第35話

 でも思えばそうだよな。『剛腕』って名前からして腕力強化だろ?速さは依然として(俺からすれば)とろいままだし、そもそも前提として命中しねぇから!!

 体重100キロは確実に超しているその図体をまるで弾丸のように回転させながら吹き飛ばす俺。


『嘘だ嘘だぁ!!ぎゃははっ!!ほんとどうなってんだ!?あのデイモンの筋肉に護られた巨体を白き少年が吹き飛ばしたぞぉーーっ!?アンビリバボーッ!!』


 ……はぁ、なんかもういいや。

 こんな戦いはもう不毛だし、さっさと終わらせる事としよう。ただし……貴様の圧倒的敗北でなぁっ!!


「ぐっ……ぐぅ……」


 根性見せようが関係ないぜ肉ダルマ君。お前の恥ずかしい所を、今から皆にさらけだしてやるからな。


「くくく……スキル『烈風操作』……緑風乱暴風ミクロテンペストッ!!」


 そして次の瞬間……あらゆる全てを切り裂く姿を錯覚させる、螺旋を描くグネグネと曲がりくねった一つの竜巻が生み出された。

 辺りに吹くそよ風すらも吸収し、それを強力化させて今度は逆に辺りに撒き散らす。


「ひっ……!!」


 おいおい後ずさってんじゃないよ。俺をぶち殺すんだろ?さっきまでの威勢はどうしたんだ?

 そして俺は竜巻を天高く聳えそびえ立たせて、それをやつの頭上から一気に降下させる!!つまりは一種のダウンバーストを作り出した。


「うわああああぁぁぁぁ……あ……ぁ?」


 肉ダルマ君の細切れにせんと、迅風が乱方向から無数に襲いかかる。

 彼は思わず目を閉じ手を前に突き出したが……しかし乱れ展開する乱風が彼の肉体を傷つけること無かった。何故か上手く、彼の肌だけを避けていたのだ。

 それに一瞬の疑問を覚えたが、だがしかしそれよりも生への実感からか彼は大きな安堵の様子を示した。


 ……はぁ、さっきまでの自信は一体どこに行ったのだか。もうその様子は目も当てられないほど無様になっていた。

 そしてこいつはやはり馬鹿である。確かに安心する気持ちもわかるけど、それよりも先にその理由を考えるべきだったのだ。


「……はぁ、はぁ、はぁ……くそ、ぶち殺してやる……!!」


「……え、いや。止めといた方が良いよ」


 俺の忠告を鼻で笑い無視し、肉ダルマ君が立ち上がろうとした次の瞬間、



 ──ザシュザシュザザザザザシュッ!!という何かが鋭利に切れる音とともに、肉ダルマ君の下半身の着衣が全てボロボロに引き裂かれた。

 そう……………………パンティーも、だ!!



 ハラリ……と細切れになった布が地面に落ちる。

 つまりどういう事か?つまり元々上裸だった肉ダルマ君は下着すらも切り裂かれたことによって、ち〇ち〇丸出しの全裸の状態で立ち上がることとなった。


「え……うわああああああああぁぁぁっ!!?」


 自身の股間を必死に隠す肉ダルマ君。

 唐突の羞恥から何が起こっているのか理解出来ていないようだった。


 ……っておいおい、ムキムキおっさんの内股羞恥顔なんて見たくねぇっつうの。そしてきもい。その顔で乙女みたいなウブな反応されると、こっちもどんな反応すれば良いか分かんなくなるから。

 それに隠せてない隠せてない。ちょっと先っぽがでちゃってるから。……なんか負けた気分だけど。


「……って、ええぇぇぇぇっ!?貴様あああぁぁっ……!!!」


 そしてそれだけでは留まらず、立派なお髭、オールバックの髪の毛すらも風刃で根元から断ち切ってあげた。ふははっ……頭テカテカはウケるぞ。

 増えすぎた毛を脱毛してあげるなんて俺優しー。ツルツルに過ぎちゃった感はあるけど、まぁいいや!!


