第2話「三峰高校」
うぅー、もう嫌です。
私、山岸萌香は入部早々にもう心が折れちゃいそうです.......。
「チッ、糞が。マジ最悪じゃねえか。 松坂陽介も三峰に来るって聞いていたから!聞いていたから!こんな落ち目の高校でも来てやったのによぉ。何でいねぇんだよ!!!」
「な、仲居くん、落ち着いてください」
「あぁ? お前マネージャーか? 誰が落ち着けるかよ。松坂がいねぇここなんて、雑魚すぎて目も当てられねぇじゃねえか。松坂と一緒ならば!あいつにも勝てると思っていたのによお!!!それに他に来るって聞いていた奴等もいねぇ。さらにまさかの人数まで足りないときた。マジでカス以下じゃねぇかよ。どうなってんだよ本当に最悪じゃねぇか!しかも俺をスカウトしたあいつはどこにいるんだよ!!!」
「い、いやそれは。まぁ、そのー、ねぇお兄ちゃん」
「あぁ残念だがコーチをを務めて下さっていたあの人は、急に今年から違う学校で働くことになってな。それでまぁ、ただでさえ多くなかったメンバーがやる気を失くしてさらにゴソっと......」
「はぁあ? 何だよそれ。どこの高校に移ったんだよ」
「まぁ....そのー、白鳳らしい。本当に突然だったんだよ」
「クソぉぉぉ!あの野郎!無責任にもほどがあるだろうが!騙された上に何だよこの仕打ち!テメェのことしか考えてねぇのかよ!最悪の大人じゃねぇか!!!」
あぁ、本当にもう嫌です。
しょっぱなからこの雰囲気は萌香もう、見ていられません。
とりあえず、さっきからグラウンドで怒り狂って暴れているこの男の子は仲居くん......。
萌香と同じ、新入生です。
まぁ、気持ちは分かります.......。
だって彼は別にこの高校ではなく、もっと強い高校に行くこともできたのですから。
実際に中学サッカーでも彼はそれなりの有名人。
性格通りの超攻撃的なサッカーをすることで有名でした。
当然、他の学校からも当然スカウトはあったはずです。
それが......ね。
「マジで終わった。もう俺の人生は終わりだ!」
正直、萌香だって拍子ぬけです.......。
来年はもしかしたらいけるかもしれないと目を輝かせるお兄ちゃんをずっと見てきましたから。それがこれです。
噂どおり、あの超スター選手である松坂くんとこの仲居くんが組めばいつかは本当にあの常勝無敗の無敵学園である白鳳にだってと思っていました。
この学校だって一番上のお兄ちゃんがいた頃の、萌が小さな頃に見た様な、かつての栄光が再び訪れてくれるんじゃないかって.....
でも、それが蓋を開けてみれば部員は仲居くんや他の入部が決まっている極少数の新入生も含めてジャスト11人。
3年生に限っては、全員少し早いですが自主的に見切りをつけて引退してしまったそうで、本当にギリギリの人数です。
噂では今年からはコーチではなく、新しく赴任してきた素人の女性先生が顧問という形でここにあてがわれることになっているみたいですし、学校自体がもうサッカー部に興味がないです。
昔は学校をあげてすごかったみたいですが、今はもう見る影もありません。
というか過去最悪の状況かもしれません。
い、いや、でもでも、別に今残ってくださっている2年生も仲居くんが嘆くほど弱くはありません。私は何度もお兄ちゃんの試合に足を運んでいたので知っています。
前のコーチさんだって無責任な屑さんでしたが、指導の腕はそれなりだったと聞いています。
まだ諦めるのは......って、改めて見てみると残った2年生。
キーパーのお兄ちゃんを含めて全員でディフェンスの方々......。
うぅ、こんなことは言いたくありませんが、やっぱり仲居くんの言う通りに本当にもう終わりなのかもしれません。
いくら仲居くんがすごくても、彼一人では火力が.......。
新部長となった普段はとても明るいお兄ちゃんも、もう.......
「クソォォォォォォォォォ!!!!!」
そして仲居くんはと言うと、もう怒りに任せてさっきから無造作にボールを蹴りまくっています。
まさに鬼の様です。恐い......。
でも、本当にもったいないです。
こんなにスピードもあって力強いシュートがうてるのに
今もボールがどんどん伸びて
って.....え?
大きく逸れて.......
え?
こ、このままだと隣の陸上部の女の子の頭に!
駄目!
「危ない!!!!避けて!!!!」
って、え!?
あれ?
な、何が起こったの......?
何故か今、あの女の子の頭に当たりそうだったボールが、ある男の子の足元にありま......す?
え?ど、どういうこと。
何、なんですか。
今のはトラップ..... ?
え?
あ、あんなに高い位置を飛んでいた勢いのある仲居くんのボールを、あんなにも涼しい顔で柔らかく?
え?どういうことなの?
「って、な、なんでサッカーボールがこっちに飛んでくるんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!つい反射的に触っちまったじゃねぇか!!!!! で、何でアニメ同好会がないんだよぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
で、そのまま訳のわからないことを叫んで流れるように右足を振りかぶったかと思えば
今度はそのコンマ数秒後に、私の耳にはものすごい大きさのインパクトの音
「え?」
え? 何?
も、ものすごい勢いと弾道で私たちの頭上を越えていく、彼が蹴ったボール
そしてそのまま伸びて、伸びて、伸びて
え? どこまで.......って
そ、そのまま一直線にゴールにむかって――――――
「う、嘘......でしょ?」
え?
もうネットに.....
しかもあんな突き破りそうな勢いのまま.....
す、すごい。この距離を、あ、あの速さと威力のまま.....
え?本当にすごい。
「お、お、お兄ちゃん......」
「お、おい、あれは誰だ。体操服の色的に萌香と同じ新入生だろ。おい、まじで誰だよ」
そして隣にはその光景に目を見開いて固まっている様子の仲居くん。
無論、他の皆も.......
え? 本当に誰.....なの?
私、中学でもマネージャーやってたし、サッカーはお兄ちゃんの影響で大好きです。なのでここら辺の選手や有名な選手はそれなりに顔もわかります。
いや、むしろ、めちゃくちゃ詳しい方です。
でも、彼は.......誰?
し、知らない。
全く
そ、それに走り出したと思ったら
足も、ものすごく早い......?
え?普通に陸上部だった人?
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