第16話
俺は一瞬、ローズの言った言葉の意味が理解できずぽかんと呆けてしまったが、こちらを覗いてくる彼女の美しい瞳を見て段々と意識が鮮明化する。
……とりあえず、ローズに聞いてみることにするか。
「……『七曜星天』?」
なんだその無駄にカッコよさそうなスキルは?
いや彼女が自分自身で言っていたし、ローズの持つスキルだという事は分かる。けど『森羅万象』で数々のスキルに触れてきた俺でもそんな名前のスキルは聞いたことも無かった。
「『七曜星天』……それが
……うん、なんだ七曜って?月曜火曜水曜とかの曜日の事?でもそんな訳ないよな。そもそもこの世界には曜日なんて概念が無いし……うむ、全く意味がわからん。
「七曜ねぇ……とりあえずはよく分からないけど、今その話題がでてきたって事は、」
「はい。麗乃様がマルファスに入るための変装。それがこのスキルを使えば楽々と行うことが出来ます」
やはりそうか。……って、簡単に言っているけどこれ結構凄いことだからね?スキルの能力で自在に容貌を変えることが出来るのならばやりたい放題だし。
犯罪を人に押し付けたりする事だってできる……スキル一つで他人の人生ハチャメチャにできるよなぁ。『記憶操作』と同じぐらいやばい。
スキルを使うというのは盲点だった……と言うよりかはそもそもそんな変装スキルが存在している事に俺は驚いている。
こんなタイミング良く都合よく俺の前に現れるなんて。……というかまさかだけど、ローズの許可を出してるしこれで俺の逃亡生活もようやく終わる系?
「……ちなみに効果の方は?」
ここ重要。能力の質が悪ければ昔の俺みたいにすぐに見破られてしまうだろうが……。
俺が恐る恐るそう問いかけると、ローズは微笑みながら口を開く。
「百聞は一見にしかずと言いますし、是非見てください……《
その瞬間ローズの周りの空気がぐにゃあ……と歪む。……いやこれは空間が、世界が歪んでるのか?
そしてローズが世界というモヤに包まれて……ようやく開放される。
俺の視界に映るのは、相変わらずの整ったローズの綺麗な顔。その丸みを帯びた綺麗な瞳に筋の通った鼻、小さな口に白い肌……顔のパーツについては特に何も変化していない。が、唯一彼女の髪の毛の色が変化していた。
黄金色から桃色へと。
……やばい。やばいやばいやばい。凄すぎる。え、人って髪色が変わっただけでこんなに別人になるもんなの?髪染めたことないからわからんけど。
俺がここまで驚く理由。それはローズが全くの別人に見えた事と、あまりにも完成度が高すぎたことだ。
今言ったとおりもはや別人。相変わらず綺麗なのは変わらないけどそのベクトルが全く違う。
これまでは黄金色とあって凛とした美しさだったが、桃色になった事で柔らかな美しさになっていた。……なんか変態チックなこと言ってるよな俺。
……まぁとにかく何が言いたいのかというと、あまりに完成度高すぎてやばいという事だ。ごちゃごちゃ言ってすまん。
髪の芯まで色素が変化しているというかなんというか。とりあえず本物にしか見えない。
「……す、凄い。髪色だけでここまで変わるとは、このスキルを使えば、俺も堂々と街に入れるようになるのか……?」
「恐らくは。人というものは髪型髪色一つで大きく印象が変わりますからね。ただでさえ記憶に残りにくいほどのフツメンである麗乃様から黒髪を無くせば、もうそれは別人でしょう」
だからなんでこの子は余計なこと言うかなぁ?
というかフツメンとか百聞は一見にしかずとかなんで知ってんの……と思ったが、まぁ他の転生者転移者がこの世に広めたのだろう。クソ余計なことしてくれやがって。
「そうだな……とりあえずどんなふうにしたら良いと思う?」
「そうですね……ここは単純に白髪でどうでしょうか?」
「白髪か。まぁ少し老けて見えるような気がしないでもないけど、この世界じゃ特に気にされないし……それにするか。色鮮やかな髪の毛の中に白色が混じってたって、あんまり目立たない……と思うし」
とりあえず、俺は『森羅万象』で解析し終わったローズのスキル『七曜星天』を使用する。これはスキルが複雑な回路であるほど解析に時間がかかるものなのだが、『七曜星天』あまり複雑なものでは無かった。
……だがしかし解析結果にはどこか違和感を感じるな。エネルギー換算した時の総量が半端じゃないし……解析自体ははできたけどなんというか、
「おぉ……?」
とまぁそんな事を考えているうちに、スゥッと少し違和感を感じた。
……やべえ、どうなってんだ?鏡とか持ってないから自分の髪の毛の様子とかよくわからん。一応目にかかる程度には俺の前髪は伸びてるけど……それでも意外とよく分からないものだ。
「……どうなってる?」
俺の問いにローズは答える。
「……ええ、ええこれは予想以上ですね。白髪もそうですけど眉や瞳まで白色になっているので、元の面影もありませんよ。正直、ここまで変化するとは思いませんでした」
彼女の反応からどうやら成功したようだ。それもかなり上手く。……クソ見てぇ。見たすぎる。思わず言葉がおかしくなってしまう程度にはな。
……ん?というか瞳と眉毛まで?
