第17話格好良くなった理由は元カノ
小春ちゃんとお出掛けすると約束した30分後。
シェアハウスの玄関先で待っている。
俺と遊びたいからって『私と遊んでる証拠を送り付けて、元カノさんに嫌がらせしましょう』だなんて良い訳をして可愛い妹分だ。
「お待たせしました。ふふふ。悠士先輩が喜ぶと思って高校の制服ですよ! 」
現れたのは学校に行くという訳でもないのに、制服を身に纏った小春ちゃん。
別に男は誰しも制服が好きとかそう言う訳じゃないのにな。
「最初に脱衣所で会った時もそうだったが、制服が良く似合ってるな」
「ですよね? さてと、行きましょう! 元カノさんへ、俺はモテるんだとアピールし、後悔させ優越感に浸るために!」
「だから、そんな性悪な事しないって。で、どこに行くんだ?」
「こう見えて、私はインスタグラマー。今日は有名なタピオカジュースをインスタ映えさせたいので、タピオカを飲みに行きましょう!」
「インスタが好きなのか?」
写真に一言コメントをつけ共有するSNS、インスタグラム。
世代を問わず、そこらに居る小学生からおじいちゃんすら知っている。
女子高生である小春ちゃんは絶賛ドはまり中っぽいな。
「まあ、それなりには。ただ、最近は周りの子はTik Tok(ティックトック)にドハマりしてるみたいですけど。私はインスタ一筋です」
Tik Tok(ティックトック)とはショートムービーを投稿できるプラットフォーム。
踊ってみたり、笑いを取るために奇抜な行動をしたり、歌に合わせて口ずさむ振りをするといった色々な動画が投稿されている。
手軽に楽しめることから、若い世代に絶大な人気を誇る。
「確かに、インスタ映えとか言ってたのに、いつの間にかティックトックの方にドハマりしてる奴が大学でも多いな」
「あ、悠士先輩は何かやってるんですか?」
「教えたら俺のアカウントを探してきそうだし辞めとく」
一応、ほとんどのSNSでアカウント自体は作ってある。
使うのは漫画やラノベ、アニメの情報を仕入れるためのTwitterぐらいだけど。
インスタとかも自分から投稿はしないが、ちょくちょく友達の投稿を見るためにアカウントは持ってる。
「教えて下さいよ。私ともっと繋がりましょうよ~」
「うるさそうだからダメだ。ほら、前見て歩け。車に轢かれんぞ?」
「轢かれませんって。悠士先輩は心配性なんですから。そんなに、心配なら手でも握っておいてください」
手をわざとらしく俺の方へ出してきた。
小さい時は手を繋いでやれたが、今はさすがに憚られる気がするようなしないような微妙なライン。
だがしかし、手を繋がなかったら、繋がなかったらでうざいはず。
相手は、あの俺の後ろをちょろちょろしてた妹みたいな小春ちゃん。
気にしすぎても、しょうがないか。
「俺と手が繋ぎたいのはお前だろ」
目の前に出された手をぎゅっと握ってやる。
妹みたいなもの。年齢的にはまだまだ子供だしなんの問題もない。
「うぇっ!?」
いきなり手を繋がれて驚く小春ちゃんが可愛い。
ああ、そうか。
リア充女子だけど、まだ高校1年生。
「意外と初心なんだな」
「っく。負け惜しみになるので言い返せません……。というか、手を離してください」
「まあまあ。昔っから危なっかしいし、日和さんにお願いされてる。怪我させられないしな」
思春期真っ盛りなお年頃。
なんだかそれが可愛くて、ついつい虐めてしまうのであった。
*
小春ちゃんの手を繋いだまま歩いたのも束の間。
いつの間にか巷で話題なタピオカドリンクのお店に辿り着いていた。
「並んでんな~」
「土曜日ですからね。悠士先輩は並ぶのは嫌いですか?」
「そんなに嫌いじゃないな。今はこれがあるし」
ポケットから取り出した携帯電話。
ネットも出来るし、ゲームも出来る。最強の暇つぶしアイテムだ。
「あれ? 携帯を弄らないんですか?」
「横に女の子の連れが居るのに無視するほど、デリカシーが欠けてない。という訳で、 小春ちゃんが高校1年生になって2カ月。そろそろ、色々と面白い話のネタの一つや二つ出来ただろ? せっかくだし何か話してくれ」
「ちょっと偉そうですね。まあ、良いでしょう。うちの高校に伝わるちょっとした都市伝説でもしてあげますね」
一応、小春ちゃんの通っている高校は俺の母校でもある。
真冬との関係がバレるので、一緒の高校だった事は言うつもりはないけど。
てか、うちの高校に都市伝説ってあったっけか?
