同姓同名!?~サッカーは、サッカーだけはもう勘弁してください~ (超改定確定版)

卑屈な社会人

第1話「帰ってきた男」


 ようやく帰って来た―――――

 やっとだ、やっと戻って来れたんだ。


 あれは小4の頃からだった。

 だからもう6年、そうか6年もあっちにいたのか。長かった

 そして、う、うれうれうれうれ嬉しすぎて泣きそう......。


 間違いない。間違いなく今、俺の目の前にあるのは我が家の玄関。

 この赤い瓦礫屋根の何の特徴もない建物は、間違いなく俺が住んでいた家。駄目だ、本当に泣きそう。

 

 「洋介すまなかったな。父さんの転勤のせいで」

 「うん。正直に言う。地獄だった。それはもう地獄だった」


 地獄。大袈裟ではなく毎日が地獄。

 肉体的にも精神的にもそれはもう地獄だった。

 既に、さっきから頭の中にはくどいぐらいに地獄と言う文字しか浮かんでこない。

 何せあっちでの生活は全て――――


 許さない。そんな言葉だけでは絶対に許さないぞ父さん。 


 「ははっ、本当にすまんって。これからの高校生活はこっちで存分にエンジョイしてくれ」

 「うん。当たり前だ。絶対にエンジョイする。失われた学生生活を必ず取り戻す!」


 とりあえず、まずは貯まりに溜まったアニメに漫画にアニメに漫画

 そして寿司!


 ただいま!マイホーーーム!!!


 「あら?あらあらあら、え? 松坂さん? 帰って来たの?」


 って、ん? 誰だ?


 「おお、佐久間さん!お久しぶりです。そうなんです。向こうでの仕事も終わってようやく帰ってこれまして。また親子ともども宜しくお願い致しまーす」

 「あ、ボン......じゃない。こんにちは。」


 隣のおばさんか。超久しぶり。


 そして声が聞こえてきたかと思えば、もう隣にいる。

 くっ、逃げそびれた。絶対に長い。 

 俺は一瞬でこの人がお喋り好きのおばさんであったことを思い出す。

 最悪だ。

 ア、アニメ......。漫画......。寿司....... 


 でも、おばさん。全然変ってない。

 まぁそうか、普通はそういうものなのか。6年って。

 まぁ俺には10年にも20年にも感じたんだけれども。


 「え? 洋介くん? あなた洋介くんなの?」

 「え? あ、はい。そうですけど」


 そ、そうだけど何だ。

 いや本当に何だ。その亡くなっていたと思ってた人が急に目の前に現れました的な驚き方は.......。

 いちいち大袈裟だぞ。おい。

 てか、その右手に持っているバックと共に買い物に行くつもりだったんだろ。早く行ってくれ。頼む。俺にはやらなければならないことが山ほどあるんだ。

 だから足を止めないでくれ、おばさん。


 「えー!嘘でしょー!え? すっごーい、あの小さかった洋介くんがこんなに大きくなってるー。確か玲奈よりも小さかったはずなのに、なによ。この逞しくなった身体ー。うわー180ぐらいあるんじゃないのー?」

 「い、いや、そんなに触らないで.......。ちょ、え? おばさん?」


 え? 何これ? 何でこの人はこんなにはしゃいでいるの?

 って、あ、あ、何だこのテクニック


 「しかも、顔つきも!うわー男らしくなっちゃってー。失礼かもしれないけど、あんなにナヨナヨとしていた洋介くんがまさかこんなにねー。玲奈もびっくりするわよー。絶対」

 「あ、そうですか」


 玲奈か。

 いや、正直この6年間のうち俺なんてあいつの記憶の片隅の一片にも現れなかったと思うぞ。うん。間違いない。


 「あー、でも玲奈。今日も遅いんだろうなー。確か今日は中学のサッカー部のお別れ会的な集まりがあるらしくて。残念ー」


 サッカー。


 くっ、嫌だ。サッカーなんて言葉二度と聞きたくない。

 地獄の言葉。いや、サッカーこそが地獄

 やっぱりこのババアは疫病神か。ぐあああ俺の脳が


 「あ、そうだ。サッカーで思いだしたけど。ほら、もう一人のあの強かった方の松坂く.......あ、違う。ごめんなさい。あの、ほら、もう一人の松坂君いたじゃない。太陽の方の介君」


 「あー、いましたね」


 あー、確かにいた。そんな奴。

 確か、いつも俺のことをバカにしてきた

 ―――——

 のものすごく嫌な奴。  


 でも、すっかり忘れていた。

 あっちでの生活が過酷すぎて思いだす暇もなかった。

 ははっ、あの頃は憎くて憎くてしかたなかったんだっけ

 なのにマジで忘れてた。

 不思議にも今は何とも思わないし、心底どうでもいい。 


 「あの子、あのサッカーの名門。白鳳学園に推薦で行くみたいでね。そのお祝い会も兼ねているみたいなのよ。白鳳よ。白鳳!もうプロを約束されたものよ。ほんっとすごいわよねー」


 「すごいですねー」

 白鳳? 知らねえー

 とりあえず、すごいってことにしておくからサッカーの話題はやめろ。

 本当にやめてくれ 


 「あ、そういえば、洋介君もサッカーは続けてた?あなたも介くんには及ばなくてもそれなりに強かったじゃない。人一倍に頑張っていたし。もちろん高校でもするのよね」


 「え、いやいやいやもう勘弁です。絶対にしません。絶対に!」


 「えー、そうなのー? せっかくこんなに良い身体してるのにもったいなーい」


 いや、誰がするか。するわけないだろ。

 もういい、もう十分なんだよ。サッカーは。

 高校でもサッカー? ふざけんな。 高校ではアニメ同好会に決まってんだろ。

 俺は失われた輝かしき学生生活、そしてジャパニーズカルチャーを取り戻さなければならないんだよ!!!


 「あ、そうだ。玲奈はどこへ進学すると思う?」


 ん?なんだ。聞いてなかった。

 

 「わかりません」

 

「ふふ、白鳳。キャー!もし玲奈がプロサッカー選手のお嫁さんになちゃったりしたらどうしよー」


 「へー、すごいすごーい」

 本当にどうでもいいからサッカーの話は止めて下さーい。


 「でも、どうもあの子、くんには気がないみたいなのよねー。向こうはまんざらでもなさそうなのに、もったいない。何でだと思う? 私に似て美人なのにさー」

 

 だから知らねぇー

 あと自分で言うなよ。まぁ美人だけども。


 「いや、知りませんけど」


 だからとりあえず、とりあえずもう解放してくれ。

 俺にはやらなければならないことがあるんだ。身体が、身体がを欲しているんだよおおおおおおおおお!!!


 「あ、そういえば聞いてなかった。洋介君はどこの高校に行くの?」

 「ん? 僕ですか?」

 「うん。どこ?」

 「えーっと、確か三峰高校?とかいうところです」


 家も近いし。環境も悪くなさそうだったから。


 「おおー、サッカーの名門高校ね。やるじゃない」


 だから何で、何でサッカー、いや、もういいや。

 とりあえず心を無にしよう。いくら否定しても無駄だ。

 落ち着け俺。落ち着いて時が流れるのをゆっくりと待つんだ....俺。




 そしてちょうど半日前、日本の裏側のではちょっとした騒ぎが起きていた。


突然


――—と呼ばれる将来有望な日本の若き選手が消えたと騒ぎに――—





  


 


 

 

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