第19話

光聖剣の斬撃クルシェルマエクスッ!!」


 それと同時に俺が聖剣を振るうと、やっと少し調整できるようになった光の斬撃が大地を切り裂きながら放たれた。

 それはまさに刹那の出来事。


「ブモオオオオオォォォッ!?」


 閃光が体長およそ2mの豚頭を持つ魔物、オークを脳天から真っ二つに切り裂く。あまりの速さにオークは反応すら出来きずに大量の鮮血を撒き散らしながら、絶命した。

 ……うへぇ、汚ねぇ。オークの血って青色なの?


「……流石、とてもお強いのですね」


 戦闘が終了すると、少し離れた位置でこちらの様子をうかがっていたローズがてくてくと歩いてきた。

 そ、そうかなぁ?そんなに褒められちゃうとお兄さん調子乗っちゃうぞ。


「そ、そうか?」


「はい。オークはベテランの冒険者でも楽々とは勝てない魔物と言われていますし。それを一撃で倒してしまう麗乃様は凄いですよ。……それはこの5日間でよく分かりました」


「……まぁこちとら一応SSSランク冒険者だからな。さすがにこんなのはどうって事ないよ」


 俺がローズを盗賊から助けてから、およそ5日間が経過していた。

 既に森をぬけており現在地はマルファスからそう離れていないとある草原である。名前は知らん。


 えーと確か、ローズの見立てが5日って言ってたから……うん、驚く程にめちゃくちゃ順調だな。このペースだと今日中に着きそうだから遅れもないし。

 ……最近は落ち着いてきたけど、それでも3日に1回ぐらいは俺の身柄を求めてくる奴らと戦ってたからな。それで足止め食らうこともよくあった。


 そう考えるとこの変装……いや『七曜星天』様マジで神だわ。


(平穏って……いいな)


 俺はローズから解析した謎多きスキル『七曜星天』で変色させた白髪を弄りながらそんな当たり前の事を考えた。


「……とりあえず行こうか。もうマルファスの近くだしそう魔物は出ないと思うけど、早く移動するに越したことはないしな」


「そうですね」


 とまぁそんなわけでオークをスキル『炎熱操作』でこんがり焼いて豚の丸焼きにしてそのまま放置。

 ゾンビやグールになる心配をなくし、そのままローズとそそくさと歩き始めたのだった。


「それにしても麗乃様は『剣聖』スキルまでお持ちでしたのですね。となると……エルザ様とご知り合いですか?」


 お、ローズ知ってるのか……って、エルザ様?まさかあの脳筋ゴリラと知り合いなのか?


「ろ、ローズ……君こそあのエルザの知り合いか何かなのか?」


 俺が口角をぴくぴくさせながら聞くと……


「?いいえ、せいぜい社交パーティーで数回話したぐらいですね。エルザ様は私のことなど覚えてらっしゃらないでしょうけど。でもとてもお優しい高潔な方であった記憶はあります」


 その言葉を聞いて俺は目に見てわかるほどに安堵する。

 よ、良かったぁ。もしエルザとローズが友達であったりしたならば、脳筋が移る。マジであの人種はエルザだけで十分だから。


 ……っていうか高潔?優しい?何処がだよ。出会い頭に光聖剣の斬撃クルシェルマエクスバンバン打ってくるような奴なのに。

 あれか?他では猫でも被ってんのか?


「剣聖……いやエルザって有名なのか?」


 何となくそんなことを聞いてみたり。


「そうですね、僅か17歳で剣聖の称号を与えられたエルザ様ですから……この世界すらで知らない人などは居ないでしょう」


 ただまぁ、何となくそれは理解出来た。

 公爵令嬢のローズでも知ってるんだから、エルザが有名でないはずがない。……俺と良い勝負するぐらいかな?


「剣聖ねぇ……」


「どうかしたのですか?お悩みのようですけど」


 おぉ、ローズちゃん分かってくれるか。これぞまさに以心伝心?お互いのこと丸わかり相性抜群ってか!?……すいません嘘です調子乗りました何言ってんだ俺。


 ……ご、ごほん。話が脱線したな。とりあえず真面目に話そう。


光聖剣の斬撃クルシェルマエクス見たろ?ビューって光の斬撃を飛ばす奴。……あれってどちらかと言えば『剣聖』というより『聖騎士』って感じだなと思って」


 なんで剣聖が光を操るんだよって突っ込みたい。まさかボケてんのか?光って言ったら普通『勇者』とか『聖騎士』だろうに。

 俺のその言葉にローズは苦笑する。


「確かに麗乃様の気持ちもわからなくは無いですが……それは私達にはどうにも出来ませんよ。スキルの本質を変えることは出来ませんし」


 ちょくちょく増えてきた建造物や明らかな人工物を眺め歩きながらローズ話す。


「……まぁ別に使えるし良いんだけどさ」


 ただ少し矛盾を覚えただけなので、別に正直どうでも良い。『剣聖』とだけあって、めちゃくちゃ強いし。


 身体強化も剣聖技もそうだけど、それと同じぐらい状態異常を受け付けないのが強い。毒も、麻痺も、それこそ俺の『記憶操作』すら効かないのだ。

 だからエルザだけは毎回俺の事を覚えている。なんつぅか記憶を操作しようとしても、聖なるバリアで弾かれちゃう感じ?


 まぁ、あいつは何故か俺の事を誰にも話そうとはしないけどさ。


「……むぅ」


 と、チラリと横目でローズを見ると何故か彼女は少し頬を膨らませムクっとしていた。……え、俺なんかしたか?というかやはり小動物みたいで可愛いなおい。


「どうかしたのかローズ?」


 今度は俺がそう聞き返すが……しかしローズはぷいっとそっぽを向いてしまった。

 ……ま、まさかローズから良い匂いがするなぁとか変態チックなこと考えてたのがバレたのか!?いやでもそんなはずはない。というか成人男子のさがなんだ許してくれぇ。


「別に麗乃様がエルザ様の事ばかり話すから嫉妬しているとかそんなんじゃないですからね!!」


 なんかツンデレ混じった?

 そんなことを考えてしまうが、しかし同時に安堵もする。どうやらバレていた訳では無いらしい。まじでローズに嫌われたら俺は生きていけんかもしれん。


「ご、ごめんな。……ほら水でも飲んで落ちつこうか」


「要りませんし誰のせいだと思ってるんですか」


 俺はスキル『水流操作』で空中に無から水流を生み出して、その一部をローズにあげようとするが拒否されてしまった。えぇ……良かれと思っての行動だったのに。

 ……俺の紳士力をもってしてもローズを宥める方法が思いつかない。

 これ、どうすれば良いんだ?

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