第42話海を満喫する二人

(前書き)

 お待たせしました。

 夏休み感のある話を、夏休みに楽しんで貰えたら幸いです。



(本編)


 夏休み。

 彼女である真冬と海へ行くため、車を走らせている。

 免許を取り、そこそこ運転を重ねて慣れたはずだったのにな。


「緊張しすぎ」


「いや、だって彼女が横にいるとさ……」

 助手席には大事な人。

 運転の練習をして自信をつけたはずなのに、なんだか落ち着かない。

 うん、真冬の言う通り、張り切って熱海まで行こうってならなくて良かったな。

 この緊張のままだと、長距離だと多分すごい気疲れしたと思う。

 

 とまあ、緊張していたからか、気が付けば目的地へ辿り着く。


 潮の匂いが漂う中、俺と真冬は近くの更衣室へ向かうが、そこには長蛇の列。

 そりゃ、一番海が賑わう季節。このくらいは覚悟していたが……、それでもなんだか気が滅入る。

 特に女性の列は全然減らないどころか、どんどん長くなりつつあった。


「うーん。並んでたら時間が勿体ないね」


「でも、並ぶしかないだろ?」


「そう? 私達は車で来たじゃん」


「ん?」


「いや、車で着替えたらいい話ってことだよ。ほら、戻ろ?」


「あ、ああ」

 長蛇の列に並ぶ前、俺と真冬は駐車場へ戻る。

 するとそこには、見えはしないが、明らかに車の中で着替えているような人がちらほらと見受けられた。

 そういや、俺も家族で海に来たときは、更衣室なんて使わずに車の中で着替えた思い出があるな。


「あっつ……」

 車内は更衣室に向かうちょっと前までは涼しかったのに、もう高温。

 もわっとした空気がドアを開けた途端に、あふれ出した。

 そして、真冬はそんな車の中へ入って行く。


「タオルで体は外からは見えないように着替えるけど、見張りよろしくね?」


「だな。ちゃんと見張っておく」


「それじゃ」

 チリチリと肌に突き刺さる太陽の光。

 今日はいつもに増して暑いな……と思いながら、真冬が着替え終わるのを待つ。

 ちらりと横目で車内を覗くと、そこにはもぞもぞとボタンの付いている大き目なタオルの中でうごめいている。

 なるほど、準備万端だ。てか、俺、そういうタオル持ってきてないんだが?


「こっち見てないで、見張っててよ」


「ごめん」

 怒られたので真冬を守る騎士らしく、周囲の視線を警戒。

 で、それから数分後。

 真冬は着替えを終えたようだ。


「お待たせ」


「ん、ああ。ちゃんと見張って……」

 つい言葉を失う。

 だってさ……


「どう? 綺麗でしょ?」

 黒のビキニ。

 シンプルイズベストでセクシーな真冬が綺麗なのだから。

 くびれが凄まじく、お尻の形も綺麗で、腕も足もすらっとして美しい。


「エロいな」


「ふん!」

 俺の言動がお気に召さなかった真冬は俺の腹に小粋なパンチを繰り出した。

 うぐっ……、優し目とはいえ中々に効く。

 まあ、うん、俺が悪い。これは正当なる暴力だし、甘んじて受け入れよう……。


「わ、悪かったって。綺麗だよ。そして、くびれ凄いな。さすが、真冬さんだ」


「よろしい。あのさ、最初からそう褒めて欲しいんだけど?」


「あははは……。だって、脱いだときよりも、凄くスタイルが良く見えたし」


「ふ、ふーん。ま、気が向いたら、着…まま、し…あ……もいいけど」

 

「なんて言った?」

 全然聞き取れなかった俺は聞き直す。

 すると、真冬は俺の耳元に口を近づけ小さく囁いた。


「着たまましてあげる……ってこと」


「あ、はい」

 意外とサービス精神旺盛な真冬さん。

 そんな彼女は俺の背中を勢いよく叩いて、柄にでもないことを言った恥ずかしさを誤魔化した。


「恥ずかしいこと言わせないでよ! ほら、悠士も着替えて! 遊ぶんでしょ?」


「あいよ」

 今度は俺が車内へ。

 まあ、男はたいして時間も掛からない。

 ささっと、上を脱ぎ、下を水着に穿きかえるだけだ。


 で、真冬はというと、車内でもぞもぞと着替えている俺の方を見ていた。


「なんで、こっち見てる?」


「辱められた仕返し」


「いや、あれはお前が自滅しただけだろ」


「まあ、そうだけどね。でもさ、なんかこういう風に海に来たなら、ちょっとした悪ふざけをするのも醍醐味でしょ」


「……」


「なんで無言?」


「いや、最近は忘れかけてたけど、大学デビューした俺と比べて、真の意味で陽キャなんだなあ……って」


「はいはい」

 根っからの陽キャというか、リア充気質な真冬。

 そんな彼女にまじまじと見られながら、俺は着替える。

 いや、見張ってくれよ……。俺だって、お前以外に裸を見られるのは……普通に恥ずかしいんだが?

