第12話

 ──あ、あっぶねぇ!思わず惚れてしまいそうだった。よくぞ踏みとどまったぞ俺。


 あまりの優しさに俺の心はローズに傾きかけていた。……しかし、そこで俺はハッと現実に戻る。


 SSSランク犯罪者として世界から狙われている俺に好意を寄せられてもローズに迷惑をかけるだけだろうというふうに。


 もちろん彼女は優しいので露骨な反応は示さないだろうが……彼女を困らせるのは俺としてはとても嫌だったので、何とか根性で踏ん張って冷静を装うことにした。


「──さて!とりあえずこの話題はこれまでにしようか。君のおかげでとても元気が出たし」


 めちゃくちゃ露骨な話題変換だなおい。自分でやっていて悲しくなる。まあ一年前まではこんなテクニックとは無縁のただの高校生だったので仕方ないといえば仕方ないが。


「ローズ……あぁ、呼び捨てにしても大丈夫?」


「はい」


「ローズはどうしてここに?この辺は人が滅多に来ないことで有名だし……君を見つけた時はとても驚いたよ」


 いくら護衛の騎士が居ようとも、わざわざなんの理由もなくこんな所を通るわけが無いだろう。

 魔力を取り込みすぎた結果、突然変異によって強化凶暴化された生き物……つまりは魔物がこの辺には跋扈ばっこしている。

 俺ならまあ余裕で勝てるけど……そこいらの騎士や冒険者ではここら辺のレベルのと連戦するのは厳しいと思うし。


「全て、私の我儘なんです」


 そんな言葉から始まり、彼女はポツポツしんみりとした様子で言葉を紡ぎ続ける。


 ローズのその言葉に俺は初めはよく意味を理解できなかったが、彼女の心情や状況を聞いていくうちにそれは理解した。

 ……それにしてもやっぱり責任を負いすぎだろう。そりゃ死んだ事自体は喜ばしいことではないけど……でも美少女守って死んだんだ。騎士達も本望だろ。少なくとも俺ならそう。


 俺がそんな考えを伝えると……


「……ふふふ。麗乃様は面白いお方ですね。……彼らもそう思ってくれているのなら、少し気持ちが楽になったような気がします」


 うん。多分いや絶対思ってるから。悪いが女性には野郎の気持ちなんて分からない。可愛い女子の前では格好つけたがる性を持つ男子のことはな。


 まぁつまり俺が何を言いたいのかというと、ローズに責任は無いから気負いすぎないで欲しいという事だ。


「……それにしても、ローズも災難だったな」


「え?」


「こんなタイミングよく盗賊に襲われるなんてって事。たまたま今回は俺が居たから良かったけど……君みたいな子があんな奴らの都合で汚されそうになるなんて虫唾が走る」


 俺はまるで路傍の石を見るかのような目付きで……およそこの場から百数十メートル離れた、未だに冷凍人間になっている彼らを見る。

 俺のスキルで全身氷漬けにされているが……実はまだ彼らは生きている。これは俺の日本人精神が発揮し殺生を避けたかったのと……彼らには少しでも苦痛を味わってもらうためだ。


 ……ぐふふ。全て計画通り。


「ただ安心して欲しい。もう二度と君を襲うこともないだろうし、それに彼らには丁度今お仕置きしているからさ。君を襲った事を後悔するぐらいに」


「……お仕置き、ですか?」


 よく理解ができていないようで、彼女はこてんと首を傾げながら、可愛いらしい様子で俺に問うてきた。

 ……ああそう、お仕置だよ。スキル『森羅万象』を用いた、ね!!


「俺が彼らを凍らせたのは、ローズも見てただろ?」


「ええはい」


「その時使ったスキルは六つあってね。『氷結操作』『魔力操作』『威力強化』『冷気操作』『耐久強化』『冷凍保存』って言うスキルなんだけど──」


 俺はまずはスキルについての説明を始めて……そして、そのスキルを組み合わせるとどのような効果を発揮するのか説明していく。

 その説明を聞いて段々と複雑な表情をしていくローズだったけど、やっぱり美人はどのような表情でも美人だった。

 ……というか、自分を襲った相手さえも心配するとかマジ優しすぎ。もはや甘いというレベル。


 ……本題に戻そう。説明としてはこうだ。


 まず『氷結操作』と『冷気操作』で無から大量の氷を生み出して、彼らを氷漬けにする。ここまでは良いよな?まぁ『魔力操作』と『威力強化』も言うまでもないと思う。だってまんま名前の通りだし。


 ……そして、俺は『お仕置き』と言った。それに使われるのが残りの二つのスキル『冷凍保存』と『耐久強化』である。

 特に『冷凍保存』……これがミソだ。


『冷凍保存』……これもある程度名称から予測することが出来るだろう。対象の肉体を冷凍保存するという事だ。……つまりどういう事?つまりは氷中に限るが冷凍保存する事で、氷によってのダメージをゼロにする。


 地球ではたしか現代医学では解決出来ない病気を持つ人なんかを冷凍保存し未来の技術に任せる、みたいな感じのものがあった気がする。

 ただ……このスキル『冷凍保存』は、それとは少し違う。簡単に説明すると『冷凍保存』の影響は肉体のみに限るので、精神は時間とともに普通に覚醒するという事だ。何をすることも出来ないが意識だけはしっかりとある感じ?


 ……つまり、どういう事か分かるかな?


 彼らは今、身体の全身の皮膚に氷がまとわり付いている状態だが……肉体は損傷しないので氷が溶けるまでの間、ずっと凍傷なんかによる痛みを味う事になるのだ。

 しっかり痛覚はあるので……それはそれは酷いことだろう。分厚いく冷たい氷が阻害し、指先一本すら身体を動かすことが出来ない。だから傍から見れば、氷の中で意識を失っているように見えても、実際のところはとんでもない激痛に彼らは苛まれるのだ。


 ……多分そろそろ意識が覚醒する頃だと思う。


 あぁ言い忘れてた。『冷凍保存』の能力で、呼吸や瞬きなんかの心配もいらない。だから舌を噛み切ったりの自殺も出来ないのだ。あと飲食も排泄も。肉体の時間が止まっているという表現が最も近いな。


 その上追い打ちをかけるのが『耐久強化』である。先程も言った通り所詮は氷なので太陽に照らされ続ければいつかは溶ける。

 ……まあそこで『耐久強化』の出番なのだが。このスキルで氷自体の耐久度を上げたので、彼らが開放されるまでまだまだ時間がかかるだろう。


 全身の感覚が無くなるほどの激痛に苛まれるという地獄のような時間を、問答無用で長時間彼らに過ごさせる。……これが俺が考えたお仕置きだった。


「……SSSランク犯罪者の力舐めんなってんだ」


 多分この時の俺は彼らよりも下衆な笑みを……とてもおぞましい笑みを浮かべていたと思う。まぁ女性を無理やり犯そうとした彼らの自業自得であるのだが……しかしこう見ると俺本格的に悪党だな。


 ただ、耐久力を上げたところでそれは無限じゃない。数日か数十日か……いつかは氷が溶けるだろう。

 その時に彼らがどのようにするのか。まぁ冒険者ギルドに自首するのは決まっているけどその時にしっかりと罪を悔い改めて、反省がされているのかいないのか。


 俺としては、是非前者を期待したいところだな。

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