第7話
──やっちまったよ!!やっちまったなぁ!?
勢いよく空気を切り裂きながら跳躍した俺はそのままスキル『炎熱操作』を用いて数十本の炎の矢を生成し、それを馬乗りになっているおっさん目掛けて放ったのだ。
ただ……その威力と結果がとても予想外だった。
俺としては軽くはじき飛ばす程度を想定していたのだけれど、結果としてとんでもない距離を吹き飛ばしてしまったのだ。……多分、距離としは百数十メートルぐらい。……うーん、調整が難しいな。
でもまあ今までの強気にで出たやつを、ああやって無様な様子にさせるってのはかなりスッキリするなぁ。
持続的な炎の痛みや熱さに未だに苦痛を感じているのか、その盗賊が悲鳴をあげながら地面をころげ回っているのを見て俺はそんな事を思った。
「あ、ごっめ〜ん調整間違えちゃった!!」
キャピキャピっとバカっぽい様子でそう告げるが……うん。どうやらお気に召さないようで、「あぁん!?」「んだ餓鬼?」「ぶっ殺す!」などのいかにもモブキャラらしいセリフを俺に投げかけてきた。
……やっぱり対話って難しいね!!
ほら、俺が異世界転移してきてからもうしばらく経つが、その間あんまり人と話す機会なかったしコミュニケーション能力がかなり心配されるところだ。
「大丈夫かいお嬢さん?」
まあ、そんな事よりも今は美少女の事を気にかけるべきか。
そう考えた俺はイケメンフェイスで彼女に問いかける。心做しか頬を赤らめている気がするが……まあ、気の所為だろう。
まだ助けただけ。もしもこんなので俺に惚れてしまっているのなら、チョロイン認定になってしまう。こう言うのはゆっくりと時間をかけて育むものなんだ。
「あ……はい。あなたは……」
「もう少しだけ待っててね。今からこいつらにお仕置きしてくるからさ」
美少女は俺の事を呆然と見つめてきたが……俺はふにふにとした柔らかい唇に人差し指を当ててそれ以上の言葉を言わせなかった。
……くぅぅっ!キザだな俺。多分今がこんな状況じゃなかったら悶える自信があるぜ。……というか、今俺自然な流れでセクハラしたな。
「……さて、一応聞いておくけど投降する気は無いか?自首してくれるのなら俺も余計な手間が省けるし、冒険者ギルドにでも突き出すだけで済むけど」
まあ、そうなればギルドでどんな事をされるかたまったもんじゃないけどな。
俺はゆっくり徒歩を進めて、こちらを様々に睨んでくる盗賊達目掛けてそう問いかけてみた。
「なんで……俺達がてめぇなんぞ相手に、降参しなきゃ……いけねぇ、んだよぉ!」
しかし答えたのは取り巻きではなくて、先程俺に吹き飛ばされたリーダ格であろう男だった。ボロボロになりながらも、フラフラとした足つきでこちらへと近づいて来る。
うん、言葉途切れ途切れになってるし。よく頑張るよなぁ……胆力があるというかなんというか。……いや、この場合はプライドが高いと言うべきか。
「あっそ……じゃあ良いよ。今から痛い目見てもらうだけだから。……お前達が悪いんだぞ?いたいけな女の子を強引に犯そうとなんてするから」
まあ冒険者ギルドに突き出すと言って他がそれはブラフ。俺はお尋ね者だから、身動き取れないようにしてそこら辺に放り出すつもりでいた。その面倒が無くなったのだから俺としても依存はない。
……こいつらの事やエルザの事なんかで俺は無性にイライラしている。八つ当たりに付き合ってもらうのも悪くないだろう。
「はァ?この人数相手にてめぇみてぇな小便くせえ餓鬼が勝てると思ってんのか?……今のだって不意打ちだろ。真正面からやったら俺に勝てねぇからってさ」
おぉぅ……さっきまでの演技か?と思うぐらいの饒舌な口調だな。
相変わらず強気な態度だし。
……というか、今思ったのだがどうやらこいつは俺のことを知らないらしい。
腹括って出てきたのだが、その展開は予想出来なかった。俺は(悪い意味で)顔が広いとも思っていたんだがな……そう考えているとどうしても複雑な気持ちになってしまった。
──だがしかし、どうやら他の仲間は違っていたようで。
「ぁ……あ、ぁ……まさか……」
「どうした何ビビってやがる!?」
「お、お頭ァ……こいつもしかしたら……」
取り巻きA君……いや奴隷A君か?まぁなんでも良いが十数人いたうちの一人が、後退りながら震える小声でそんな呟きを漏らす。
その声色や表情、雰囲気から読み取れるのは……『恐怖、困惑、絶望、怯え』などの負の感情しかない。
部下がそんな様子でいるのを不審に思ったのか、リーダ格の男はそう怒鳴る。
だがしかし、静寂が場を支配して暫くして……。
彼もその時になってようやく何かヤバいものに気づいたのだろう。大粒の汗を顔中に浮かばせて、息を飲む音が聞こえた。
そうして誰もが黙り込む中……意を決したかのようにしかし絶望を声色に含ませて我慢できずに叫んだ。
「あああぁァぁ……終わりだ。俺達はもう終わりだよ!!黒髪黒目にその容貌!間違えようがねぇ、どうして『
「なっ!?」
取り巻きくんの絶望の叫びを聞いた瞬間、他の者達もまるで伝播していくように驚愕から取り乱し始めて、恐慌状態へと陥っていく。
リーダ格の男もその言葉を聞いた瞬間……ギギギと錆び付いたロボットのように首を動かして再度俺を見た。
……うむ。どうやら俺のことを知っている奴が一人はいたようで安心した。
これがもしも誰も知らないですー、とかなってたらかっこよく登場した俺が恥ずかしいだけの男になってしまうし。
「こいつがあの!?数々の歴戦の冒険者達でも全く歯が立たないっていう、SSSランク犯罪者だって言うのか!?」
「なっ、ひっ!……逃げないと、殺されるぞぉ!!」
だがしかし……こうして見てみると大人数の大人が俺一人に怯えるというのは、圧巻的な光景だなぁ。
チラリ横目で未だに呆然としている美少女に視線を向ける。……俺の正体を聞いて怖がらせたかな?と考えていたのだけど、全然そんなこと無かった。
盗賊達が抱いている恐怖は全く感じられない。というかむしろなにかヒーローでも見るような感じがしている。
……どうなってんだ?
(……いやまあ、それは後で良いか)
呑気にそんなことを思った俺はイケメンスマイルを浮かべて手をフリフリと振りながら、とりあえず口を開いた。
「どもども〜、冒険者ギルドにSSSランク犯罪者認定されてる東雲麗乃でーす☆みんなぁ、よろしくねぇ☆」
どこからかキャピッ☆という効果音が流れて……俺のその挨拶を聞いたおっさん達は何故かその場で固まってしまった。
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