第34話
(『身体強化』『思考加速』『感覚操作』……)
「うらぁっ!!」
俺と肉ダルマ君……いやここからは戦闘展開ともあり
俺と彼が行動をしたのはほとんど同時と言っても良かった。
ふくらはぎや太ももの濃密な筋肉を総動員し、凄まじき速度で俺に突撃をかけてくる。
だがしかし俺は瞬時にスキルを発動させて、ありとあらゆる身体機能を強化した。
これにより俺から見たデイモンの動きも非常にゆっくりとしたものとなる……ってあれ?これもう俺の勝ちゲーじゃね?
俺はハッと何かに気づいたかのような表情で、驚愕から少し固まる。……分かっちゃった。
この頃になってもようやくデイモンは数十センチほど移動した程度だし……正直、今俺が急所に蹴りでもなんでも攻撃すれば一撃でノックダウンであろう。
……嘘でした。巫山戯る余裕がないとか言ったけど、完全なる誤算。巫山戯る余裕しか無かったね。
……なんか萎えるなぁ。これぞ最強ゆえの悩みか。
(……さてさて、こいつどうしようかな)
俺をバカにした報いを受けてもらうのは既に決定してるけど……なかなか良い案が思いつかないな。
俺はモノクロの世界で思考を引き伸ばしながら、ゆっくりと考える。
……とりあえず戦いながら考えるか。そっちの方がなんか良い案が浮かびそうだ。
そのように考えた俺は『思考加速』により加速している思考の引き伸ばし具合を少し控えめにしようと努力する。
すると、(俺から見て)限界を超えた過負荷を掛けたかのようにデイモンの動き一気に加速した。
「……んだとぉっ!?」
だがしかし空気ごと吹き飛ばすかのように振るわれたラリアットを、俺は余裕をもって身体をのけぞらせることで躱す。
ほほほ、遅い遅い。というかやっぱ身体強化系統スキルの重ねがけはものすごく強いな。加法ではなくて乗法が用いられているのだから、今の俺の身体能力は素と比べて約百数十倍となっているのだよ。
「一丁前に避けてんじゃねぇぞ、くそがァっ!!」
「おいおい単細胞になるなって。脳筋の動きほどわかりやすいものは無いぞ?」
ボボボボッ!!と何度も俺目掛けて拳が突き出されるが、その尽くを俺は軟体生物の如くニョロニョロとした巫山戯たような動きで避けていく。
時折肉ダルマ君に近づいては、軽く小突くように蹴ったりビンタしたりして弄びおちょくる。
「うぎゃ!」とか「ぎぃっ!」とか、血管を浮き出し怒りに狂いながら反応するのが地味に面白いな。
『な、なんだとぉっ!!早すぎて何が起きてるのかわからねぇがっ、だがしかしあのデイモンが、王者が一方的に弄ばれている風に見えるのは俺だけかっ!?』
「え……ど、どうなってんだ!?あの少年がデイモンを押してる……のか??」
「嘘……は、速すぎてもはや残像しか見えてないんだけど。……ほんとに人間か、あいつ?」
「……す、すげぇけど……いや、あの坊主何者だよ」
この頃になるとようやく実況や観客達もおかしな事になっているという事に気付いてきたようだ。何度も目を擦りながら、皆一様に驚愕の表情を浮かべていた。
というか俺的には拳が振り出される度に飛び散る汗の方がキツイ。
野郎の汗なんて、皮膚に触れただけで多分蕁麻疹出る。そっちの方に意識を傾ける方が俺にとっては重労働だった。つまりは肉ダルマ君は自身の汗以下の存在という事になる。なんか可哀想。
「はっ、はあっ、はぁっ、はぁ……っ!!」
……そろそろ限界か?というか脳筋なのに体力ないのは不味いだろ。
「チッ!くそキモイ動きしやがって!どうなってやがんだ!?この俺様が、こんな糞ガキなんかに!!」
やけくそに放たれる、身体を回転させることによって威力を増した裏拳を俺は低姿勢になることでタイミング良く避ける。
ちなみに俺が攻撃に転じないのは、どの程度世界を刺激しすぎる事で『七曜星天』の変装が解除されるのか、ギリギリのラインを見極めたかったからだ。
「ほらもう降参しちまえよ。このままじゃ、お前は大衆の前で無様に負けることになるんだ。プライド高そうなお前にはきついと思うけどな」
そんな忠告をする俺って相変わず優しいな。
身体を動かしながらそんな事を考えていると、肉ダルマ君は激しい動きで辺りに汗を撒き散らしながら、しかし何故か不敵な笑みを浮かべた。
……なんだ?
と、眼前を肉ダルマ君の汗臭い蹴りが通り過ぎる。
おっとあぶねぇ。さすがに戦闘中に動きは止めるものじゃないな。
「俺を本気にさせた事を後悔するんだな小僧!!本気を出してやる、俺のスキル『剛腕』でてめぇをひき肉にしてやる、よっ!!」
その瞬間、奴の腕に淡い光が纏われた。
おそらくはスキル『剛腕』というやつであろう。
……おぉ、まだ本気じゃなかったのかこいつ。
ならばもう少し楽しめそうかも……なーんて思ったのだが、
「って、なんにも変わってねぇじゃねぇかよっ!?」
「ぎゃああああぁぁっ!?」
俺は期待外れにも程からある、という言葉を込めてついにデイモン……肉ダルマ君に攻撃を、思いきしからの頬をぶち抜いたのだった。
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