さてと、どんな話が出て来るのやら……。
「都市伝説名、居るはずなのに居ないイケメン俳優に似た男子生徒」
「すー」
思わず深く息を吸ってしまう。
「どうしました?」
「いいや、何でもない」
「じゃあ、続きを。約3年前か2年前、学校にはクール系美少女でちょっとサバサバしてる女の先輩が居たらしいんですよ。それはそれはもう目立つ女子生徒だったそうです」
「な、名前は?」
「あ~、それがプライバシーの保護のため名前は出しちゃダメ。という訳で、私にこの都市伝説を教えてくれた人も、名前は教えて貰えなかったそうです」
「まあ、プライバシーは大事だよな。うん、超大事だ」
ほっと胸をなでおろす。
ふぅ。
「で、続きです。その名前がプライバシーの保護のため伝えられない綺麗な女子生徒。彼女は放課後になると、イケメン俳優に似た同じ高校の制服を着た男子生徒と遊んでたらしいんですよ。周りは、誰なの? と茶化して聞いたり、探したり、色々したそうなんです」
「でも見つからなかったってか?」
「そう、そうなんですよ! どこを探しても、誰に聞いても『イケメン俳優に似た男子生徒』が居なかったんです。綺麗な女子生徒も誰なのか教えてくれないので、本当に誰なのか分からなかったそうです。超怖いですよね。居るはずなのに、見つからないなんて」
「あ、ああ。こ、怖いなあ~」
「あれ? なんか震えてませんか? 怖い話と言っても、謎要素が強いだけで、震えるような話では無かったんだと思うんですけど?」
横でちょっと震える俺に不思議そうな顔をする小春ちゃん。
色んな気持ちが駆け巡ってるせいか、めちゃくちゃ震えが止まらない。
「あ、ちなみに居るはずなのに居ない男子生徒に似ているって噂だったイケメン俳優さんは、この前、真冬先輩が好みの男性って言って見せてくれた俳優さんですよ!」
「そうなのか。いやあ、偶然だな」
「というか、あれ? そう言えば、先輩って話題に出たイケメン俳優さんに似てますね。まさか、正体は悠士先輩だった?」
「ち、違うだろ。たまたまだ」
「あははは、そうですよね。悠士先輩が謎の男子生徒な訳がありませんよね!」
笑う小春ちゃん。
しかし、俺は全く笑えない。
なんでかって?
「俺がその都市伝説に出て来る謎の男子生徒な訳がないだろ?」
謎だと噂になり、都市伝説にすらなっている男。
その正体は――加賀悠士こと俺なのだから。
一時期、噂されたのは知っている。
でも、卒業した今、まさか学校で都市伝説化され、語り継がれてるとは思ってもいなかった。
めちゃくちゃに恥ずかしい。目立ちたがり屋じゃない俺からすれば悶絶ものだ。
てか、絶対に俺の名前だってバレないでくれよ?
思い出に浸りながら、タピオカを飲むため列に並んでいると小春ちゃんは俺の服装を見て来た。
「そういえば、悠士先輩ってなんで格好良くなってるんですか? 理由を教えて下さいよ~。何があって、そんなにイケメンになったか気になります。私も変わった理由を教えてるんですから、教えてくださいって」
「絶対に教えねえよ」
「あ、話は戻るんですけど男子生徒が見つからなかった理由って、普段はめちゃくちゃにダサくて、放課後だけイケメン俳優に似た格好をしてたとかありえませんか? いや~、小春ちゃんは天才かも! 真実に辿り着いちゃいましたね」
「そ、そんな訳ないだろ」
ある所にリア充クール系美少女と冴えない陰キャオタクが居た。
二人は一冊のライトノベルをきっかけに仲良くなった。
そして、次第に仲は深まり恋人になる。
だが、残念な事に当時、クール系美少女が所属していたグループはオタクが嫌いでオタクとつるむ事すら許さない過激派の奴が居た。
そのため、クール系美少女と陰キャオタクは誰にもバレないように陰で仲良くしていた。
でも、周りにバレるのを気にしないで、気軽に一緒にお出掛けしたかった二人。
クール系美少女はとある事を思いつく。
『正体を隠せば良いんだよ』
学校では陰キャでダサい。
でも、クール系美少女と遊びに行くときだけは、おしゃれする事で正体を隠すことにした。
結果、思った以上に格好良くなれた。
オシャレに成れと言った本人も想像以上の出来栄えに驚く。
『格好良いじゃん。君の事がもっと好きになった。あのさ、大学生になったらその恰好で過ごせば?』
今からは駄目なのか? と聞いたら、
『ダメ。君と私が付き合ってるのがバレちゃうし』
そりゃそうだ。
オタクバレしてるせいで、一緒に歩けないから格好良くなったんだから。
納得し何食わぬ顔で歩いてると、少し恥ずかしそうにクール系美少女は呟く。
『普通に格好良いから、誰かに取られちゃうかもだし……』
可愛い姿が見たくて見つめる。
だけど、顔を見られたくないのか、そっぽを向かれ隠されてしまう。
これを知っているのは、クール系美少女と陰キャオタクの二人だけだ。
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