第17話
「……ただ麗乃様には悪いのですが、このスキルを使用するにあたって一つ注意点がございます」
「注意点?」
ローズはどこか残念そうに俯きながら話す。その様子から注意点というよりは、弱点があるのだろうと予想する。
……まぁそれもそうか。世界を騙すという強力な能力ゆえに思わぬ所に弱点があったりするのだろう。どんな強力なスキルにも弱点はある。これ基本中の基本。俺の『森羅万象』だってそうなのだから。
「はい。先程も言ったとおりこのスキルは世界を騙す事で効果を発揮します。なので、世界を改変する通常のスキルを幾度も使ってしまうと『七曜星天』はその効果を徐々に失ってしまうのです」
あぁ、なるほど。スキルを使って世界の法則を書き換え過ぎれば、『七曜星天』でも世界を騙しきれなくなるとい事か。
……ただまぁ徐々という事は、数発程度ではまだ大丈夫という事だよな?だったら大丈夫だろ。都市内でそう何度もスキルを使わざるを得ない状況に出くわすはずがないし。
……フラグ?フラグじゃないよ。フラグじゃないからね。というかそう思いたい。はい、これフラグだね。読者の皆さんお楽しみに。
「なるほどな。わかった、気をつけるよ」
「ええはい。しかしそれでもこの『七曜星天』はとても強力なスキルなので、いずれ必ず麗乃様のお役に経つと思いますよ。……残念ながら未熟者の私では、今のところはこれが限界ですが」
なんかローズが意味深な発言を放った。……え、これだけでもめちゃくちゃ強力なのに、まだ他にも能力があるって事?
「……そ、それはつまりマルチアビリティって事か?」
マルチアビリティというのはその名の通り複数個の能力を持つスキルの事だ。そもそもスキルというのは一人一つが原則である。そうであるならばマルチアビリティがどれだけ有用かが分かるだろう。
……ちなみにエルザの『剣聖』スキルもマルチアビリティなんだよな。能力としては圧倒的な身体能力強化や剣聖技など。
うん。俺の『森羅万象』だってマルチアビリティじゃないのに……なんかエルザに負けた気分だな。
って、自分で言っててクソしょうもねぇ。張り合うところそこ?ってね。
「そうですね。一応そういう部類に入ると思いますよ。……えっと《一曜》から《七曜》までなので、全部で七つですね」
「な、七つ!?」
ローズのその言葉に俺は驚愕を示すしかない。マルチアビリティといっても、その殆どが二つや三つといったところなのだ。今まで数々のスキルを見てきた俺だが……七つというのは聞いたことも見た事も無かった。
「……」
唖然としながらもすぐさま俺は『森羅万象』の解析結果に意識を集中させてその根源を覗こうとする。覗くのはアカシックレコードに刻まれている『七曜星天』について。
……そして俺はすぐさま気づく。ローズの言った通り、解析結果には封印状態の能力があと六つある事に。
……ん?というか封印状態って何だ?
「な、なんだこれ?アカシックレコードには確かに刻まれている……けど封印が施されていて能力に干渉できない。こんなの見た事ないぞ。……ローズ、分かるか?」
『七曜星天』所持者のローズなら何か知っているかもしれない。
俺がそう考えて反射的に問いかけると、彼女は重そうに口を開いた。
「恐らくは『七曜星天』の封印が施されている現状でスキルを解析してしまったからでしょう。確かにそこには能力は存在しているのに、しかしそれに干渉することはできない。これは私とその能力の間に壁があるからなのですが……それが封印です」
「……どうしてそんなものが?」
「分かりません。『七曜星天』自体過去に前例がない未知のスキルなのです。伝承か何かあれば良かったのですが……」
「じゃあ……《二曜》で良いのか?そこからの能力にはその封印が施されていて、そんな状態だったから『森羅万象』で解析した結果にも封印がくっついてきたって事、か?」
「恐らくは。封印自体は何かのきっかけで打ち破れるという事は感覚でわかるのですけど、それが何なのかまでは……」
「……いらないおまけだなぁ」
薄々気づいてはいたが、やはりローズの『七曜星天』はとても異端のスキルであるようだ。希少性でいえば『森羅万象』よりも勝るかもしれない。
……たった1つの能力でここまでの有用性を持っているんだよな?それがあと6個もあると。……いやいや、は?それマジで言ってる?
