第43話「上書き保存」


 「あ、危なかった.......」


 焦りに焦ったぞ。

 完全に今日はお咎めなしだと思って油断していたら、ま、まさかの急に追いかけてくるんだもんな。


 あの女......


 何なんだよ。本当に何なんだよ。

 何であんなに険しい表情で俺のいる方に向かって.......


 何だかんだで、それなりに一応警戒はしていたけれど

 まさか。まさか本当に来るなんて誰が思うよ


 あの時、山岸さんが先生の存在に気がついてくれていなかったら、マジでどうなっていたかわからないぞ。考えただけでもゾッとする。本気で背筋に悪寒が走った。

 し、しかも、もしかしたらさっきのアレは過去一の殺気と言っても過言ではないかもしれない。


 下手すればあのゼクシイの時の深田よりも.......


 で、でも何で?

 俺が一体あの短期間に何をしたんだよ.......。

 それまであんなに笑っていた癖に......。

 怖ぇよ。怖過ぎるだろ。


 それにさらに意味がわからないのが、俺が追いかけてくるあいつの存在に気が付き全速力であの場から離れた途端、あいつはすぐに足を止めてまた会場の中へと戻っていった。

 いつもなら地の果てにだって追いかけてきそうなぐらいしつこい癖に、何で.......。

 いや、助かったけど不気味すぎる。

 結局怖すぎて俺はそのまま駅まで駆け抜けたけど、腰まで抜けるかと思った。

 冗談抜きに。

 

 正直、あの時はタミーや佐竹さん達の行動にも意味がわからなさすぎて驚かされていたけど、それよりもあいつが遠くからこっちに向かって走ってくるあの光景が衝撃的すぎて今はもうあいつのことしか頭に浮かんでこない。


 もう今は家にいるというのに、思いだしただけでもまだ身体が震えてくる。

 絶対に今日の夢に出てくる。絶対に。

 だから今日は寝ない。寝たら終わる。


 そ、それにしても本当に、本当に何なんだよ、あの殺気は.......


 いつもなら一応、理由がないわけでもない。

 でも今日に限ってはノルマの件については許されていたし、じゃあ他でしか理由がないのであろうが真剣にわからない。思い当たる節がない。

 うん......。今日はやっぱり何もしていない。


 な、なのに本当に何で........


 「.........」


 って、ん?

 あれ? 今、鳴ったチャイムはうちのチャイムか?


 「.........」


 あ、うちのチャイム......。

 くっ......父さんは今出かけているし。


 うん、悪いが居留守だな......。


 「........」


 って、え? う、嘘だろ......

 こ、このタイミング......


 も、もしかして、ま、また深田......とか?

 い、いやそれは.......

 で、でも、あいつならマジで.....


 「洋介! いるんでしょ!」


 って、ん?

 その声は........


 

 



 ん? そういえば、あいつもさっきのあの場にいなかったか? 

 まぁいいや。とりあえずあいつじゃないなら出ておくか。



 それににしても本当にひやひやする

 今日は絶対寝れねぇ......

 絶対に.......


 

  

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