第14話

「えっと……申し訳ありません。もう一度お願いできますか?」


「……だから食い逃げだよ」


 暫くして……ようやく現実に戻ってきたローズがそう促してきたが、俺は先程と同じ答えを口にする。というかそれが真実なのだから他にいいようがない。


「まぁローズが驚く気持ちも分かるけど、最後まで話を聞いて欲しい」


 宥めるような雰囲気を言葉に上乗せしたからか……ローズは「は、はい」ととりあえずは俺の話を最後まで聞くこととしたようだ。

 うん、聞き分けの良い子はとても好きだよ。


「まず俺は転移者だ。……あ、転移者って分かる?」


 この世界の住人からしたら、そもそも転移者ってのがよく分からないかも知れない。まぁ、地球ではラノベなんかがあったけど、この世界にはそんな娯楽はないし。


 また一から説明しなきゃいけないのは面倒くさいなぁ……なんて俺は思っていたのだが、


「え?はい、分かりますよ。何らかの要因でやって来た、この世界とは異なる別の世界の人達の事ですよね。とても珍しい様ですが数百年に一度、定期的に現れるようです」


 おぉぅ……普通に知ってんのかい。珍しい事例ではあるらしいが、彼女自身は別にそれについてどうこう思う事は無いらしい。

 俺はその事にどうしても苦笑してしまう。


 ……まぁいいや。


「まぁ俺の場合は転生転移を司る女神の力で、この世界にやってきたわけだけど……暫くして、俺はとある事に気づいたんだ」


「何に、気づいたのですか」


「……そういえば俺この世界の金持ってないやんって。無一文!!一文無し!!……あ、どっちも同じ意味か」


 そう、あのクソ女神俺に力だけ与えて、そのまま適当に放り出しやがったのだ!!金どころか水も、食料も、初期装備すらも無い。更には俺が放り出されたのは何にもない森の中で、そこがどこかも分からない。……どないせいっちゅうねん!!


 そこには食い物となる生き物の全く気配すらしなかった。

 これもう初手から詰みゲーじゃねぇか!と当時の俺は思ったものだ。


「けどまぁ、何とか水場だけ見つけた俺は約一週間かけてその森から抜け出す訳だ。面倒臭いからそこは割愛するけど。……ここまでは良い?」


「……ええ、はい。麗乃様がとても苦労をなさっていたということは理解しました」


 そうそう、もう二度とあんな事はしたくない。いくらチートスキルを持っていても肉体の強さ自体はそこら辺のヤツらと大差ないのだ。うぅ……何度死にかけたと思ったか。


「いやまぁ、それはいいや。……で、そこから更に三日歩き続けてようやく俺は、小さいけど人の住むとある町に到着した」


 多分、それまでの人生で一二を争うぐらいに感動したと思う。だってこれまで森の中で自然の驚異を思い知らされてボロボロになりながら必死に生きてきたんだから……その時はとてつもない安堵感を俺は覚えたものだ。


 ……ただ、ここからが問題だった。


「そのまま俺は街の中に入って、まずは空腹を訴える腹を満たすために俺は酒場に赴いたんだ。……まぁそこで俺は今までの遅れを戻すようにしてたらふく……それこそ腹がパンパンになるまで飯を食い続けた」


 空腹ほど飯が美味くなるスパイスは無いからな。あの時の飯は、どんな高級料理ても叶わないほどの美味さだった。

 ……おっとそんなことを考えていたら、さっき食べたばかりなのによだれが垂れてきたぜ。


「……で食い終わって、そこでようやく俺は金を持っていないことに気づいた。持ってるのは向こうの金。もちろんこっちじゃ使えない。…………そこで俺が考えに考えて選んだ結論が、」


「……食い逃げをした。そういう事ですか?」


 ローズにセリフを取られた。というかその呆れたような何か可哀想なものを見るような視線はやめてくれぇ。

 思わず自分の下衆さに涙が出そうになるから!


 しかしローズは一つ間違っている。そこは訂正させてもらおう。


「さっきは食い逃げと言ったが、俺の本心としてはそんなつもりは全く無かったんだ。俺はただ出世払いのつもりだったのに……なのに何故か酒場のおばちゃんには食い逃げと言われたよ」


「いや出世払いなんて通用しませんよ。それは立派な食い逃げ。犯罪ですから」


 ……あれ?なんかローズちゃんさっきから意外と辛辣というか厳しくない?もっとこう、優しい言葉を投げかけてもらえると思ってたんだけど。


「……まぁそんな事もあって、そこから俺の異世界逃亡生活が始まった」


 ただ所詮は食い逃げだし、最初はプチ犯罪者的な立ち位置だったと思う。沢山いる指名手配の中でも、すごい下の方に埋もれてたから殆どよやつに認知されなかったし。


「……最初はEランク冒険者が五人だった。俺に掛けられていた雀の涙程度の懸賞金を小遣いにするつもりだったらしい。……まぁ、苛ついたからスキル真似て、金だけ奪ってそこら辺にポイ捨てしたけど」


 冒険者ギルドでは冒険者にランク制度を設けているらしくそれが上かSSSランクで下がEランクまであるのだとか。だからそいつらは一番カスって事になる。


 正直、『森羅万象』を使えば余裕だった。


「そんなことを繰り返していくうちにいつの間にか俺の危険度が一つ上がった。……それで次に来たのがランクC冒険者とランクD冒険者の混合パーティーで……これまた瞬殺した」


 この頃になってようやく少しずつ認知されていくようになったのか、刺客が来る頻度が多くなっていた。

 まぁそうなればおちおち寝てる暇も無いわけで。だからその元凶である彼らに、睡眠不足のイライラをぶつけていた。

 これは最も酷い時の場合だが……そりゃあ一日平均3時間睡眠はキツいって。


「まぁそこからは言わなくても分かるよな?そのまま階段みたいに俺の危険度が上がってって……それにつれて俺の身柄を求める奴らの強さも段違いに上がっていった。……まぁ全員、俺には勝てなかったけど」


 ただまぁ危なくなった事は何度かある。

 基本的に『森羅万象』で解析したスキルを使いまくって強引に攻めるみたいなのが俺のスタンスだったから……高い技術を持ってる奴になっていくにつれて楽勝展開にはならなくなっていった。


 覚えている範囲だとSSSランク冒険者、聖騎士とか……あぁあとどっかの暗殺組織とかもあった。


 その中でも世界に5人しかいないらしいSSSランク冒険者を倒したのが不味かった。たしか……『星王』だったか?直接的に冒険者ギルドに大打撃を与えてしまったのだから。


「そうして気づいたら俺はSSSランク犯罪者になっていた、という訳だ。自己防衛しまくった結果、冒険者ギルドも俺を危険視する様になっていったって事だな」


 これが俺がSSSランク犯罪者になるまでの経緯だ。なかなか波瀾万丈だとは思わないか?まさか食い逃げがきっかけで凶悪犯罪者認定されるとは。


 冒険者ギルドも俺が刺客全てを倒すものだから……自分で言うのもなんだがこの強力な力を恐れたのだろう。

 まぁ俺としては力を持っているだけなのに、と不満な点はあったが考え方自体に理解は出来た。


「……」


 チラリと横目でローズの方に視線を投げかけてみるが……彼女は何かを考えているのか、先程から黙ったままである。その横顔もとても可愛いのだが、邪魔をしないように俺は前を向いた。


 青空晴天の下、ぼうっとしながら俺は考える。


 今俺が話した内容とこれからの出来事……これらを一つの物語とするならばそのタイトルは、


『食い逃げから始まる異世界逃亡生活〜チート転移者、自己防衛しまくってたらいつの間にかSSSランク犯罪者になっていた〜』


 ……などというところだろうか?

 ……うん。つまりはこの作品という事だね!!

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