第10話「田辺と松坂」
「田辺君、これはもう間違いなく俺の家宝だわ」
「ふっ、松坂殿はまたそんな分かりきったことを」
大人気声優である空ちゃんのサイン
輝いている。というか、何だよあの神対応。
い、一緒に写真まで撮ってしまった。
「でも今日だけは俺、サッカー部に入って良かったと思ったよ。あくまで今日だけだけど」
「激しく同意ですぞ」
と言うのも、前の人が空ちゃんと喋っている会話の内容が耳に入って来て、ついつい嘘をついてしまった。
だって空ちゃん、サッカーが好きとか言うから。
あんなの嘘をつくしかないじゃないか
「俺、ついつい空ちゃんに三度の飯よりサッカーが好きですとか言っちゃったぜ」
実際はサッカーするくらいなら飯抜きの方がましなレベルなのに。
「自分はキーパーなんてしたことないのに。空ちゃんに聞かれたから思いっきりキーパーのフリをしましたぞ」
そうか。田辺君も......。
「まぁ、でも空ちゃんにあの声ですごーいなんて言われたらどんどん嘘ついちゃうよな」
「超激しく同意ですぞ」
でも、再び思いだしたけど。
俺達が一応サッカー部というのは残念ながら嘘ではないんだよな.......。
ということは明日から練習にも参加しなければならないんだよな。おそらく
「なぁ田辺くん」
「ん? どうしたんだ。松坂殿」
「明日ってちゃんと練習行くの?」
「練習......。松坂殿は......」
いや、さっきからどうにかして練習に行かなくても済む方法を考えているんだけど、一向に考えつかない。
考えれば考えるほど、脳裏にあいつの顔が浮かんでくる。
「ヒッ.......」
や、やっぱり無理。
「ヒッ......」
って、隣からも同じ様な声が.....。
そ、そうだよな。
クソ、あのアラサーから逃げられるビジョンが全く湧かない。
俺には、俺にはこの数年間に貯まりに貯まったアニメ基いジャパニーズカルチャーを吸収しないといけないという使命があるのに。
サッカーは本当にもう、本当に充分なんだって......。
本当に。
「松坂殿......」
「どうした。田辺君.....」
さっきまでとは一転して、そんな青ざめた顔で。
って、それは俺もか......。
「一つだけ、一つだけ自分の頭に良い案が......」
「な、なに? そ、それはちなみにどんな......」
田辺くんのことだ。
中途半端なことや的外れなことを言う人間では彼はない。
もしかしたら。
―———うんうん
それで、うん。はいはい。
それからそうして、うん。お、おお
「い、いける。いけるぞ、それ。いけるぞ田辺君!」
そ、それならあいつも。
「そ、そうですかな。よし!じゃあそれで、それで行きますぞ!松坂殿!」
これなら、これならあいつも俺達には手出し出来ないはず。
あわよくば練習だけじゃなくて、サッカー部からも―――――
「よし!田辺くん、これで問題も解決できそうだし、今からファミレスでも行って今日の空ちゃんのハイライトでもかましますか!」
「もちろん!望むところですぞ!松坂殿!」
「はっはっはっ、本当に君は天才だぜ。田辺君。お主も悪よのぉ」
「いやいや、それは松坂殿こそ。くっくっくっ」
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