「あれ?眉と瞳の色は特にイメージしてなかったんだが……どうなってんの?」
こういうスキルなんかは使用者の持つイメージが効果を左右するのが定番だ。
俺が先程イメージしたのは髪の毛だけ。それなのに瞳と眉まで色が変わっているというのはどういう了見だろう。
「あぁ……おそらくは無意識の内にでしょうね」
「無意識?」
「はい。私のスキル『七曜星天』は普通のスキルよりも神性が高いので、少々特殊であるのですよ」
……神聖って何?
「神性とは、要するに神様の力の事です。神性が高ければ高いほど、そのスキルには強力な能力が秘められている事が多いですね」
ローズのその説明を聞いて、俺は自身の無知さを恥じるしかない。スキルというのは高位存在である様々な神々の力の欠片であるのだが……どうやら強力になればなるほど高い神性を含んでいるらしい。
身近な例でいえば俺の『森羅万象』エルザの『剣聖』そしてローズの『七曜星天』などである。
その域になると一部(欠片)ではなく、神の力と同等と考えるのが分かりやすいのだとか。……ただまぁ神の力を持っていると言われても、ローズの『七曜星天』は基本的には戦闘用能力では無いらしいが。どちらかと言えば支援型。サポートに特化してるんだって。
「……と話を戻しますが、『七曜星天』はその中でも特殊中の特殊なのです。今、スキルを使ったことで麗乃様の髪の毛が白髪になりましたが……それは実際に変化している訳ではありません。
「……世界を、騙す?」
なんかとんでもないスケールの話になってきてないかおい。……どうやら一応、『七曜星天』はスキルという分類ではあるらしいのだが、その根本的な基盤が普通のとは異なるのだとか。その事についてローズは説明し始める。
「通常のスキルは、所有者の魔力でこの世界の法則を改変する事でその能力を発揮するのはご存じですか?」
「あぁそれは知ってるぞ。魔力で物理法則やなんやらを一時的にねじ曲げているとか何とか」
「そうです。……しかし『七曜星天』は少々異なり、法則を改変するのではなく、世界にそう思い込ませる事で能力を発揮するのです。強力な催眠能力と言えばよろしいでしょうか?……そして、それはつまりこの世界に住む私達も連動して騙される事になるという事になります。外界からの観測では、麗乃様の髪の毛は未だに黒髪のままであるのですよ。しかしこの世界にいる限りは催眠によって誰もそれを観測することは出来ず、あたかも白髪に変化しているようにしか見えないという事ですね」
「スキルの対象はあくまでこの世界自体であって……俺達は間接的にその影響を受けているという訳か。……そこが普通のスキルとは違う点だな」
……なんともまぁ、分かりにくい上に難しい説明だが時間があれば何となく理解は出来た。
鉛筆と消しゴムの関係が1番分かりやすいだろうか。
漢字の一を修正して二を書くとイメージしてくれ。
鉛筆で書いてある一を消しゴムで消し1度白紙にした状態でまた二を書き直す……これが普通のスキル。だけど『七曜星天』は消しゴムを使わない。もうひとつ鉛筆で棒を付け足して二にする様なものだろう。
はぁぁ……自分で言っててもよく分からんが、とりあえず消しゴムを使うという労力が減る分、様々な利点があるのだとか。例えとしては、──『森羅万象』は例外として──そもそも基盤から異なるので、解析スキルなんかによる分析などは極めて困難であるらしい。
うん。まぁそれ知ると改めて『森羅万象』のチートっぷりが理解できるな。『困難』と書いて『らくしょう』とルビを振りそうになった危ねぇ。
「……よく分からんけど、とりあえず『七曜星天』は普通のスキルとは違う。世界を騙すという大規模な能力故に俺のイメージが無意識の内に拡張されたから、眉や瞳の色まで変わってしまった……そういう事だよな?」
「はい。恐らくは」
かなり強引なこじつけであるとは思うが、どうやらそれが真実なようで……ローズはこくんと頷いた。
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