第13話本当にやり直せないのか?
真冬Side
「最悪……」
私がしでかした悠士への行動に嫌気しか感じない。
未練がましく近づいて、付き合っていた時みたいに甘えたくなる。
小春ちゃんと仲良くしてるのを見たら、我慢できなくなってしまった。
別れている。
もう終わった。
だからこそ、ちゃんと線引きをして『シェアハウスで出会った他人』を演じなくちゃいけない。
なのに、なのに……。
なんで、行動をうまくコントロールすることが出来ないの?
もしかしたら、もしかしたらを狙って――
「今更、反省してるって悠士に言っても遅いのに」
未練がましく元カレに近づいてしまう。
そんな自分に嫌気しか感じない中、雨音が聞こえて来た。
窓を開けていた私は閉めに行くと、隣のベランダに悠士の洗濯物が干されている事に気が付く。
「しょうがない。入れといてあげよ」
今、家に居ないのは知っている。
だから、私は洗濯物を手を伸ばして取り込む。
そして、畳んでやる必要などないのにわざわざ畳んでしまった。
「……はあ。さてと、雨降ってるけど、ご飯を買いに行こ……」
気晴らし含めて私は雨降る中、コンビニに夕食を買いに行った。
「ただいまキャンペーン中です。くじを1枚引いてください」
700円以上買ったせいか、くじを引かせて貰う。
ガサガサと箱の中からくじを取り出し、店員に見せる。
「今、交換しますね~」
どうやら何かが当たったようだ。
で、当たったのは『お酒』だった。それも、度数がきつい9%のやつ。
今回はお酒を一切買ってないのに、どうやらお酒のくじが入った方を引かせてくれたっぽいね。
普通のくじの方が良かったんだけど……。まあ、いいや。
「ありがとうございました~。また、お越しくださいませ~」
店員の声を聞きながら私は家を出た。
お酒か……。
私は飲めないというか、飲みたくないし、誰かにあげれば良いか。
と思っていた。
しかし、夕食を食べた後、私はふと友達の言っていた事を思い出す。
『嫌なことがあったらお酒に逃げる! いや~、ストロングゼ口は最強でしょ』
言われた時は、何を馬鹿言ってるの? と鼻で笑った。
「私は酔いきれてないのかな……」
酔うとだらしなく素直になってしまうのは酔いが浅いから。
もっと酔えば嫌なことは忘れて楽になれる?
ふとした疑問を抱き、誰かにあげる気でいたお酒を手に取った。
「さすがに辞めとこ」
この前やらかしたばっかりだし。
でも、また何か辛い感情を感じた時は……試してみようかな?
*
悠士Side
真冬の課題を見てやった後、別に何かが起きる訳でもなく迎えた土曜日の夜。
俺は小教室で塾講師のバイトに勤しむ。
「ここがこうなる。っと、そろそろ終わりにしましょうか」
良く質問してくれる生徒だったので、気がつけば授業はもう終わりだ。
教えていた生徒が帰ったのを見届ける。
それから、俺は教材を棚に戻しタイムカードを切ろうと思ったが、
「何か仕事ってありますか?」
「珍しいね。加賀君が自分から仕事を求めて来るなんてさ。まあ、良いか。ちょうど、誰かにテストの採点を手伝って貰おうと思ってた。お願いするよ」
「はい」
「じゃ、よろしく。これ、答えね」
何だかんだで塾を出たのは22時20分。
22時以降は割増賃金を出さなくてはいけないが、俺が勤めている塾は22時で強制的にバイトのタイムカードは切られる。
深夜での割増賃金は出されない。
要するに20分を無賃金で労働をさせられた……という訳ではなく
「今日の残業代は500円か」
すぐに現物支給で渡される。しかも、結構割高。
バイトの給与計算が面倒だから、こんな仕組みらしい。
誰がどう見てもグレーな仕組みだが、まあわざわざ波風を立ててもな……。
「食って帰るか」
雨が降ったのか少し濡れていた地面を歩き、牛丼屋に入り夕食を済ませた。
で、シェアハウスに向けて歩く中、日和さんの姿を見つけたので話しかける。
「日和さん?」
「あ、加賀君。どうもです。バイトに行ってたんでしたっけ」
「はい。バイトの帰りです。日和さんは?」
「ちょっとしたお買い物ですね」
手に持っていたビニール袋を見せてくれた。
「なるほど」
何だかんだで一緒に話しながら、シェアハウスへ帰った。
「ただいまです」
日和さんは『ただいまは言わないんです?』という顔している。
なので、俺も大き目な声でリビングの方へ言う。
「ただいま」
そしたら、リビングから小春ちゃんと朝倉先輩の声が聞こえて来た。
「おかえりです」
「おかえり」
そして、俺は心にダメージを受けた。
真冬と同棲していた時に起きた苦い経験が頭によぎったせいである。
ただいまと言ったら、おかえりが聞こえるのは間違いじゃない。
俺と真冬が同棲してる時もそうだった。
だけど、真冬と喧嘩してる日は違う。
ただいまと言ったら返事がなく、顔を合わせたら舌打ちである。
ふと、俺は今思い出したようなことがシェアハウスで起きてないのか気になり、靴を脱いでる日和さんに聞く。
「例えばですけど、住民と住民が喧嘩してる時、ただいまと言ったら無視されるって事はあるんですか?」
「ありますよ。でも、喧嘩してる時とかは大抵、当人同士は共用スペースにほとんど居ません。なので、そもそも顔を合わせるのが少なくなります。だから、そんなに気にはなりませんよ」
「なるほど」
一緒に住む。
喧嘩したら気まずくなると思ったが、それぞれの部屋がある。
自分しかいない部屋に引き籠れるから、気まずくなくなるまで互いに顔をあんまり合わせることを防ぐことが出来る。
1DKの部屋で真冬との同棲。
その時は顔を合わせたく無かったら、帰らないという選択肢しかなかった。
ひとり、一部屋。
俺と真冬もそう言う風に出来ていたら、変わっていたのか?
