第34話おねだりする真冬
「俺も変わらなくちゃな」
最近の真冬を見てるとそう思い知らされる。
同棲での失敗を経て、真冬は変わろうと頑張っている中、俺も何か変わらなくちゃいけないのは言うまでもない。
よくよく悩んだ末、たぶん真冬は……素直にならなくちゃ相手に伝わりにくい感情やものごとが生まれて来たと分かったんだろう。
俺と真冬が出会ってからすでに5年も経ってるからな。
慣れ親しんだ関係。
そりゃまあ、残念な事に拗れの一つや二つ起きてしまうのは致し方ない。
だから、
「前よりも、素直になろうと頑張ってくれてる」
俺と復縁するという約束を果たすため。
失敗を繰り返さないための、真冬なりの答え。
慣れてしまい拗れるなら、拗れないようにより感情をより露わにする。
「俺の場合、どうしてあげれば良いんだ?」
一方、イマイチ俺は真冬のような頑張る方向性が見えてこない。
長い年月付き合い。
これからもうまくやっていけると思っていた。
でも、同棲を始めた頃を境に真冬と上手くいかなくなってしまった。
厳密に言うと、大学に入ってからな気もするけどな。
「一体何がダメだったんだ? 好きだったのに、別れたく無かったのに。それなのに、あいつと上手くいかなくて……」
見えてこない答え。
ひとまず、分かっているダメだった所を口にして整理する。
「ルールが緩すぎた。初めての同棲なのに、互いにゆるゆるな感じ。結局、互いに遠慮なくなって勝手に物を食べたり使ったりした。で、喧嘩。なのに、再発防止について何も話しあわなかった……」
「後は……。プライベートが無いのがまずかった。四六時中顔を合わせてられると思ってたのに、たまには顔を合わせたくないなんて思うようになった」
「他には、言い争った日。ベッドで一緒に寝るのが嫌で嫌で、俺が床で寝てた。まあ、真冬も床で寝てたことがあるけど」
今判明しているダメだった点。
何か共通点はあるのだろうか?
いいや、たぶんない。
コツコツとひとつづ、洗いざらいダメだった理由を探し続けなくちゃいけない。
まだまだ頑張るしかない。
気持ちを強く持ち、俺は最近の真冬を見ていた事で気が付いた事を口にする。
「……真冬の事を思ってたよりも知らなかったんだよなあ」
知らない。
5年も経ったとか言っておいて、まだまだ知らないことだらけ。
そりゃあ、人として互いに違う個であるのだから、そう言う物なんだろう。
「ん?」
ポケットに入れていた携帯が震える。
画面を確認すると、同じサークルに入っている女子からだった。
今度の活動日についての連絡である。
「俺も変わったなあ……。昔と違って真冬以外の女の子から連絡が来るなんて」
……。
…………。
………………。
待てよ? 真冬と拗れるようになったから、変わらなくちゃいけない。
そっちばかりに目が行ってた。
実際は逆?
ああ、そういう事だったのか?
気が付いた俺はなぜ真冬と仲が拗れて行ったのか一番の理由に気が付く。
「俺が変わったからだ。それもきっと、仲が拗れて言った理由だ」
随分と変わった。
大学に入ってから、色んな人と仲良くするようになった。
積極性も前と比べものにならない。
「なるほどな」
俺に差し込んだ一筋の光。
その筋を辿って行くと、いとも簡単に真冬と拗れて行った理由が見つかる。
今の俺と昔の俺。
違う俺なのに、俺は真冬を昔の俺基準で大事にしてたのかもしれない。
友達遊ぶようになった。
誰かと遊びに言ってる俺を見て真冬は一体何をしてるんだ? と思うだろう。
プライベートな事は私に話さなくて良いからね? と真冬には言われた。
だから、そんなに俺は自分の事を真冬に話す事はなかった。
高校の時と違って、俺のしていることがどんどん不透明になって行く。
そりゃあ、今まで知ってる人が裏で何をしてるのか分からなくなっていったら……。
不安を感じたり、寂しさを感じたり、そんなことがあってもおかしくはない。
そして、それは絶対に態度に出るはずだ。
現に大学に入ってからの真冬は……どこか機嫌が悪そうなときが増えていた。
きっと、今俺が気が付いたこの事が原因だったに違いない。
早速分かったこの事実、俺は真冬に意気揚々と伝えることにした。
これから、一緒にアニメでも見ないか? と誘う。
すると、暇だったのか真冬はすぐに来てくれた。
ちょっと眠そうな顔で俺の部屋にやって来た真冬。
アニメを見ようと言った癖に、そっちのけで謝った。
「大学に入ってからさ。俺って随分と変わったよな?」
「まあね。高校の時に比べたら、本当に友達増えてるし。で、それが?」
「なのに、俺さ。お前にプライベートはあんまり語らなくて良いって言われて、馬鹿正直にそうしてた。本当に悪かったと思ってる」
「そっか……」
どこか嬉し気に頷く真冬。