『ぎゃははははっ!!なんつぅー事だァ!!少年の放った小型竜巻によって、デイモンの衣服が細切れになっちまったぞっ!!大事な所ごとっ、自身の素っ裸を観客の皆に見られちまったァ!!そして手で隠しているため、デイモンは動くことができないーーっ!!なんて恐ろしいんだこいつ!?』


 これ結構社会的にダメージを与えられるだろ?もろに見られちゃったから、今度からはこいつは街を歩く時にヒソヒソ噂をされるかもな。肩身の狭い思いをすることだろう。

 ……これぞ、俺の考えた快勝方法!どんなに強くても絶対に羞恥心には勝つことは出来ない!!(体験談)


「きゃあっ!!この変態……っ!!」


「なんてもん見せつけんだぁ!!そんな毛むくじゃらのピー(自主規制)見せつけんじゃねぇよ!!」


「ぷぷぷ……でも、あのデイモンが産まれたての子鹿のようになってるのは面白いかも」


 なかなか上々の反応である。

 嫌悪から顔を逸らす者、怒りの様子を見せる者、このような状況ですら楽しんでいる者など多種多様だった。

 ちなみにローズはプルプルと震えながら、口をきゅっと縛りつけて明後日の方向を向いている。うんそれで良いぞ。おっさんの裸なんか見ちゃいけません。


 そして当のデイモン……肉ダルマ君は顔をゆでダコの如く真っ赤に染め上げ「くそがァっ!!」と、薄く涙を浮かべながら俺の事を睨みつけてきていた。

 さすがにやりすぎたかなぁ。……ま、謝罪はしないけど、なっ!!いい気味である。いやいくらなんでも下衆過ぎない俺?


「て、てめぇ……っ!!許さねぇ、ぜってぇに許さねぇぞ!!この俺様に、こんな恥をかかせやがってぇ!!」


 お前みたいな奴には良い薬になるだろ。決して、俺の八つ当たりとかじゃないよ?お灸をすえただけだからね?


「うん。言うと思った」


 俺はゆっくり足を持ち上げて、そのまま奴の股間目掛けて足の甲を思い切りぶつけた。


「ぶううううぅぅぅぅぅっ!!?」


 今日1番の悲鳴をあげて吹き飛ばされていく肉ダルマ君。うへぇ……自分でやっておいてなんだけど、これはめちゃくちゃ痛そうだなぁ。

 というかこんな汚らわしいもの、そもそも直で蹴りたくはなかったのだが……まぁこれが一番手っ取り早いのでしょうがない。


『きゃっはーーっ!!まさかのっ、大番狂わせっ!!無名の少年レノがまさかまさかのっ『剛腕無双』デイモンを一方的にいたぶるという結果に終わってしまったーーっ!!いやマジでどうなってんだ!?ってかいくらなんでもデイモンが可哀想すぎるぅーーっ!!』


「「「「うおおおぉぉぉぉっ!!!」」」」


 辺りに実況の声が響き渡ると、数百人単位の観客の歓声が爆発する。それはビリビリと空気をも揺るがすほどで……耳、いや鼓膜が痛い。

 ……やはり目立ってしまったが、まぁ正体がバレた様子もないし結果的には良かった。スキルを何度か使ったが、これぐらいじゃあまり影響はないという事も分かったし。


「か……あっ、いっ……ひ、ひぁ……」


 肉ダルマ君を見てみれば、口から泡を吹き出し白目でピクピクと身体を痙攣させながら地面に力なく横たわっていた。

 全裸で仰向き……なんともシュールな光景だ。というか尻を突き出すような体勢なので、あかんものが完全に見えてしまっている。


 ピー(自主規制)とかピー(自主規制)とか。

 こいつのありのままの姿……つまりそれらも含めた細部全てをばっちし皆に見られてしまっている。

 ……もうランクA冒険者として強く威張ることも出来ないだろう。弱みを握られてるものだしな。


 というか、めっちゃ萎える。なんて不快なものを……っ。野郎のピー(自主規制)とかピー(自主規制)なんて見たくないんだけど?


 ──まっ、やったの全部俺なんだけどな!!

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