にするのを躊躇うが……本名を伝える。
「やはり貴方様が、あの……」
「ああそうだよ。冒険者ギルドにSSSランク犯罪者として指名手配されているあの東雲麗乃さ。ごめんね、こんな俺が君のことを助けてしまって」
「……」
うぅ……自分で言っていてかなり悲しくなるな。
俺の名前を聞いてからローズは何かを考える様にして黙りこくったままだ。……その空気がとても気まずい。
もしかしたら……というか恐らくは確実に俺の事を警戒しているのだろう。酷ければ恐怖をも覚えているかもしれない。
そう思うと咄嗟に顔から血の気が引き怖くなる。こんな子でも俺のことを怖がるのか。ならばどこに俺の味方はいるのだろうかと。
──だがしかし、俺のそんな考えは全くの間違えだったようで。
次の瞬間、ふわっと俺の鼻腔をくすぐる女性らしい甘くフローラルな香りが俺の周囲に広まった。
……え?と俺はいきなりの出来事に思わずそう驚きを隠せないでいた。
ローズが俺との距離を詰めてきて、そしてそのまま俺の手をギュッと握ってきたのだ。
……うおおおっ!?手ちっさ!そしてぷにぷにしててとても柔らかい!!細い白い暖かい!!き、気持ちいい……。
後から聞けば俺でも引くほどの気持ち悪いセクハラ発言を連呼しまくる。女性経験ないし仕方ないとは思わなくもないが……しかしこれが噂のフラグ回収というやつか。
(1.2.3.5.7.11……って1は素数じゃねえだろ!!)
とりあえずこんな場合には素数を数えて気を沈めるのが手っ取り早い。しかし上手くいかず一人でボケて一人でツッコミを入れてしまっている。これだけでどれだけ気が動転しているかわかるだろう。
「……安心してください。私は、貴方様を怖がったりはしません。そもそも貴方様……麗乃様のような心優しきお方に怯える理由がどこにございましょうか」
「っ!?」
俺の不安を見抜いてきたのか、慈愛の女神の如く柔らかな微笑みをローズは見せてきた。
スキルなんか使わなくても、その一言一言が本心からの言葉だという事が分かる。
……それは、今の俺が一番欲しい言葉で。……その一言だけで段々とひび割れた心に熱がこもっていくのを実感した。
(あ……これはやばい。とてもクセになる。今なら、アイドルに惚れ込む奴らの気持ちも分かる)
この一年間……様々な者達から命を狙われて冷めていた俺に、ようやく暖かな言葉がかかれられたのだ。
……それはとても甘美なもので、とても高い依存性を持っていて、一度許せばもう止められない。まるで甘い麻薬のようだった。
「……君はこんな俺でも、怖がらないのか?」
「はい、当たり前です。好きになる要素はあっても、麗乃様を嫌いになるなど有り得ませんよ」
「……好き?」
「はわわわわわ、そういう意味じゃないですよ!?ぃやまぁ多少はそんな気持ちも無くはないですけど……」
最後の方は小声だったので何を言ったのかまでは聞こえなかった……わけねぇだろっ!!嬉しいこと言ってくれるが、うん。今のは聞かなかった事にしよう。
とても恥ずかしがり屋なようで恥じらいの姿がとても可愛い。
(……この娘はしっかりと俺自身の事を見てそう判断してくれた。俺が怖くない、と。……くぅぅ、なんてええ子なんや!!)
「……そうか。……ありがとう、本当に」
今の俺の心は、不思議と暖かいものとなっていた。まるで聖域に足を踏み入れたかのように瞬く間にローズのオーラに下心が浄化されていくような気がする。
……そして俺は、そんな心で考える。
今はローズが美少女とかはどうでも良い。……この言葉を聞けただけでも、彼女を助けて良かったのだと。
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