第40話

 俺は、大通りにわらわらと集まっているスケルトンを強引に消し飛ばしていく。

 こんな緊急事態なんだから、多少の建物の被害が出るのは許して欲しい!!幸い、避難勧告が発生し、生き残ったマルファス市民はその殆どが安全なシェルターに既に保護されているし。


「グォ……オォ……アァ……」


「『剣聖』──光聖剣の斬撃クルシェルマエクスッ!!」


 俺は迫り来る数体のスケルトンとの頭上を蜻蛉返りで飛び越え……反撃の一撃に『剣聖』スキル派生剣聖技の1つである光斬撃を放った。

 スケルトンは闇属性を内包しているので、光属性のこの技はとてつもなく相性が良い。


「よし……数は多いが、やはり一体一体はそこまで強くないな」


 一瞬で粒子となり崩れ落ちたスケルトンを見た俺はそんな感想を呟く。

 というかどんな声出してんだこいつら?骨だから声帯ないはずなのに……不思議だなぁ。


「……っと、そんな事考えてる場合じゃないだろ」


 油を売っている時間ないので……俺は更に手に握るブロンズソードに光を纏わせてスケルトンを処理していく。俺は正直、魔力の総量だけはずば抜けて多いので……何度もスキルを使っているが、まだまだ余裕があった。


 ……というか先程から連続してスキルを使っているが未だに『七曜星天』の効力が失われることは無い。

 まぁ……それ自体は喜ばしい事なのだが、なかなか見極めが難しいところだ。


「っと!──光聖剣の多連斬クルシェルマイディッ!!」


 突撃しながらブロンズソードで光斬撃を飛ばしていると、いきなりスケルトンが10体ほど俺に斬りかかってきた。

 光聖剣の斬撃クルシェルマエクスでは間に合わないというこで、近接技の光聖剣の多連斬クルシェルマイディに切り替えることにする。


「……グオォ……!!」


 十を超える数の光の太刀がスケルトンを浄化する。

 それと同時に、俺の持つブロンズソードの刀身にヒビが入る。先程から数回ほど剣聖技を使った影響だろう安物の剣では耐えられなかったらしい。


 これは先程、無人の武器屋で拝借したものである。

 奪ったんじゃなくて、借りただけ。(これ重要)


 だから後で返そうと思ってたんだけど……壊れたならしょうがないか。こっちで廃棄しておこう。

 そうしてブロンズソードをポイと投げ捨て……この場でこれ以上スケルトンの相手をするのは時間の無駄か。

 そう考えた俺は『空中歩行』で再度空気を蹴り、スケルトンに「またね!!」と別れを告げると、ウィリアム公爵の屋敷へと急いで向かっていった。


 ◆ ◆ ◆


「『稲妻操作』ッ!!」


 俺は空中に跳躍し、上から一方的にスキルを発動。わらわらと群がるスケルトンをプラズマで粉々に粉々に吹き飛ばし砕いていく。

 俺が放つ紫電が空気中で放電し、乱方向に衝撃を与えていった。スケルトン如きになすすべはなく、一瞬でその機能を停止する。


 稲妻というのは、電気ショックで大きな痺れと衝撃を与えやすいのでなかなか使い勝手が良い。


「……もう大丈夫ですよ」


「は、はい……。あの、ありがとうございます」


 俺は視線を移し、そう問いかける。

 すると崩壊した建物の影から出てきたのは、お腹を膨らました母親と思われる一人の女性と、外見年齢6歳ほどの1人の少年だった。

 どうやら彼女らはタイミングを測り損ねて、逃げ遅れたらしい。そうして危機的状況に陥っていたのを俺が見つけて……今に至るというわけだ。


「シェルター……避難所の場所は分かりますか?」


「あ、はい。それは分かります」


「そうですか、それなら良かったです。どうやらここからそう遠くないようですし、気をつけてくださいね。……本来なら護衛してあげたいんですけど、自分も少しやる事があって」


