第27話

 ローズと共にしばらく……およそ数十分ほど歩いた俺は彼女の案内のもとようやく俺の生活場として与えられる来客用の部屋に到着した。

 いやあのさ、部屋1つ移動するのに数十分かかるってどういう事だよ。まじで意味わかんねぇって。どんだけ広いんだこの屋敷。


 どうしてもそんな事を思ってしまう。


「ではどうぞ」


 そうしてローズが扉を開けて俺も部屋の中に中に入ると……そこに広がっていたのは圧倒的な広さの空間だった。


「うぉ……これは凄いな」


 部屋自体は一般的な長方形型をしているが、その面積はあまりにも大きかった。縦横ともに数十メートルはあるだろう。

 ……え?これ俺一人で使うんだよね?心做しかあのウィリアム公爵の執務室よりでかい気がするんだけど。……来客用とはいえ、ここまでの規模の部屋を用意出来るのはやはり公爵というべきか。 


「家具も素人目で見ても分かるほどに最高級のものばかり……一体いくらぐらいすんのこれ」


「具体的な所は分かりませんが……まぁ多額の資金を掛けているのは一目瞭然ですよね」


 床にはふかふかのカーペットが敷かれており歩く度に俺の足の裏が心地よく感じられる。もう高級すぎて逆にゾッとしちゃうんだけど。

 そして設置されている家具にも目を見開くものがあった。別にそこまでごちゃごちゃしているという訳ではなく最低限のものがあるというだけである。

 机だったりベットだったり、あとソファなんかも。


 ……でもさぁ、いくらなんでもデカすぎん?

 特にキングサイズのベットとか何時使うんだよっ!?いや何時使うとかじゃなくてあんなもので寝られるはずがないだろうよ!!……というかそもそも惨めすぎて無理。


 だってああいうのって恋人なんか、複数人と寝るために作られたものじゃないの?

 そして俺、そもそも相手がいなんだけど。

 つまりは独り身。それを実感する度に多分俺しくしくって泣くぞこら。


「野宿生活からいきなりこんなのって……なんかもう訳わかんなくなってきたわ」


 その後にはローズの説明が続く。この部屋自体についてや設置されている家具についてなんかの説明だったのだが……うん最早スケールが限界突破していてよく理解できなかったよ。

 ……古代竜エンシェントドラゴンの骨や鱗、髭から作られてる机って何?不死鳥フェニックスの永遠の炎で作られてる暖炉って何?神狼フェンリルの体毛で作られてるカーペットって何?

 

 ばっかじゃねぇの?もう意味履き違えてない?

 心身を休めるために来客用のこの部屋があるのに、もう異次元すぎて心身ともに逆に疲弊しちゃうっつうの。今まで生きてきたけどこんな部屋初めてだわ。


「あの麗乃様……もしかしてお気に召しませんでしたか……?」


「……」


「でしたら大変申し訳ございません!す、直ぐにお部屋をお取り返しますので少々お待ちいただければ……」


 ローズがぺこぺこと本当に申し訳なさそうに頭を下げてきたのだが……うん、めちゃくちゃ反応に困るんだよな。だってその通りだもの。


(なんと返すべきか……)


 正直、こんなに高級で価値のある部屋を俺ごときに宛てがうのは間違っていると思う。ただそれをバカ正直に言って、必死に俺に恩返しを考えているであろうローズを気づつけるというのもはばかられる。


 そんなことを思いながら数十秒ほど……俺は複雑な心境と表情でその口を開いた。


「いや……別に気に召さなかったとかそんなんじゃないから。ただVIP待遇に驚いただけ。……ありがとなローズ。俺のためにこんなに凄い部屋を用意してくれて」


 ……やっぱり、こうなるんだよなぁ。俺には女の子を悲しませるとか無理、無理、無理。多少無理しても、紳士を突き通す。


「そ、そうですか!!麗乃様に喜んでもらえたのなら良かったです。えへへ……お礼、言われてしまいました」


 ぶほぉあっ!!か、可愛すぎるぅ。

 ローズのその満面の笑みやはにかみはどうやら俺のハートを穿ち抜いたようだ。……うん、この笑顔が見れたのなら満足だな。

 今日から俺は、場違いすぎて夜も満足に寝る事は出来なくなるかもしれんけどな!!


 さらば安眠よ……なーんて調子で俺はローズと話し続ける事となった。


 ◆ ◆ ◆


「……あぁ、もうこんな時間か」


 そうして暫くして……ローズとのおしゃべりがようやく一段落着いたので、付属の窓に掛けられている最高級カーテンをシャッと開ける。

 もう気にしない事にした。雑に扱って壊れのなら……うんまぁ、その時はその時って事で。


 カーテンという遮蔽物が無くなると、透き通るような窓ガラスからは紅よりの夕日が部屋の中に差し込んできた。……俺は時計を持っていないけど、日本時間だとだいたい5時ぐらいか?


 ここに訪れた時はまだまだ明るかったため、かなりの時間話し込んだしまったようだ。


 そういえば腹減ったなぁ……などと考えていると、俺の背後でソファに座っていたローズが狙ったかのようにタイミング良く口を開いた。


「あ、そうでした麗乃様。あと1時間もしないうちに麗乃様を歓迎する立食パーティーを行うので……今日の夕食はそこでとる事となりますから」


「……え?」


「あぁ、服装とかは特に意識しなくて大丈夫ですよ。参加するのは我が家の関係者だけですし」


 立食パーティーなんて今初めて聞いたんですけど俺。というか俺を歓迎するためのパーティー?関係者ってのはメイドとか?いくらなんでも総出上げすぎじゃね? 

 そもそも俺、参加するなんて言ってないよいやまぁこの選択肢的に考えてそれしか道は無いんだけどさぁ。……ローズってかなり強引なところあるよね。


(というかおかしくないか?ローズ、ずっと俺と一緒に居たよね?パーティー云々ってその情報はいつ知ったの?俺の記憶が正しければ、誰からもそんな報告とか受けてない気がするんだけど……)


 不思議だ。いつもは癒されるはずのニコニコとした満面の笑みが、今はとてつもなく恐ろしい。

 この俺が苦笑する事しか出来ないぐらいには。うん……この世界にも知らない方が良い事はあるってものよ。


「ははは……………………了解」


 そう返事をした俺の身体は……まるで錆び付いたロボットのようにぎこちないものとなっていた。


 そうして俺はウィリアム公爵主催の立食パーティーに参加する事となり……怒涛で濃密な一日をすごしたのだった。

 ……ちなみにもう俺は絶対にこういうパーティーには参加したくないと思った。だってめっちゃ目立つもの。新体験といえばそうなのだが、いつ正体がばれないかとヒヤヒヤしたものだ。

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