第8話

「狼狽えんじゃねぇ!!!」


 俺の正体を知ってパニックになっている盗賊達を鎮めたのはリーダ格である野武士面をしたおっさん盗賊であった。

 ……まぁ、盗賊とはいってもリーダーだけあるのだろう。仲間の精神状態が狂った時にどのようにすれば良いかをきちんと把握していた。


 つまりは恐怖だ。幸いなことに彼らはまだ俺の力を見ていないからな、男の言葉に込められた力の方が説得性や優先順位が高かったのだろう。


 ……それと例の取り巻き君しか俺のことを知らない様だったし、それも精神を落ち着かせる材料になっているのか?仲間の勘違い、そして俺が嘘をついている可能性もあるという事である。


 でも残念ながら……ホンモノなんだけど、な!!


「SSSランク犯罪者なんて化け物がこんな所に都合よく現れるわけがねぇ!どんな確率だってんだ。……というか、そもそもそんな奴が正義の味方見てぇな真似事するはずないだろうが!!!」


 ……まぁ、客観的に見ればそう捉えるのが当たり前だな。


「……そ、そうだぜ!お頭の言う通りだ、こんな雑魚そうな餓鬼がSSSランク犯罪者だなんて信じられねぇよ!」


「……ああそうだよな、その通りだ。危うくはったりに騙されるところだったぜ!」


 リーダー格の男の話はしっかりと筋道が通っていた。……その言葉を聞いた彼ら全員はまるで恐怖を押し殺すように、奮起する。


 ……ただそれは見ていてとても見苦しい。明らかに真実を分かっていながら、しかしそこから目を逸らしているということが分かるからだ。


 俺から言わせてもらえば、戦う前から負けている。


 元々好感など微塵も持てず興味なども全くない下衆な奴らだと認識していたけど……それがさらに進んだ。思わず八つ当たりする価値も無いと思ってしまいそうだな。


「はぁ……まあ信じる信じないはお前達の自由だけどさ。……で、結局どうする?俺としてはもうお前達の相手もしたくないし決めに行きたいんだけど」


「っ!!……全員一斉にこいつに襲いかかれ!!多少は腕が立つようだが、この数を纏めて相手はできないだろ!!」


 相手が焦る様な素振りを見せてくるので優位性が確立し、その分俺は余裕を保ちながら鼻で笑う。

 確かに一人一人攻めるよりも数で攻める方が戦力は上がるだろうが……でもそれも俺ぐらいになると話は変わってくる。


 作戦?と呼べるのかは分からないけど、やはり勝ちを確信せずにはいられなかった。


「ぐす……その、大丈夫ですか?相手はたくさんの数がいるようですし……心配です……」


 俺のことが心配だったのか背後から唯一の天使が上目遣いに加えて震える声でそう問いかけてきた。あかん裾をつままないでキュン死しちゃうから!!


 こいつらやエルザの事で不快な気持ちになっていた俺の心がどんどんと浄化されて行くような気がする。やはりこういうベクトルの美少女は性格も美しいという事だな。


 これまであまり女性に縁がなかったので心の中で狂喜乱舞してしまいどうしても照れてしまう。


 ……エルザ?あいつは女じゃなくて脳筋ゴリラだからノーカン。


「大丈夫だから。俺が君を守ってやる。だから安心してそこで見ていてくれ」


 相変わらずの俺のセリフに……


「……はい、分かりました。どうかご無事で。……貴方様のご武運をお祈り致します」


 不安を押し殺すようにして、ギュッと手を重ね握ったのだった。さっきは天使と言ったが、しかしどちらかと言えば今は聖女に近い。


 要するに何が言いたいのかって?うん、この美少女神って事さ。


「じゃあ……」


 とても名残惜しいが、ようやく裾を離してもらった俺はそのまま背後を振り向いて盗賊達に視線を向ける。


「俺達を前にして女とイチャつくとは良い度胸じゃねぇか糞餓鬼、ああん?」


 しかし何やら、彼らは眉間に皺を寄せて口角をヒクヒクさせて怒っていた。


 理由が理由だけに透かした笑みを浮かべてしまう。

 ……妬みとは醜いのう。ほほほ、お前達じゃ一生出来ないイベントだ。羨ましいか?羨ましいだろう。


 それに『ああん?』とか喘ぎ声みたいな声出しやがって。気持ち悪いんだよ。野郎の喘ぎ声とかマジで需要ねえから。


「……ぶっ殺す!!」


 そんな俺の挑発的な考えを悟ったのか、彼ら全員一気に俺目掛けて飛び出してきて……唐突に戦闘が始まる。もはやそこに恐怖はなく嫉妬や妬み、殺意しかない。


 我武者羅に突っ込んでくる彼らだがその速度は騎士達を倒すだけあってなかなか素早かった。


 ……ん?いやそんなことないかも。確かに速いのだが……だけどもエルザみたいな奴らと戦っていたら慣れてきたのかそこまで驚かなくなってきたらしい。


 ……もちろん前提として、俺は今スキル『身体強化』を使っている。名前の通り身体機能を強化して動体視力も強化しているという事だ。


 更にはレアスキル『思考加速』もである。これによって思考が加速しているので、刹那の間にも考え事が出来る。……ちなみにさっきのエルザとの戦いでもこれを使っていた。


 同時に使うととても相性の良いスキルだな。


(りんご、ごりら、らっぱ、ぱんつ、つみき、きりん……あ、終わった)


 ちなみにここまででコンマ数秒。俺は思考が加速する中脳内で一人しりとりをしていた。虚しい遊びだが……なかなか楽しい。


 そして忘れてはいけない今は戦闘中である。

 これぞ舐めプ!!戦闘のさなかでもしりとりするとか、俺最強すぎる。


(……さて)


 ……ただまあ、そろそろ行動を開始する事にした。


 別に時間が止まっている訳では無いのだ。こうして舐めプしてた間に、盗賊達の武器がそろそろ俺の身体に触れそうになってきている事に俺は気づく。


 大口叩いたんだから、負けられないし。


 だけどもやる事は簡単。魔力をねってイメージし、そのまま俺のスキルを使うだけ。


「とりあえず『氷結操作』『魔力操作』『冷凍保存』『冷気操作』『威力強化』『耐久強化』……これぐらいで良いかな。さしずめ……冰嵐グレイ・コキュートスってとこか」


 俺は一気に魔力を解放する。


「そーれ☆」


 愉しげな声と共に、空中に円を描くように人差し指を動かした瞬間、ピキピキピキピキパキン……ッ!!と、スキルが発動する。


「なぁっ!?」


 シン……と一瞬で俺を起点に半径百メートル程の範囲が氷に包まれたのだ。比喩ではなくて言葉通りに。


 空中に小さな氷が発生したと思ったら、そのまま地面に衝突し爆発。まるで津波のように全てを飲み込まんと、圧倒的な速さで圧倒的広範囲を瞬く間に凍らせた。


 気温は楽々とマイナスまで下がり、俺に氷河期の訪れを実感させる。あまりの規模に俺に飛びかかろうとしていた盗賊達は全員氷の中に閉じ込められていた。……リーダー格の男を除いて。


「あーあ、またやっちまったよ」


 何となくこうなるのでは、と俺は考えていた。そして案の定……スキルを制御できなかったことに対して、俺は深いため息を吐いたのだった。

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