第23話「注目選手」


 「おい、見たかよ?お前ら。やっぱり愛梨は俺にゾッコンみたいだぜぇ!」


 そう言って、また大きな品のない声で調子に乗っているのは松坂

 教室の机の上に座って偉そうに周りのクラスメイトに自分のスマホの画面を見せつけている。

 

 そう。私はまさかのクラスまでこいつと一緒。ほんと最悪。

 なんで四六時中、こいつが視界に。

 

 「おーい、玲奈! お前も今日はこっちで昼飯食えよ」


 「いや、行かないから」

 誰が行くか。


 「私はいいから行ってきなよ。ほら。旦那が呼んでるよ」 

 「は、はぁ? ゆ、結実。あんたは本当に怒るよ。前にも言ったけどないから。絶対にないから。ほんとやめて!」

 ほ、本当にキレる。今回ばかりは。後で本気でキレる。

 あんたは本当に何をふざけたことを何度も。 


 「ったく、照れんなって。玲奈」

 「だから、違うって!ふざけないで!」


 真剣に皆がいるこんな場所でやめて欲しい。

 絶対にそれだけは嫌。勘違いされることすらおぞましい。

 こいつだけは無理。こいつとならダンゴムシと付き合う方がましなレベル。


 「そんなんだったらマジで俺、愛梨のところ行っちゃうぜー。いいんかー。なんせ

愛梨は俺にもうベタ惚れだからよ。俺って男はマジで芸能人まで魅了しちまったぜ。無敵かよ」

 「勝手にしなさいよ!」


 「ったく嫉妬しやがって、可愛くねーぞー」


 「くっ......」

 ほ、本当にむかつく。

 腸が煮えくり返ってやばい。本当にやばい


 「あー、本当だすごーい。玲奈、見てよ。さっきアップされた愛梨ちゃんの動画」

 「ん? 動画」

 「うん。youtube!youtube! 彼女の人気チャンネル【愛梨の注目の男の子】だよ。玲奈も知ってるでしょ?」


 あぁ、つい最近始まったあの佐竹愛梨が注目の高校選手をピックアップしていくアレね。始まってすぐチャンネル者数がすごいことになってたからさすがに知ってる。

 で、それに選ばれたと。

 ほんと何でそんなことするのよ。最悪


 「って、愛梨ちゃんものすごく陽介くんのこと褒めてるー。ほら、見て、見てよ。玲奈。どこ見てんの? ほら、ここだよ。ここ」


 嫌だ。絶対にみたくない。こいつが褒められている動画なんて誰が見るか。

 芸能人にしてはサッカー詳しいし可愛いからちょっと好きだったけど。

 この前の取材といい、やっぱり見る目ないバカ女じゃない。


 『愛梨、本当は今日は別の人を紹介する予定だったんだけど♪ 我慢できないからこの人の名前を出しちゃいます』


 まぁ、なんだかんだで横目でその動画を見る私には、ぷりぷりと動画を撮っているであろうカメラに向かって上目遣いを向けている佐竹愛梨。


 ち、ちょっと違う意味でも腹が立ってきてしまう。

 何よその媚びに媚びた顔。


 『もう本当にすごかった。松坂洋介まつざかようすけくん。愛梨、ちょー骨抜きにされちゃったもん♪』 


 「ヒュー、俺も愛梨に骨抜きだってーの。マジ可愛いわ。こいつ」


 何が骨抜きよ。本当に見る目ない。

 それにまた何よ。そのウインク......


 『顔もかっこよかったし、背も高かったしー。何よりもすっごーくサッカーが上手い! 愛梨、一瞬でファンになっちゃいました♪ おーい。見てるかな? くーん』


 「見てる!見てる!見てるぜえ!愛梨!ふっ、こいつもう絶対に惚れてるわ。俺ぐらいのモテ男にはわかるんだよ。今までの経験から目を見れば俺に惚れてるかどうかはな」


 チッ、嘘つくな。クソ男。

 なら私があんたに一ミクロンたりとも惚れてないことぐらいすぐわかりなさいよ。


 『全体的に技術もすごかったんですけど~、中でもほんとあの右足から繰り出されるシュートには誰もが惚れちゃうと思いますよー♪ 最高でした。最高すぎ!』


 何が最高よ。こいつは最低よ。

 って、ん? 右足?


 「ったく愛梨ー、可愛いから許しちゃうけど俺は左ききだからー!可愛いから許しちゃうけどよー。次会った時にこれはたーっぷり教えてあげないとな。ハッハッハッハッハッ」


 『次は来週の日曜日が試合みたいだし、個人的にまた注目させてもらいます♪ それではー♪ またね』


 「へっ、もう完全に愛梨は俺のもんだな。来週かー。やっべ考えただけでも超興奮してきたぜ」


 ん? 来週は私たちの試合は土曜のはず.....。

 こいつはバカだからそこらへんはよくわかってないみたいだけど。


 何か違和感が......


 色々と。

 

 うまくは言えないけど何かが.....


 佐竹愛梨。


 何故か危険な気がしてままならない。


 何か.......

  




 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る