いやいや違うだろ。恋人と同居人は全くの別物だろ。
恋人ならたとえ、ワンルームで喧嘩しようが普通に仲直り出来たはずだ。
何を未練がましく、思い耽ってんだ?
「はあ……」
真冬との記憶を思い出したからなのか、ただ疲れているだけなのか。
どっちのせいで、ため息が出たのかよく分からない。
手を洗った後、リビングに居た小春ちゃんと朝倉先輩に挨拶して自分の部屋へ。
「真冬からか」
部屋に入って割とすぐ。
隣の部屋に住んで居る真冬からメッセージが届く。
『ちょっとそっちに行くから』
「入るね」
その声と同時に俺の部屋に入って来た真冬は綺麗に畳まれた服を持っている。
「その服は?」
「悠士の。取り込むのを忘れてバイトに行ったでしょ?」
「代わりに取り込んでおいてくれたのか」
「そう言うこと。じゃ」
わざわざ丁寧に折り畳んでくれた服を受け取る。
俺は課題を見てやった時の真冬みたいに振る舞った。
「ありがとな。取り込んで貰ったのに加えて、わざわざ畳んでくれてさ」
「……前はお礼なんて言わなかった癖に」
「そっくりそのまま返す。お礼を言わない方がおかしかった」
反省してるのもあるが、小春ちゃんと会話を重ねるごとに思い知らされた。
どんなに些細なことでも、お礼や気遣いを忘れちゃいけないことを。
そう、あんな風にうざく絡まれても嫌な気がしないのはきちんとお礼を言うし、何だかんだで気遣いは欠かさない。
昔、それこそ兄妹みたいに仲良くしてた相手だというのに欠かさずに気遣いとお礼をしてくれる。
だからこそ、小春ちゃんと接していて嫌な気は一切しないのだ。
真冬も言っていた。
彼氏彼女の関係に甘えて何もかも甘く見ていたと。
それは俺も同じ。
小春ちゃんが得意な気遣いとお礼をすっかり忘れていたんだ。
「反省してるんだ。悠士も……」
「まあな」
「それじゃ」
真冬は何も言い返さず俺の部屋を出て行く。
で、携帯を弄り始め20分が経つ。
そんな時、俺の部屋にいきなり真冬が入って来た。
「ん?」
「ごめん。ごめんね。面倒くさくてさ」
俺の方へ謝りながら近寄って来て、ぎゅっときつく抱き着かれてしまう。
「なにを!?」
何が何だか分からない。
ひとまず、俺に抱き着き顔をうずめている真冬を引っぺがしたら、真冬の顔色が赤いしほんのりアルコールの匂いが香って来た。
「酒飲んでるのか?」
「うん。嫌なことを忘れたくて飲んだ。でもさあ、逆にさ、逆にさ、忘れるどころか苦しくなって……。だから、取り敢えず悠士にいっぱい謝りに来た」
「お、おう」
「冷蔵庫にあったアイスは勝手に食べたし、うざいからってベッドから落としたし、本当にごめんね……」
酔ってるせいか、普段よりも素直に謝る元カノ。
謝罪を聞き続ける中、俺は未練がましくこう考えてしまう。
本当に俺と真冬はやり直せないのか?
今まで復縁するのは無理だと遠ざけて来たというのに。
そう考え初めてしまうのであった……。
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