 空中からマルファスを見渡していたのでなんとなくは都市構造が頭の中に入っている。そこから『演算』で情報を整理すれば予測もたつというものだ。

 それを伝えると母親の女性は「……いえ、助けてくださっただけでもなんとお礼を言えば良いか」と返してきた。……少し心配だが、まぁここ一帯のスケルトンは倒したし大丈夫だろう。


「なぁ少年、いいか?俺は訳あって付き添えない。ここからは……もしお母さんが危ない目にあいそうになったら、君が守るんだぞ?」


 お腹を膨らましている……つまりは妊娠しているという事だ。妊婦ということで普段以上に動けないだろう。

 まだちびっこの少年には難しかったかな?と俺は思ったが……しかし少年は、恐怖にか震えながらも威勢よく頷いた。


「……う、うん!!僕がお母さんを守るから、白いお兄ちゃん!!」


 怖いだろうに、それを表に出さんと努力する。その光景に俺はどこか微笑ましさを感じる。

 俺は微笑を浮かべて、少年の頭を撫でた。


「そうか、お母さんは大事にしろよ。そして妹か弟か分からんが、いつかそれを自慢してやれ」


 やはり人助けは良いものだ。


 ◆ ◆ ◆


「やっと見えたっ……」


 あの親子と別れてから俺は更に空中を素早く移動していき(ついでにスケルトンも排除して)……そして約数分、ようやくローズの実家、マリーゴールド公爵家屋敷が見えてきた。

 マリーゴールド公爵家屋敷には、その庭園を囲むように作られた、かなり分厚い特殊金属防壁がある。スケルトン達はそれを突破することが出来ずに、防壁の外周にうじゃうじゃと集まっていた。

 まるでアリの軍隊のようだ。


 ……相性が良かったというべきか。もしかのスケルトンが数ではなく質に特化していたならば、特殊金属防壁といってもそうそうに破られていただろうから。


「だけど、状況はあんまり良くないな」


 防壁の上からは、マリーゴールド騎士団の騎士達が何人も一方的に攻撃を仕掛けている。だが、果てしない数のスケルトンがそこには存在しており……あまり意味を成していない。

 騎士というのは1対1に特化しているスキルを持つ者が多い。なのでこのような多数相手にはめっぽう弱かった。一斉に殲滅出来れば楽なんだろうけど。


 そして俺は気づく。大量のスケルトンに集中攻撃され、特殊金属防壁のとある一部分が脆くなり始めているという事に。恐らくはあの守りも直ぐに突破される。

 そうなれば一気になだれ込むスケルトン共に、あの場の騎士達では対応できないだろう。


 ──つまりは、俺の出番だ。


「『炎熱操作』『水流操作』『烈風操作』『稲妻操作』『暗黒操作』『魔力操作』『威力強化』『融合』……5属性の融合反応を引き起こす。行くぜ……五彩色輪廻無法イルミナスシヴァッ!!」


 多色に輝く魔力を生み出し、俺はウィリアム公爵家屋敷目掛けて突撃した。


 ◆ ◆ ◆


 三大都市マルファスを統治する公爵、ウィリアム・マリーゴールドは屋敷にて混乱の中、指揮を執っていた。

 本日は感謝祭という事で、記憶に残る1日になるはずであったのに……唐突に、天から現れたスケルトンの軍隊によってそれは全て打ち砕かれた。


 ……それは違う意味で人々の記憶に残るだろうが。

 そして引き起こされたのが大虐殺。善良な市民、大人も子供も関係なくスケルトン達は殺害していった。

 黙々と、ただの作業の様にこなすのが尚悪い。


 もちろんウィリアムもすぐに行動を起こした。冒険者ギルドに公爵家として応援要請も出したし、彼の保有する騎士団の騎士をほとんど全て出動させたのだ。

 いくらスケルトンの数がいるからといっても、おそらくは時間の問題。勝機は十分にあるだろう。


「くっ……戦力を集中させすぎたか」


 ……だが、彼は今、別問題に瀕していた。

 屋敷の周りに無数のスケルトンが存在しており、動けないのである。指示を出そうにも、伝令を出そうにもそもそもそれが不可能。

 そうなればどうなるか?指令がなければどのように立ち回って良いかが分からず、戦線が崩れる可能性があった。勝てるもにも勝てなくなる。


 幸い、公爵家屋敷とあって取り囲む防壁は強靭に作られている。対策を考える程度の時間は稼げていた。


「……外の状況はどうなっている?」


「360度、大量のスケルトンに囲まれております。強硬突破は……可能性は無くはないですが、止めておいた方が良いかと」


「……そうか」


 ウィリアムを護衛する騎士の1人に尋ねるが……帰ってきた返答は案の定というものだった。

 ウィリアムは苦悩する。騎士団はあらかたマルファス内のスケルトン討伐に当たっており、この場には最低限の戦力しか残されていなかった。

 これが、もう少し戦力があればここまで苦労することは……と、話しは変わってきたのだろうが。


 ──そして、「どうすれば」と考える彼に更に追い打ちが掛けられる。


「御館様、不味いです!!スケルトンの集中攻撃によって防壁の一部ががもう……っ!!」


「くそっ、恐れていたことが起きたか!!とりあえず周囲にバリケード作れ!!騎士達は防壁の上から変わらずスケルトンを攻撃しろ!!」


 ウィリアム公爵は必死にそう指示するが……しかしバリケードも、ちまちまとした攻撃も大して意味を成さないだろう。

 彼自身もそれは分かっているのだが……しかし現状ではこれしか道はなかった。屋敷の本館には彼の妻やメイド、執事などを待機させてある。

 もしここが破られれば……っ!!だからウィリアムは意地でも諦めない。最後まで生き残ろうと足掻く。


「御館様!!」


「……不味い」


 ミシミシと不快音が聞こえ始め、焦りから騎士が叫ぶ。ウィリアムはそれに反応するように青ざめて呟いた。


 恐らくは……というか確実に突破される。

 そうなれば、数百のスケルトン相手に今この残存勢力では勝ち目は非常に薄いだろう。

 もう……作戦も何もなしに、混戦に持ち込むか?いや、ダメだ。そうなれば、より勝ち目は薄くなる。


 ウィリアムは必死に思考を働かせるが、現実は非常で段々と防壁は崩壊していく。騎士達が必死にスケルトンの数を減らしていくがそれも先が無い。


「不味い!!スケルトン、侵入してきます!!」


 騎士の1人がそう叫びウィリアムがくそっ、もうダメなのか!?と内心で嘆いた、しかし次の瞬間……、


五彩色輪廻無法イルミナスシヴァッ!!」


 虹を連想させるような、思わず見惚れるほどに美しい色彩を持つ巨大な魔力波が数百のスケルトン全てを瞬間的に包み込んだ。

 荒々しく神々しい。途方のない魔力が津波のごとく屋敷全体を包み込んだと思ったら。天高く色鮮やかな螺旋を作りスケルトンを浄化させ、消し飛ばし、燃やし尽くし、切り裂き、虚無に返していく。


 範囲が大規模すぎて一見、制御もクソもないように見えるがしかし何故かその無数の神の刃はウィリアム達には当たらない。 

 キラキラとした七色の粒子を生み出して、数秒する頃には……スケルトンなど最初から存在していなかったかのように、その全てが消滅していた。


「……一体、何が……?」


 騎士達全員が目を疑い、ウィリアムが呆然とそう呟いた次の瞬間……


「危なかったですね、大丈夫ですか?」


 白目白髪の少年……全身に神の衣を身に纏う東雲麗乃が空中からフワッとウィリアムの前に降り立った。

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