第16話小春ちゃんは甘えたい! 

「あ、真冬ちゃん。おはようございます」

 ブラを付けて戻って来た日和さんが真冬を見つけて挨拶した。


「うん、おはよ」


「真冬ちゃんも朝ご飯を……と思ってましたけど、今日は早い時間からバイトでしたっけ?」


「うん。これからバイト。気持ちだけ受け取っとく。ありがと」

 今日は早い時間から予定のある真冬はそそくさと準備を始める。

 そして、あっという間に準備を終えてバイトへ行った。


 一方、俺は時間に縛られる理由も無いので、ゆっくりとリビングでくつろぐ。 

 何だかんだで、昨日は遅めに寝たのに割と早い時間に起きてるせいか眠い。

 テレビを見ながら、ぼ~っとするも、キッチンでは朝ご飯を作ってくれている日和さんが居る。


「手伝いますか?」


「いえいえ、一人で十分ですよ」

 その言葉は嘘偽りない。

 5分も掛からないうちに日和さんは朝食を作り終えた。


「加賀君。出来ました」

 焼いたベーコン。スクランブルエッグ。レタスにコーンが乗った簡単なサラダ。

 そして、トーストだ。

 綺麗に1枚のプレートに纏めてあり、見栄えは凄く良い。


「どうもです」


「いただきます」


「はい、召し上がれ」

 日和さんに作って貰った朝ご飯を食べ始める。

 いつもは朝昼兼用だが、こういう風にしっかり朝から食べるのも悪くない。


「ふああ~~。おはようです」

 あくびしながら自分の部屋から出て来たのは小春ちゃん。

 昨日の夜はソファーで寝てたのに、いつの間に部屋に戻ったんだか。


「おはよう。小春ちゃん」


「あ、悠士先輩。お姉ちゃんに朝ご飯を作って貰ったんですか?」


「まあな。せっかくだし」


「それにしても、お姉ちゃんのは作る朝ご飯は、普通で面白くないですね」


「小春。文句言うなら、自分で作ったらどうですか?」


「嫌ですね~。面白くないって言ってるだけで、これはこれで立派な朝ご飯なのは私だって分かりますよ? お姉ちゃん! いつもありがとうです」


「色々と雑なお礼ですが、言わないよりかマシなので良しとしましょうか」


「さてと、いただきます」

 手を合わせ俺と同じく遅めの朝食を摂り始めた小春ちゃん。

 もぐもぐとトーストを齧る中、俺は話しかけた。


「そういや、昨日はソファーで寝てたけど、いつの間に部屋に戻ったんだ?」


「あ~。私はソファーで寝てませんよ?」

 何食わぬ顔でしれっと誤魔化そうとした時だ。

 日和さんが目を細めにっこりと笑った。


「私はリビングで寝るなって言いましたよね? 小春?」


「いやいや、寝てないですって。ゆ、悠士先輩が見間違えただけですって」

 

「朝倉先輩も見たからな。誤魔化すんじゃない」


「っく」


「罰として、後でスーパーでお買い物して来てくださいね」


「はいはい。分かりましたよ~だ」

 やたらと素直な小春ちゃん。

 反論しないのか? と思っていたら、心外だと言わんばかりに説明を始めた。


「悠士先輩。私が素直なのがおかしいんですか? まあ、そうでしょうね。だけど、私は逆らえません。そう……。割とお姉ちゃんの機嫌次第で、私は実家へ強制送還されるんですよ。とはいえ、逆らって良い時は逆らいますけどね! 今回の件はつい最近にも怒られてます。なので、逆らったら絶対に怒られるので素直な訳です」

 

「なるほどなあ。小春ちゃんは日和さんの匙加減でこのシェハウスから出て行かざるを得ないのか」


「そういう訳です」


「てか、なんでシェアハウスに住んでるんだ?」


「お母さんとお父さんが、きもいからです。よりを戻したっていう訳で、もうお互いに反省すべきところは反省してるし、喧嘩はしてもすぐに仲直りしてるし。もう本当に見てられないほど、イチャイチャなんですよ……」

 やれやれと振る舞う小春ちゃん。

 さらに横で苦々しく笑う日和さんが事実を物語っている。


「ちなみに、どうしてよりを戻したんだ?」


「私達にバレないように裏で会ってたり、連絡を取っていたりと、そんな感じでよろしくやってるうちに気持ちが再燃。で、よりを戻したみたいですよ。きっかけは、お姉ちゃんはお父さんの所で暮らしてました。でも、男一人で育てるのが、中々に悩みがあったようでお母さんに相談していたって言うのが、復縁に至るきっかけだったそうです」

