第46話「坊ちゃん」


 「今日はどうでしたかな。坊ちゃん」

 「全然、駄目。チームは勝ったから嬉しくはあったけど、今回も僕は何もできなかったよ......」


 思い返すと本当に何も......


 「ほっほっほ、そうですか。まぁまだ坊ちゃんの輝かしい高校生活も始まりを迎えたばかりですからな。そう焦らずに」

 「そうかなー。でも僕以外の1年生たちはすごく強くてさ。ほんと僕だけなんだ。サッカーが下手なのは.......」


 何で皆あんなに......

 今日の最後だって結局、喜屋武くんに助けられて........


 「ほぅ、他の新入生の方たちは猛者ぞろいだと。失礼ですが、聞いていた三峰の状況からするとちょっと、いや、かなり意外ですな」

 「そうなんだよ」


 次はもうベンチ確定かな......

 やっぱりまた高校でもこうなるのか......

 

 「ほっほっほ、それはまた面白い。ちなみに坊ちゃんは、そんな猛者ぞろいの高校生活の中で何かもう新しい課題などは見つけられましたのかな?」

 「ん? 課題?」

 「はい、課題ですじゃ」


 課題.......

 あ、


 「そうだ。身体かな。新入生の中でも、さらにものすごくサッカーが上手い子がいるんだけど、その子の身体がもうすごいんだ。僕も頑張っていたつもりではいたんだけどね、あの子の身体を見てしまうともう.......」

 「ほう、身体ですか」


 パチンッ

 「黒霧、坊ちゃん様に最先端のトレーニングスペースの手配を」


 「そうなんだよ......。って、何か言った?」

 「いえいえ、そうですかい、身体ですかい。じぃも良いと思いますぞ」

 「まぁ、それだけじゃないんだけどね」

 「ほぅ、と言うと」

 「どうしても脳ではわかっているんだけれど、大事な場面ではやっぱりあがってしまって、思うようなプレーが全くできないんだ。できた試しがない」

 「あぁ、ふむ。それは坊ちゃんの昔からの課題ですな」

 「うん......」


 だから僕はずっと駄目なんだよ.......。

 

 「ほぅ、でもまぁそれも高校では何とかなるかもしれませんぞ。聞いている限り、今の三峰は人数も少ないみたいですし、これまで以上にぼっちゃんに実戦経験の機会が回ってくるんじゃないですかの」

 「実戦の機会?」

 「ふむ。不幸にも坊ちゃんは小学校でも中学校でも部員の多い学校にいらしゃったから。その点、三峰はぼっちゃんにとって恵まれていると思いますぞ。例え、一時的にベンチになってしまったとしても、挽回の機会は多いかと」


 そ、そうかな.......。

 確かに、そう考えたら.......


 「ほっほっほ、何事もポジティプにですぞ。坊ちゃま。今日だって一日頑張った坊ちゃまの為に、銀座の老舗イタリアンのシェフを呼んでいます。坊ちゃん、好きですじゃろ?」

 「え? 嘘、あ、ありがとうじぃ、超好きだよ」


 好きすぎてやばいよ。ほ、本当にありがとうじぃ


 「そうそう。そうやって坊ちゃんはいつも笑っていてくだされ。坊ちゃんに悲しげな顔は合いませぬ」


 「う、うん。ありがとう。ちょっと元気がでたよ」


 「はい。じぃは信じてますぞ。なんせはこのを継ぐ、IQ230歴代最高の稀代の天才なのですから」


 「いやいや、じぃ、大袈裟だから。それに僕はまだこの会社を継ぐなんて決めてないし」

 本当に......


 「ほっほっほ、お父様も悲しみますな。まぁじぃは政宗様の自主性を尊重しますぞ。好きにやりなされ」

 「うん。ありがとう。やっぱりじぃは最高だよ」


 「ほっほ、それこそ大袈裟じゃて」

 「へへっ」


 でも、じぃの母校に進学を決めたことに後悔は全くないけれど......


 本当サッカー、サッカーだけは思い通りに行かないんだよな。

 なんでこんなに難しいんだ......。


 まぁ、もうちょっとだけ頑張ってみようかな 


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