第6話「聖徳高校」


 「聖徳って確か陣馬くんが行ったところよね」

 「そうそう。しかも仲前くんもでしょー、結構やばくない?」

 「しかもあの森谷君もだし。もしかしたらこれ聖徳の時代来るんじゃないの? 玲奈はどう思う?」

 

 聖徳の時代か。

 確かにマネージャー仲間の彼女達が言うように、今年入った聖徳高校の1年生は粒ぞろいかもしれない。さっきのメンバーに加え、他にもさらに一応名前が知れ渡った子達が数人入学したという噂もある。聞く話によればスカウトの条件が半端なく良いらしい。


 まぁあそこは設備も整っているし、サッカーに力も入れている強豪校。

 いくらうちであっても侮れない相手だ。

 特に今の私たちの学年が将来的に2年3年になったとき、間違いなく私たち白鳳の脅威になりうることだろう。


 そして今日はそんな聖徳の1年生が急遽他校と練習試合を組んだと聞いて、私たちが偵察の勉強も含め駆り出されているところだ。

 一応、上も今年の聖徳の1年に注目をしているということ。

 まぁ聖徳がそこまで遠くないっていうのもあるんだろうけれど。


 「ねぇ相手の三峰ってどこだっけ?」

 「んー、昔は強かったところらしいよ。ふっ、今はもう万年下位らしいけど」

 「私も名前だけは知ってる」


 一方、そう。三峰は昔はものすごく強かっところ。

 今はまぁ『堕ちた名門』と呼ばれているとおりに......ね。

 確か、何故かあの仲居くんが行ったところでもある。

 彼ならもっと上の方に行ってもおかしくないだろうに。言っては悪いけど何で今の三峰なんかに。

 何ならうちからだってスカウトがかかっていたはず。

 それにあそこは前コーチがこっちに引き抜かれてしまったみたいでもう今は正直、目も当てられそうもないし。それに伴い部員もごっそりと抜けたと聞く。

 おそらく三峰は人数的に学年全員で出てくるんだろうけど、それでも聖徳の1年の相手になるかすら怪しいレベル.......。


 今日はもしかしたら偵察の意味すらもなさないかもしれない。

 まぁ聖徳には友達の優華もいるし色々とあっちでの様子でも聞けたら嬉しいかな。


 ん? あれ? そういや確かあいつも三峰だっけ?

 まぁサッカーはもうしていないみたいだし、関係ないけど。

 それに、それはそうよね.......。あんな昔の約束なんて―――――

 

 「あ、もうついた」

 「へぇー、やっぱり広ーい」

 「すっご、人数もうちと同じぐらいいるんじゃないこれ?」


 とりあえず、色々と考えながら歩いていたらもう目的地についたみたい。


 「って、あれ?」

 「なんで試合前にあんなに走らされているの?」


 確かに、何故か聖徳のグラウンドには1年生らしき子たちがずっと外周を走らされている光景。それもかなりヘトヘトになりながら......。

 今日の練習試合に必ず出されるであろう陣場くんや仲前君、その他の知っている子たちも何故か、まるで苦虫を噛み潰したような顔で.......

 もしかして、三峰相手じゃ彼らすら出ない.....?

 

 「え? あれってスコアボードじゃない?」

 「あ、ほんとだスコアボードだ。6-3?」

 「あれれ? 昼からじゃなかったの?」

 「でも、どう考えても聖徳と三峰って書いてあるよね。あそこ」


 嘘? 本当に朝からだった感じ?

 確かにどこをどうみても、三峰高校の人らしき人達はいない。

 くっ、話が違うじゃない。


 でも、6-3か。

 あれ? 三峰、3点も入れたんだ。高校入学後すぐの新入生達が相手だとしても彼らだ。もしかして三峰もそれなりに......。

 

 って........え?


 「え?」

 ち、違う。


 え? どういう.....こと?

 何で? どうなっているの?

 

 でも、今彼らが走らされている理由も、あの表情も.......


 そして、他の子たちもようやく気が付いた様。

 このとんでもない違和感に。


 「え? さ、三峰が6点? 聖徳から?」

 「どうなってるの? 何かトラブルでもあったとか......?」


 嘘......でしょ?

 聖徳の彼らが負けた?

 本当にいくら高校にあがったばかりでの彼らでも、噂に聞く三峰には負けようがないはずでしょ? 


 「もしかして玲奈? 何してるの?」

 

 え?


 「あ、ゆ、優華!」

 

 す、すごくいいところに。

 聖徳のマネージャーである優華なら必ずしっているはず


 「ねぇ!あれ、どういうこと!」

 「あれ?」

 「う、うん。なんで聖徳が負けているの? どう考えてもおかしいじゃない」

 どう考えても。


 「それが.......」

 「うん。それが?」


 そしてその質問に優華の表情もどこからどうみても暗いものに


 「始めは普通にうちが圧勝していたの。相手も言っては悪いけれどあの三峰だし、脅威になりうるのはあの仲居くんだけ。彼さえ抑えておけばもう他は別にって感じだった」

 「うん。そうよね。私もそう思う。でも何で、も、もしかして仲居くんが一人で?」

 でも、いくら何でもそれは.......


 「いや、違うの。そ、それが急に後半から何かそれまではベンチで不貞腐れた様に座っていた男の子とものすごく眠たそうにしていた超太った全然顔も知らない子達が交代で入ってきて.....。いや天パの太った方はもしかしたら本当にあの......。」

 「そ、それで」


 「気が付いたら、急にその子たちが豹変した様に.......」

 「う、うん」


 「それで負けていたの.......」

 「え? 気がついたら?ど、どういうこと?」


 全くわからない。話しの意味が。気が付いたら負けていた?


 「あの子や仲居くんもすごかったけど、特にあんな、あんなえげつないシュートは見たことない........。しかもそれにもう一人.......。」

 「えげつないシュート?」

 「うん。って、あ、ごめん。もう行かなきゃ。ま、また今度ゆっくり遊ぼ玲奈」

 「え? ちょ、いや大事なところがまだ。ゆ、優華?」

 「じゃあね」

 「ちょ、ま、わかった。また後でLINEする、するから絶対に宜しくね。優華、絶対よ」


 行っちゃった

 でも、ど、どういうこと?

 わからない。全くわからない。

 

 えげつないシュート? 

 それに天パ? 他にも?

 え? 三峰は仲居くんだけじゃないの?


 え?一体何が起こった.......の?


 何で聖徳が負けているの?


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る