勝手にリモコンを操作し、アニメを流しながら俺に言う。
「私さ。君がどこかに行っちゃいそうで怖かったのに何も言えなかった」
「俺がどこかに行く?」
「うん。大学生に入ってから、悠士って私以外ともよく遊ぶようになった。いつの間にか、私なんかよりも良い人見つけてどこかに行っちゃうかもって思うと本当に怖かった。君は変わって私を見捨ててどこかに行く。そう勘違いしたくないから、昔と変わってないって知るために、プライベートの事を聞きたくてしょうがなかったんだよ」
「正直に言ってくれれば良かっただろ。多分何でも答えたぞ?」
「言えるわけないじゃん。そんなこと言ったらさ、重い子って思うでしょ?」
「……思わない」
「ううん。絶対に思うから」
「思わな……いいや、悪い。ちょっと思う」
重い子と思われたくないのは誰だってそうだ。
俺だって、真冬に嫌われたくないから必要以上にプライベートに口を挟むのはしないようにと決めている。
「そう。だからさ、どんどん君が不透明になって行くのに何も言えない。誰かと外で遊んできた時も、サークルで女の子と話しているのを見た時も、重い子って思われたくないから必要以上に悠士から何かを聞くのは辞めようって堪えてた。たぶん、そのストレスが常日頃の悠士への態度に出ちゃったのかもね」
「ストレスになるくらいだったら……聞いてくれても良かったんだぞ?」
「あはは、ごめん。ほら、やっぱり私って素直じゃ無いから。昔は悠士の事をそんなに聞いてなかったのに、大学生に入ってから、束縛するかのように何かを聞くとか恥ずかしいかなって思っちゃった」
「俺もお前に口を挟むことが少ないし。猶更か」
「そうそう。悠士は私の大学生活にあんまり口を挟んでないし、私だけが挟むのもねって感じ」
同棲が失敗したというよりも、俺と真冬の仲が拗れて行った理由を突き止めた。
まだまだ他にもダメだった点は隠れているだろうが、一つ分かっただけでも成果は十分だ。
真冬はどんどん変わって行く俺の不透明な所が心配でしょうがなかった。
けど、口を挟めずにストレスだけが溜まって行く。
結果、俺への態度に出てしまい、その態度に対し俺もストレスを溜めこんでいき真冬へ冷たく当たるようになったのかもしれない。
ちょっと重くなった雰囲気。
それを流したくなった俺は、ポケットに入っていた携帯のロックを解き、真冬に差し出した。
「俺が浮気してないかを思う存分に確認してくれ」
「っぷ。なにそれ」
思っても居なかった俺の行動にちょっと噴き出した真冬。
ロックが解かれ自由に操作できる俺の携帯を手に取り弄り始める。
「ごめんね。私って重いでしょ?」
「いいや、全然。ほら、例えるなら『大人しかった嫁が最近、誰かと会ってるみたいだ。気になるけどプライベートに口を挟むと嫌われるかも……なにせ、嫁は俺の事をよく信じてプライベートなことを滅多に聞いて来ないし。だから、中々何をしてるのか聞くことが出来ずストレス!』みたいなもんだろ」
「大げさな例えだけど、そうそう。もうバレちゃったから認めるけど、そんな感じ」
「素直じゃないのを知ってるのに、何でお前が不安に思いそうなことを察してフォローをしてあげられて無かったんだか」
「悠士は悪くないって。私が面倒なだけだし」
「いいや、俺が完璧に悪いってわけじゃないけど、俺も十分悪い。さてと、そろそろ携帯を返してくれ」
携帯をひょいと奪い返す。
奪い返した携帯の画面はなんと言うかあれであった。
「おい。何を勝手に送ろうとしてた」
サークルの女友達に『彼女居るから、もう近づいてくんな』である。
悪ふざけなのは分かるが、ツッコミどころ満載だ。
「あはは、ごめんごめん。冗談だからね?」
「いいや、冗談じゃないだろ。お前は嫉妬する生き物だってよ~く知ってる。心の奥底では送ってやると思ってたんだろ?」
「最近の自分を見てると、今言われた事を否定できないのがね……」
苦笑いを浮かべる真冬。
そんな彼女とどうしても触れ合いたかった俺はポンポンと頭を叩く。
本当は抱き着きたかったのを我慢してだ。
「過度な嫉妬は確かに気持ち良くない。だけど、嫉妬されなさ過ぎるのも気持ち良くないから安心して嫉妬してくれ」
「ふふっ。なにそれ。あ~あ。じゃあ、小春ちゃんにこの前アイス買ってあげたんだっけ? 私には何か無いのかな? そうそう、水着とか買ってくれても良いんじゃない?」
ちょっとしたおねだり。
俺を困らせようと言うおねだりをする真冬。
そんな彼女に可愛いと言う感想しか抱かない俺の答えはこうだ。
「じゃあ、一緒に買いに行くか」
こうして、久方ぶりに真冬とデート? をすることになるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます