第38話
俺はスキル『空中歩行』を用いて、空中を蹴りながら黒の外套を身に纏う謎の集団を追っていく。
そんな事もあって、感謝祭を楽しんでいる人達が俺達の様子を見て驚愕や困惑の視線を向けてきたが……正直、今はそんなことどうでも良い。一刻も早くローズを取り返さなければ!!
「ふっ!!」
様々な身体能力系統スキルを用いているので、パラメータで表せば今の俺の身体能力の強化倍率はおよそ数百倍にまで増加していた。
ぐんぐんと奴らとの距離を詰めていく俺。このままいけば、あと10秒としないうちに追いつくだろう。
「──『演算』『炎熱操作』ッ!!」
まず狙うは奴らの中でもローズを抱き抱えている……恐らくは男。もちろん、奴らは俺のように空中を歩くことなど出来るはずも無いので、建物や露店、街灯なんかを経由して移動していた。
不規則な動きとあり動きが予想しにくかったので、俺はスキル『演算』で奴らの動きの予測経路を立てて……それに従い男目掛けて数十本の炎矢を発射した。
「レノ様っ!!」
「待っててくれっ、そして安心しろ!!今すぐに助け出してやるっ!!」
何故、ローズを狙うのかは全く定かではないが……しかし俺からローズを奪う輩を野放しにすることなどできない。必ず報いを受けさせる!!
だが先程も言った通り一人一人がなかなかの手練。後ろを振り向いていないにも関わらず、初弾の炎矢を回避する。
……が、計算され尽くした軌道で迫り来る矢を全て回避するのは不可能だったのか、ローズに当たらない程度に炎矢が爆煙を上げ……
「ぐぅ……がああぁぁっ!!」
熱さに耐えきれなかった男はぐらりと体勢を崩し、大通りに落ちていった。
先程まではのびのびと平和だったはずなのに……人混みの中に大怪我を負った一人の男が突っ込んでいく。……その事実は争いとは無縁の一般市民を恐慌させるには十分だった。
「きゃ……きゃああああああぁぁぁっ!!!」
「ひ……人がァ!!な、なんだ!?上から落ちてきて……ひっ!!誰かが上で戦ってるぞ!?」
「逃げろ逃げろーーっ!!訳わかんねぇけどっ、このまま俺達まで巻き込まれちまう!!」
すぐさまパニック状態となり、俺達の戦いから逃れようと一斉に様々な方向に逃げ出そうと走り出した。
……実際のところは阿鼻叫喚の絵面だ。
人がほかの人を押しのけ、場合によっては怪我を負わせたりしている。まぁ……一応警備兵や衛士が混乱を収めようと動いているので時間の問題ではあるだろうが……しかし都市機能の幾つかは麻痺したと言っても良いだろう。
そして悪いが、俺にとって、今はそれよりもローズの方が優先される。知らない一般市民を気にかけている余裕などはなかった。
「チッ、くそっ!!認めたくないけど上手い!!」
一人一人に対処するのはそこまで難しくない……というか簡単だ。だかしかし、その連携力には目を疑うものがあった。
なんというか……意思疎通が上手いのだ。やられると悟った瞬間に、ローズを大きく投げ他の者にパスするぐらいには。
「『水流操作』『烈風操作』ッ!!」
今度は二重詠唱。素早く空気を蹴る俺の周りに、数多くの水矢と風矢が展開される。
……そしてそのままの動きで、一斉射出。
「ぐあああああぁぁっ!!!」
「ぎゃああああぁぁっ!!!」
高圧水流の水矢と鋭利な風矢が何人もの黒の外套を纏う影に命中し、大地に落としていく。
……だがしかし、相変わらず何故かローズだけはその命に変えても死守しようとするので、俺は苛立ちを隠しきれない。
一体こいつらは何者で、なぜローズをさらおうとするのか。そしてやはり、数が多いと面倒臭い。
「……『黒鎖』ッ!!」
ここで俺は攻撃方針を切り替える。攻撃系スキルで倒すのでなく、『黒鎖』で捕縛しようと考えたのだ。
正直、俺は『森羅万象』で解析したスキル完全に制御できていない。だから攻撃系スキルでは地上の建造物や都市機能にダメージを与える恐れがあったのだ。
だがしかし『黒鎖』ならその心配も要らない。辺りに配慮しつつ、ローズを取り返すにはこれが俺の考える最善手であろう。
「厄介だがっ……このままいけばっ!!」
『黒鎖』に捕まった瞬間、デバフにより身体が上手く機能しなくなる。1人、2人、3人と鎖の餌食となっていき……残りは黒い人影は既に十数人ほどまで減らすことが出来た。
距離的に考えて十数メートルも近づけばローズを取り返せるだろう、そんな事が分かり希望を見た瞬間。
「……なんだ、これは」
先程までは太陽が地上を照らしており、とても強い日差しを感じることが出来ていたのだが、いつの間にか黒雲が立ち込め上空を覆い隠していることに俺は気づく。
暗い。薄暗い。稲妻や紫電まで発生している。
「天候操作系統のスキルか?いや……でも、それにしても移り変わりが早すぎる」
俺は訝しみを隠すことが出来ない。
そんなことを考えながら『黒鎖』を操作していると、不意にローズを抱き抱えている黒い男が呟いた。
「ちっ……厄介だな。追いつかれるか。……計画より少し早いが、ここで
すると男は懐を漁りだして、少しした後1つの真っ黒の丸いオーブを取り出した。一見しても、歴史的価値や芸術的価値などを感じさせるという事はない。
ありふれた、どこにでもあろうビー玉が漆黒に塗りつぶされているだけだ。
たが……なんだ?俺の本能がちりちりと警告を促している。アレは危険だと。起動させてはいけない!!
「……『限界突破』ッ!!」
ここまで来れば、もう決着も着いたも同然だ。
俺は身体機能のリミッターを一時的に外し、音速を圧倒的に超えた速度で無数の黒い影に迫る。
「レノ様ぁっ!!」
「ローズッ!!」
そしてそのまま小さな黒いオーブを奪おうとすると同時にローズに手を伸ばす。
ローズはその瞳から、大粒の涙を流しながら俺の手を掴もうとし……そして、あと数十センチ程で触れ合うと思ったその瞬間、オーブが砕け……次の瞬間、
「……っ!!?」
──轟雷と共にこの大都市マルファスが揺れた。
比喩ではなく現実に、だ。というか明らかに普通の揺れではない。空気が震撼するほどに強烈だったのだ。……そしてそれが、俺とローズの触れ合う手を阻む壁となった。
「……くおっ!!」
一種にだけ体勢を崩してしまう……が、強化した身体能力で強引にそれを立て直し再度ローズを追おうとする。
今の一瞬の出来事により、ローズとの距離を離されてしまったがまだ挽回は可能だ。そう思った俺は人としての限界を超越した動き出しで距離を詰めようとしたが……。
「……は?……なんだ……あれ」
次の瞬間、俺は絶望的な表情でその足……いや動きを止めてしまった。
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