そうなると、残りの《二曜》から《七曜》について一体どんな能力なのだろうか?そんな疑問を抱かずには居られない俺だった。
そして微妙に複雑な表情でそんなことを考えていると、俺の隣で足をプラプラと振り子のように降っていたローズはその動きを止めて問いかけてきた。
「……とまぁ、私のスキル『七曜星天』についての説明はこれぐらいでしょうか。……そのうえでもう一度お聞きします。麗乃様、どうかマルファスまでの護衛をお願いします。そして是非一連のお礼をさせてください」
「……それは、」
彼女の言葉を聞いて俺は少し真面目に考える。
……まぁ、彼女をマルファスまで送り届けるのは別に良いんだ。というか放ったらかしになんか出来ないし。……ただやっぱりマルファスの中に入ることが問題なんだよなぁ。
もちろん俺も彼女の故郷であるその都市を見てみたいという気持ちもあるが……しかし、もし正体がバレたらどうする?俺はともかくローズまで被害を食らうかもしれない──。
とまぁ、内心そんなことを考える俺。
「……うーん、うーむ」
無意識に唸り声まで捻り出してしまう始末。
いくら何でも悩みすぎだろと思っているのならそれは間違ってるぞ!これ結構難しいんだ。
特にローズが言うお礼!!(意味深)もしかしたら、本当にもしかしたらあんな事やこんな事が……。
「まぁ……」
そんな馬鹿げた事と並列して、頭の中で損得についてをしっかりと天秤にかける。そうして暫くして……俺はゆっくりとローズに告げた。
「……じゃあ、少しだけだぞ」
小声だったにも関わらず、ローズはそんな俺の言葉を聞き逃さない。大きく目を見開き頬を紅潮させながらパァッ!と満面の笑みをうかべた。
「はい!!」
……いくらなんでも喜びすぎじゃないですかねぇローズさん。まるで俺が一緒に行くのが何よりも嬉しいみたいじゃないですか。
忘れてはいけないぞ俺。これはお礼だ。
……ふぅ危ねぇ。俺じゃなかったら絶対勘違いして告白してたな。
「……まぁ、とりあえず積もる話は移動しながらしようか」
俺はそれ以上の思考を止めて、「よっ!」と下半身の力だけで跳躍。そのまま大地に足をつけた。
ローズはそんな俺の行動を不審に思ったのだろうが、しかし俺はそれを無視して歩き出す。
……それにしても相変わらず寒いな。
そうして少し歩いて……ついに足を止めたのは未だに氷人形のまま放置されていたモブ盗賊達のすぐ前。……いけないいけない、忘れてはいけないぞ。俺が『記憶操作』で記憶をいじったのはあのリーダー格の盗賊だけだったからな。
口止めのためにもしっかりと俺に関しての記憶を消しておかなければ。
「『記憶操作』」
手のひらを氷の中で身動きの取れない盗賊達に向けて、標準を合わせたらスキルを使う。『記憶操作』というだけあってされた側にはとんでもない負荷がかかるのだ。それこそ思わず気絶するぐらいには。
しかし彼らの肉体は冷凍保存されているので傍から見てもなんの変化もない。ただまぁ、次に意識を覚ました時には記憶があやふやな上に、いつの間にか氷漬けにされていてあまりの冷たさから激痛に苛まれる……なんか少し可哀想だな。まぁ自業自得だけどさ。
「じゃあな野郎ども。更生しろよ」
誰にも聞こえてはいないだろうが、俺はそれだけを言い残してくるりと背後を向いて元来た道を戻る。
人間には無限の可能性が詰まっているんだ知ってるか?あんな奴らでも、何らかのきっかけでコロッと善人になることが出来るかもしれない。
俺はそれを期待だけしてローズの下へと戻って行った。
「麗乃様、あの……?」
「なんでもないさ。少し野暮用があっただけ」
ローズは『記憶操作』スキルのことを知らないので、無垢にこてんと首を傾げた。
……相変わらず可愛いな。保護欲がそそられるというかなんというか。
そんなことを考えて、相変わらずの自分のキモさに思わず苦笑を浮かべそうになりながら……俺は進行方向を変えて一歩を踏み出す。
「……じゃあ、早く行こうぜ」
少々格好をつけながらローズの方に視線を向けてみる。ポケットに両手を突っ込んで、今写真を撮ったらベストショットだろうそんな佇まいだ。
「あ、はい!!」
しかしローズはニカッ!と笑みを浮かべると、とてとてと可愛らしい走りでこちらに近づいてきた。
……どうやら俺のアピールは虚しく躱されたらしい。完全なナルシストだな俺。うんだからローズの頬が紅潮しているのは気の所為だろう。
「……ま、それは今度で良いか」
いつでもどこでもポジティブシンキング。
まだまだ時間はあるんだし……と気を持ち直した俺は、「では行きましょう!」という風に元気はつらつなローズと共に、マルファスへ向かうのだった。
……護衛として、ね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます