第15話

「ふふふ……ありがとうございます、麗乃様の過去を教えてくださって。少々私の予想とは外れていましたが、しかしそれでもとても面白いお話でした」


 暫くして……ようやく口を開いた彼女はニコニコと満面の笑みを浮かべながらそう話してきた。……この娘本気でそんなこと思ってやがる。え?どこが面白かったの面白要素あったっけ?


「……面白い、何処が?こんな話ただのくだらない過去ってだけなのに」


 思わずそう呟くと、ローズは「そんな事はありませんよ」と言葉を発し始める。


「貴方様のお話はとても人間味を感じさせました。SSSランク犯罪者である以前に、麗乃様は一人の男の子なのですね。これが殺人などでしたら笑えませんけど、食い逃げ程度でしたらむしろ微笑ましいほどです」


 ……まぁその言葉を聞いていると何となく彼女の心情は理解出来た。

 この世界ではSSSランク犯罪者である俺だが、そう認定されるには生半可な事をしでかしただけではまだ足りない。それのきっかけ実は食い逃げと言われれば微笑ましい気持ちになるのだろう。


 というかさっきまで俺の事を人間認定してなかったわけローズは。それそれで酷いけど……ぐふふふ、まぁ一人の男の子っていうフレーズに興奮したから、お兄さん許しちゃうよ!!


「そ、そうかい。こんな話で君を面白くする事が出来たのなら良かったよ」


 ただ美少女と話すのは……というかこの頃になって人と話す事に精神的疲労を覚えるようになってきたので、俺は少しタジタジになりながらそう話した。


 まぁとりあえずは失望されなかっただけでも良かったのだろう……俺はそんなことを考えながら、次の行動へと移る。


「……そういえば、ローズはこれからどうするんだ?」


 この森を通過しようとしていた理由は先程聞いたけど……よく考えれば彼女はこれからどうするのだろうか?

 当初の予定通り実家へと戻るのかどうか。戻るにしてもこの森からマルファスまでの道中をどうするのか。


 幸い今は特に見当たらないが、この森には危険度の高い魔物が沢山いる。これは俺の経験則。何度もヒヤヒヤさせられた。なんなら奥底まで行けばドラゴンもいたし。


 なので俺は、護衛を全て失った彼女がこの森を抜け出す事ができるとは思っていなかった。


「……麗乃様、その事について折り入ってお願いがございます」


 すると彼女はその微笑みを崩して少しシリアスな雰囲気でこちらを向いてくる。……おぉなんだ?さっきとはえらい様子の違いだけど。


「麗乃様さえ良ければぜひ私の護衛「──いいよ」……え?」


 ローズのそのお願いを最後まで言わせず、俺はすかさず即答する。余りにも俺の返しが早すぎた事にローズは呆然とする。可愛いなおい。……というか俺今日この言葉何回言うんだろうか。


 美少女のお願いならば断らない。これが野郎だったら無理だけど。それに彼女のその申し出は、本来俺から言う予定だったしな。


「い、いいのですか?まだ報酬のお話など済んでいないのですけど」


「ん?報酬なんか要らないさ。別にローズを助けたのは金利目的じゃないしな。国宝級の美少女を助けるのは男として当たり前だ」


「……美少女」


「それにこんな清々しい気分は久しぶりだし。……むしろこっちからお願いしたいぐらいだぞ。……まぁ、俺の肩書き上護衛をしてあげれるのはマルファスの手前あたりまでだけどな。……それで良いか?」


「は、はい……ありがとうございます!!」


 うむ、こうして感謝されるのは良い気分だな。

 けどまぁ保身を考えるのならばもっと余裕を持って……というかそもそもローズの護衛をするべきでは無いのだろうが、しかしたまにはリスキーな事に挑戦してみるのも悪くない。


「ここからそのマルファスとやらまで歩いてどのぐらいかかるんだ?」


「そうですね……おそらくは五日程度だと思われます」


「五日か……それなら何とかなりそうだな。主に食糧的な面で」


 たしかローズの乗っていた馬車の中には、まだまだ予備の食料が残っていたはず。俺がかなり食い散らかしてしまったが、それでも二人で五日程度なら余裕だろう。


 思い立ったが吉日ということわざがある通り、俺はそれにならってすぐさま行動着手をしようとしたのだが……しかしそこでまたもやローズが何か考え込んでいることに気づく。


 うん……どうやら彼女は一度考え始めるとそのまま没頭してしまうタイプか?

 こう何度も眼前にするとどうしてもそんなことを思ってしまった。


「……どうしたんだ?」


 俺のその問いかけにハッと我に返ったローズ。彼女はそのまま口を開く。


「……あの、やっぱりこうして護衛をして貰うならばそれに見合う報酬は必要だと思うのですよ」


 ……なんだそんなことか。要らないっていっているのに、とても律儀な子だな。


「だから別にいらないって……」


「いえ、今考えればそういう訳にはいきません」


 ローズは不屈の精神?で望んでくる。

 そもそも俺は街に入れないんだから報酬を受け取るにもかなり面倒くさいだろう。


 なかなか折れないローズに俺は「はぁ……」とため息を吐きながらどうしたものかと考えていると……彼女はいきなりとんでもない提案をしてきた。


「しかし麗乃様は表立って都市には入れない身です。都市外で報酬を受け取るのも面倒臭がりやな麗乃様は嫌がるでしょうし……しかしそれでも一つ解決策があります」


 解決策……?と、俺は必死に頭を回転させる。

 まぁ俺としてはそのマルファスとやらに興味を持っているのは事実である。……行動に移せるかどうかは別として。


 だからもちろん穏便にそれを解決する方法があるのなら、俺としては嬉しい限りなのだが……そうなるともう変装するのが一番コスパが良いのではないだろうか。


「──そう、変装です」


 すると、待ってましたと言わんばかりの自信に満ちた態度でローズはそう話した。……そんなにドヤ顔決めなくても。というか変装?大丈夫?俺過去にそれやって直ぐにバレちゃったけど。


 あれは苦い思い出だなぁ。すぐに変装がバレてしまって色々な奴に追いかけ回された記憶が蘇る。あれ以降俺は変装はできるだけ避けていたのだが……


「もちろん私達に道具はありませんし、技術もありません。だからスキルを使う事にします」


「……スキル?」


 ……とまぁここまで来ればさすがに俺も事情を察する事が出来た。つまりはそういう事なのだろう。


「ええはい。……たしか麗乃様のスキルは『森羅万象』でしたね?」


「うんそうだけど。……あ、信頼してるから話したけどそれオフレコで、秘密で頼むぜ?」


 おっと言い忘れていた。彼女は俺と盗賊の会話を聞いていたのだから俺のスキルについて知っていたのだ。記憶操作は多分通じないというかしたくないので、俺は最終手段ド直球にお願いをする事にした。


 多分彼女の性格上断らないと思う。……本当、素直すぎて悪い大人に引っかかりそうだなぁ。おにいさんそれが心配です。


「あ、はい分かっていますよ」


 案の定何の抵抗もなくそう頷く。


「……って違います。話が逸れました。もう一度聞きますが、麗乃様のスキルは『森羅万象』で宜しいんですよね?」


「うん」


 俺が頷くと、彼女は「……そうですか」とまたもや思考に集中し始める。

 ……そうして暫くして、その小さな口で告げた。


「……では、麗乃様には私のスキル『七曜星天しちようせいてん』を解析してもらうとしましょうか」

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