 とまあ、そんな気持ちも一瞬でおしまいで、遊ぶための準備は整った。


「よし、着替えも終わったし、行くか!」

 俺と真冬は貴重品をコインロッカーに入れる。

 砂浜へ向かって歩き出すと、真冬は俺の手を握ってきた。


「迷子にならないように手を握っといてあげる」


「ほんと、素直じゃないな」


「なんのこと?」


「いいや、なんでもない」

 迷子だのうんぬん抜きにして、ただ単に手を握りたかっただけな癖にな。

 とはいえだ。

 本当に迷子になったら、この人ごみだし、再会するのは難しいだろう。


「見失ったら、車の前に集合な」


「りょーかい」


「にしても、あれだな。今日は何というか、いつもに増してリア充感が凄いな」


「まだそれ言うんだ。いい加減認めなよ。私みたいな彼女がいる悠士は普通にリア充でしょ。そろそろ、自分はオタクだけど陰キャではないって認めなって」


「そうは言うけど、俺、ガチガチのオタクだぞ? なのに、こんな綺麗な子と二人きりで海とか、こう違和感が……」


「ふーん。じゃ、もっと違和感を強くしてあげよっか?」

 握っていた手を離した後、水着姿の真冬は俺の腕に両腕を使い抱き着く。

 デートは何度もしてきたが、外でこんなにもイチャイチャと近づいてくる真冬は初めてなせいか、顔が熱くなってきた。

 どうやら、それは真冬も同じなようで……。


「あー、恥ずかし」


「やっぱりあれか、海だから張り切ってるって感じか?」


「そりゃ、彼氏と海なんて張り切らないわけないよ」


「じゃあ、俺も張り切るか……」

 サーフパンツのポケットに仕込んだサングラスを取り出して装着する。

 別に目を守りたいとか、そうではなくて、ただ単に格好つけるために。

 するとまあ、真冬はケラケラと笑い出す。


「な、なにそのサングラス。似合わな……ぷっ、ごめん。笑いが止まらな……あはははっっ!」


「ちょ、酷くないか?」


「だ、だって、似合わないんだもん……。あー、おもしろくて……ぷっ!」


「そ、そう言う、お前はどうなんだ? ほら」

 サングラスを真冬に装着する。

 そしたら、まあなんというか、似合い過ぎた。

 ただでさえ、黒のビキニでセクシーだというのに、セクシーな感じが強くなる。


「どう?」


「めちゃくちゃ似合ってるぞ。というわけで、それはお前にやろう」


「え? いらないんだけど」


「あ、うん。そうか……」

 すぐに返して貰ったサングラス。

 真冬に笑われるので、再びつけることはなく、そっとサーフパンツのポケットへしまうのであった……。

 

 そして、俺と真冬はとうとう辿り着く。


「海って綺麗だよな」


「うん。綺麗だね」

 太陽の光を浴び、キラキラと輝く水面を見て二人してニヤッとした顔になる。

 さあ、今日は楽しんでやろうと意気込むも、二人してハッと気が付く。


「パラソル忘れたな」


「ブルーシートもね……」

 忘れてしまった理由は割と単純。

 彼女との海デートだ。嬉しくて、楽しくて、舞い上がってしまうに決まっている。

 そりゃ、パラソルやブルーシートを忘れてしまってもおかしくないだろ?

 でも、海を目の前にして、俺と真冬は止まれなかった。


「ま、ひとまず行くか!」

 真冬の手を取り海へ向かう。

 どんどん沖の方へ。

 だんだんと水深は深くなっていき、海水の高さがお腹あたりのところまで来た。

 そこで、俺と真冬は……


「ほらよっと!」

 両手で海水を掬った後、それを真冬へぶつけた。

 バシャっと浴びた真冬は仏頂面でちょっと怒ったご様子だ。


「ちょ、いきなり、かけないでよ! でも、そうだね。それっ!」

 仕返しと言わんばかりに俺に海水を浴びせてきた。

 思いっきり口に入る。


「げほっ、げほっ、こういうとき、お前ってほんと遠慮ないよな……」


「だって、悠士が最初に喧嘩売ったんでしょ? ほら、ほらっ!」

 むせる俺なんてお構いなし。

 満面の笑みで真冬は俺に海水をバシャバシャとぶつけてくる。


 何とも、べたな海の楽しみ方だが……。


「あははははっ! ほらほら!」


「くっ、真冬め! ほら、食らえ!!!」



 ちょ~~~~~~~~~、楽しい。



 それから、俺と真冬は日暮れまで、飽きることなく海で遊んだ。































 海で遊んだ日の夜。

 日焼け止めを塗り忘れ、体が真っ赤な真冬は宿泊先の旅館で俺に迫ってきた。

 わざとらしく俺の体をさわさわしてくる。

 でも、俺は敢えて無視を決め込んだ。

 すると、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、今度は素直におねだりしてくる。



「ねえ、しよ?」




 そして、俺と真冬は……(以下略)



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