 食い入るように聞いた復縁までの道のり。

 ふと、俺は小春ちゃんに聞いていた。


「復縁する時は反対しなかったのか?」


「反省してたので。別に……。あ、もしかして悠士先輩。元カノさんと復縁したくて、色々と聞いてるんですかあ?」

 面白いものを見つけたと言わんばかりに詰め寄る小春ちゃん。

 そんな小春ちゃんに俺は意地を張る。


「ちがう」

 

「え~、本当ですか? ま、そうですよね。復縁したければ、わざわざシェアハウスに出会いを求めて引っ越しませんし。とはいえ、ずるずる引きずってるのは見え見え。では、その未練、私が解決してあげましょう!!」


「俺に彼女が居ないって思ってたのはどこのどいつだ? 信じてないんだろ?」


「私もさすがにリア充の端くれ。先輩に彼女が居たかなんて見抜く事くらいできますよ。嘘くさかったですけど、反応からして彼女が居たのは本当っぽいって、思い直しました。小春ちゃんは、間違いをちゃんと認められる子ですからね!」


「で、具体的にはどういう風に俺の未練を断ち切らせてくれるんだ?」


「まず私とお出掛けします。そして、私と一緒にツーショット写真を撮る。それを元カノさんに送り付ける。ふふふ。どうです? 元カノに『俺はお前と別れてもすぐに彼女が出来る男だったんだ。別れた事を悔しがれ!』とマウントを取り優越感に浸れるわけです。ね? すっきりしそうでしょう?」


「ドン引きなんだが? さすがにそこまで俺も性悪な性格してないから」


「まあまあ、口ではそう言ってますけど、明らかに今私に言われたことをしたいって顔をしてますよ」


「してないからな?」


「ノリ良く行きましょうよ~。悠士先輩~」

 小春ちゃんはご飯を食べ終え、俺の方にやって来てグラグラ体を揺らしてくる。

 しつこいなと思っていたら、日和さんが優しく笑いながら俺に言う。


「すみません。小春がしつこくて」


「いつもこうなんですか?」


「いえ。加賀君だからだと思いますよ。この子、お父さんとお母さんがよりを戻して、みんなで一緒に暮らし始めた頃は、ずっとお兄ちゃんに頑張れって言われたから、ちゃんと頑張らないとって言うのが口癖なくらいでしたし。たぶん、何だかんだで加賀君と再会できてテンションが上がってるんでしょうね」


「お、お姉ちゃん。嘘言わないでくださいよ!」


「ああ、そうか。俺の元カノに私とデートしてその証拠を送り付け、嫌がらせして未練を晴らそうだなんて言ってるけど、本当は俺と遊びたいだけだったのか? 悪いな、真意を分かってやれなくて」

 

「ち、ちがいますよ!? 元カノに負わされた傷を癒してあげようという親切心からですう~~」


「ま、そういう事にして置いてやろう。あ、もしかして、俺に昔と変わったのを見せつけるためにうざ絡みしてきてたんじゃなくて、本当は昔みたいに俺に甘やかされたくて絡んで来てたか?」

 焦る小春ちゃんが可愛いので、もう少しだけ可愛がることにした。

 再会してから、からかわれっぱなしだったしこのくらいは許されるはずだ。

 俺の言った事を必死に否定する小春ちゃんは、捨て台詞を吐いて俺の前から消えていく。


「悠士先輩のば~か! さっさとご飯食べてください! 玄関で待ち合わせですからね!」


「ったく。普通にお出掛けは行く気なんだな。まあいい。今日は暇だし付き合ってやるか……」


「すみません。よろしくお願いしますね」

 仲睦まじい兄妹を見守っているかのような笑みを浮かべる日和さん。

 小春ちゃんの事をお願いされてしまう。

 日和さんとは、何だかんだでここに来るまで面識はない。

 俺の事を信用してる様子なので、心配じゃ無いのか聞いたらこうだ。


「ん~。さっきもそうですし、加賀君の事は色々と確かめてますからね」


「さっきも?」


「ノーブラの件ですよ。実はあれ、加賀君の反応を見るためにわざとノーブラだと言いました」


「ああ、なるほど」


「信用しすぎないのも大人の務め。私はこのシェアハウスのオーナーであり管理人。住民を守る義務がありますからね。だから、ちょこっとだけ加賀君がどういう子なのか調べたくて、さっきはノーブラだって言う必要がないのにわざわざ言いました。本当だったら、普通に黙ってブラを付けに行きますからね?」

 色々と大人な日和さん。

 そんな彼女は優し気に笑いながら俺に告げた。


「私は加賀君が良い子だと信じてます。期待を裏切らないでくださいよ? 裏切ったら、このシェアハウスから追い出さなくちゃいけませんので」


「せっかく、シェアハウス生活が楽しくなってきたのに、わざわざ自分から手放すつもりはありませんって」


「ふふっ。そうでしたか。それじゃあ、一安心です」

 日和さんはそう言うと、朝ご飯が乗っていたプレートを片付け始めた。





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