第13話

「……それにしても麗乃様は、とてもお強いのでございますね」


「……え?あ、ああ」


 考え事をしながら思わずぼうっとしていると、隣で楽しそうに座るローズがご機嫌な様子でそう聞いてきた。

 故に少し反応を返すのが遅れてしまう。なるほど彼女は俺と盗賊達の戦闘を見て、俺の力に興味を示しているらしい。


 ……というか、先程から思っていたのだけど俺の顔って意外と知られていないのか?

 盗賊達の殆ども知っているのは名前だけだったし、こうして今話をしているローズだって盗賊が告白するまで俺が東雲麗乃だと気づいていない様であった……今まで構えていた分なんか調子狂うぞ。


「なぁ、聞いても良いか?」


「はい、何でしょうか」


 ローズはその整った顔に微笑を浮かべてそう答える。


「一般的に俺、つまりSSSランク犯罪者東雲麗乃ってどんなイメージを持たれてるんだ?一応俺は街や都市には顔を出せない身だからそこら辺よくわかっていなくて……」


 俺が人が集まって形成されている都市なんか足を踏み入れたのはこの世界に転移してきてから一度しかないと記憶してる。

 それも転移してから初期のことでなので俺が指名手配される前だし……ああ、一年前のことがすげぇ懐かしい。


「そうですねぇ」


 ローズは顎に手を当てて足を組む。……まるで『考える人』みたいなポーズだなおい。女子がそんな野蛮なポーズしちゃいけません!!


 内心でそんなことを考えたが邪魔をしないように俺はただ黙る。……結構長い。え、そんな考えることなん?


「……詳しいことはよく分かりませんけど、言い方は少し悪くなりますが、多分普通の平民の方々は麗乃様の事などはどうでも良いと思っていると思いますよ」


 ……どうでも良い?この世界で一応、泣く子も黙るSSSランク犯罪者なんですけど俺。俺の名前を聞いただけでビクビク怯えるのが普通ぐらいだと聞いていたんだけど。ちなみにソースはエルザ。


 ……いややっぱりこの時点でダメだな。今考えれば、脳筋エルザからの情報など信用出来んだろ。というか何故今まで俺はその情報を信用していたんだ?


 自分の事なのに、とても疑問である。


「……そもそも麗乃様の似顔絵を見ても、そのまま顔を記憶しておられるのはそう多くないのではないでしょうか?なんというか……余りにも顔立ちが普通で平凡すぎて特徴が無いというか、数回見た程度じゃ覚えられないというか……」


「それは言い過ぎだろ!!」


 この美少女、さりげなく俺の事をディスってきた。

 いや確かに俺はフツメンだけどさぁ、それでも特徴が無さすぎて覚えられない程!?そんなに!?


 ショックを受ける俺を見て「記憶力に自信がある方ならば話は別でしょうが」とローズは付け加えくるが……いやいや全然フォローになってないから。


 つまりあの盗賊達の殆どやローズが俺の顔を見ても初めはなんとも思わなかったのは、そのせいだと?……いやマジで泣きそうなんだけど。喜ばしい事の筈なのに何故か全然嬉しくねぇ。


「……それに確かに麗乃様は指名手配されていますけど、特にこれといって何をしたというのが無いのですよ。王族を殺しただとか、国を滅ぼしただとか……そういうのが全く」


 ただそれは俺にとってなかなか嬉しい事実だった。

 これでデマなんかが流されたりしていたら、かなりややこしい状況になっていただろうから。


「……一つ質問をしても宜しいでしょうか?」


「……え?ああ別に良いけど」


 するとローズがおずおずと片手を上げた。これまでの経緯もあって俺は彼女の事を信頼し始めている。どんな質問かは分からないが、別に拒む理由などはなかったので肯定の意を示す。


「麗乃様は何故SSSランクという高危険度の犯罪者として指名手配されているのでしょうか。こうして話をしていると分かりました。貴方様はとてもお優しい心をお持ちになっているのに……」


 切なそうにフルフル震える姿がまた可愛い。というか俺の事を心配してのその質問に思わず涙ぐみそうだ。


「……俺が、SSSランク犯罪者に認定されている理由か」


 まぁここまでの彼女の話を聞いていると、一体なぜ俺がそんなものに認定されているのか気になるも当たり前だろう。SSSランク犯罪者とは生半可には認定されないのだ。


 SSランク犯罪者はこの世界に十数人ほど居るらしいが……ひとつ上の最高位。その理由の一片も明らかになっていない俺なら尚更だろう。


 ただまあ別に自分から積極的に話そうとは思わないが、しかし別に絶対話したくないという訳でもない。特に秘密にすることでも無いしな。


 だから拒絶する理由がない。……ローズの問い。その答えを紡ぐために俺はゆっくりと口を開く。


「俺がなんでSSSランク犯罪者に認定されたのか……その理由を知りたいなら俺の過去の話をする必要がある。……つまらない話だけど、それでも聞くかい?」


「はい」


 即答。好奇心旺盛……というかこれは俺の事を知ろうとしているのか?どのような理由かは分からないが、まぁ俺が話をするのには変わらない。


 本当に、本当に馬鹿馬鹿しい理由だ。聞くんじゃなかったなどと思うかもしれない。

 俺は確認として、そのような事をローズに伝えたが……しかしそれでも彼女の答えは変わらなかった。


「そうか……なら教えるよ。俺がSSSランク犯罪者として指名手配されている理由。……それは元を辿れるととある一つの事件に行き着くんだ」


「はい」


 俺は当時のことを思い出しながらゆっくりと喋る。相槌を打つローズ。真剣に俺の話を聞いているという事が分かる。


 かなり真面目な話だと受け止めているのかローズは緊張感を含ませた雰囲気を滲ませていた。


「それは……」


「それは?」


「その事件とは……」


「その事件とは?」


 ローズはオウム返しのように俺の言葉を復唱する。多分今彼女の頭の中では、俺では考えもつかないようなとんでもない理由を想像しているのではないだろうか?

 どんな真実でも受け止める、そんな様子がみてとれる。


 こんな俺にここまで真摯に向かい合ってくれる。

 本当に良い子、なのだが……ごめん。多分今から俺はローズの考えを全てぶち壊す。


「────食い逃げだ」


 キリッという鋭い目付きに加えて真面目ですよオーラを醸し出しながら……しかし俺は口ではそんなふざけた内容の言葉を口にする。……いやぁ凄いね。内容がこんなのでも、雰囲気でそれっぽくなるんだからさ。


 俺のその言葉を聞いてローズは「はい」と真剣な様子で頷いてから、その後直ぐに「………………え?」と呆然とした様子で答えた。


 彼女は自分の予想を裏切るようなその内容にただ唖然とするしかない。


 ……だから言ったじゃん。めっちゃ馬鹿馬鹿しい理由だよってさ。

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