3章

第40話小春ちゃんがまさかの大勝利!?

 元カノとの未練を断ち切りたいがゆえに、シェアハウスに引っ越した。

 そして、シェアハウスで元カノと再会してしまった。

 浮気されていたのが誤解であると判明するし、互いがまだ好き同士で忘れられなくて、しんどい日々が続いていた……のは、ちょっと前の話。

 今は仲直りし、前へ進むべく仲が悪くなった理由を突き止めて反省している。

 順風満帆。

 たったこの一言だけで俺と元彼女である真冬との関係は言い表せる。

 

 そんな俺は、今現在、昔に通っていた高校の近くの路地に立っている。

 卒業して2年が経ったし、顔見知りはほとんどいない。

 けれども、知り合いに見つかりたくないので、顔をやや伏せ気味で携帯を弄っていると、遠くから手を振りながら俺の方へ走ってくる子。

 それはそれは元気で明るくて、うざ可愛い女の子である。


「悠士先輩! 待ちましたか? 彼女のお出迎えありがとうです!」

 そう、俺の彼女……である早乙女小春だ。

 紆余曲折あって、こんな関係になってしまったのを説明するのには少しだけ前にさかのぼる必要がある。

 けどまあ、今は目の前にいる彼女を無視したら怒られるので振り返るのは後だな。

 少しでも相手をしないと、相手をしろしろとうるさいったらありゃしない。

 近づいてきた、うざかわJKの小春ちゃんが俺の手を握ってきた。


「彼女なので握ってみました。どうです? ドキドキしますかあ?」


「帰るか」


「なんも反応なしとは可愛くないですねえ。さてと、それじゃあ仲良く一緒に帰りましょうか!」


「ああ、そうだな。ほら、急ぐぞ」


「なんでそんなに急いでるんです?」


「いや、まあ……不審者に勘違いされたくないし」

 母校であるからとは言えない。

 だって言ったら、多分真冬と付き合っていたのがバレるし。


「怪しいですね。追及したいところですが……、今日は私のためにお出迎えをしてくれたわけですし、悠士先輩には優しくしてあげましょう」

 もう季節は夏だ。

 少し汗ばむ手を握りながら俺と小春ちゃんは和気あいあいと道を歩く。

 燦燦と輝く太陽が眩しい。

 太陽に負けないくらい明るい小春ちゃんは、学校近くまで迎えにきた俺を労ってくれるそうだ。


「悠士先輩。お迎えありがとうございました。お礼をさせてください」


「いいや、気にしないで良いって。この時間は暇だし」


「そうは言っても私が気にします。なので、コンビニに寄りません?」


「何を買うんだ?」


「暑い外で、私を待っていてくれた悠士先輩の火照りを冷ます食べ物です」


「そういうことなら遠慮なく貰うよ」


「レッツゴーですね!」

 寄り道したコンビニ。

 小春ちゃんが火照りを冷ましてくれるという宣言通りにアイスを買ってくれた。

 店を出て、二人して少し行儀が悪いが食べながら歩く。

 そんなちょっとした他愛のない幸せな時間はあっという間に終わりを迎えた。

 住んでいるシェアハウスに着く、そこで俺と小春ちゃんは手を放すのだ。



 だって、俺は小春ちゃんの彼氏ではあるが……。



「レンタル彼氏のお勤めご苦労様です!」

 別に本当に付き合っているわけではない。

 なぜこんなことになっているのかは……

 愚痴モード全開の日和さんの晩酌に付き合った日に遡る必要がある。


   *


 夜も更けるが、まだまだお酒を飲む手が止まりそうにない。

 かなり酔っており、ほわほわと心地よさそうな日和さんが困った顔をする。


「実はですね~。小春がストーカー被害にあってるらしいんですよお……」


「えっと、普通に危なくないですか?」


「あっ、別にまだ確定したわけじゃないんですけど、絶対に誰かに付けられてるのは間違いないっぽいんです。でまあ、どうしたら良いと思います?」


「そもそもなんでストーカー被害にあったか原因を……ああ、コンスタかもしれないですね」

 小春ちゃんはコンスタグラムというSNSを使っている。

 フォロワー数も多く、非常に人気者。

 可愛らしい女子高生というのを売りに投稿をしているし、それが原因でストーカー被害にあっているのかもしれない。


「うーん。それが違うっぽいんですよね……」


「なんでですか?」


「小春の対策がバッチリだからですよ。ほら、小春って写真撮るとき、制服でどこの学校か特定されないようにリボンをわざわざ変えてるし、色補正で制服の色を少し弄ってるじゃないですか」


「あー、言われてみれば制服のリボンは違うし、画像には随分とエフェクトを掛けてるな~って思ってました」


「で、まあ、そうとなると身近な人物くらい。だとすると、学校で関りのある子が一番可能性が高いと言うわけです」


「ちょっと危なそうですね。小春ちゃんの性格からして、勘違いしちゃう男子って多いでしょうし」


「というわけで、加賀君。小春のために彼氏の振りをしてあげてくださいよ。少しはお給料あげるのでどうです?」

 小春ちゃんの彼氏の振りかあ……。

 ストーカーは男だろうし何かあったら怖いだろう。

 となると、日和さんの言う通り、小春ちゃんを守るために彼氏の振りをしてあげるべきなのか?


 少し考えこんでいると、小春ちゃんがお部屋から出てきた。


「二人とも凄い飲んでますね。で、今は何を話してるんです?」


「小春ちゃんがストーカー被害にあってるから、守るために彼氏の振りを頼まれたところだな」


「ほほう。それは確かにいい案ですね。私はストーカーから身を守れる。そして、悠士先輩は私という可愛い彼女ができる。ウィンウィンの関係ですね!」


「小春ちゃんと付き合うって言っても、別にそんなに嬉しくないんだよなあ……」


「この酔っ払いめ! 口が軽い!」

 随分と酔いが回っているからか思ったままのことを何でもすぐに口にしてしまう。

 そんな俺だからこそ、ちょっとは悩んだけど、すぐに答えてしまった。


「しょうがない。可愛い小春ちゃんを守るために、レンタル彼氏をしてあげようではないか。日和さんがちょっとお給料をくれるって言うし」


「随分と余計な言葉付けましたね。そこは、小春のことは俺が守る! って格好良く決めるところなんじゃ?」


「だって、別に小春ちゃんのこと妹みたいな子としては好きだけど、異性として好きかと言われれば別に……」


「ちょっ、酷い先輩ですね。でもまあ、あれです。ストーカーから守ってくれるというからには、ちゃんと守って貰いましょうか。というわけで、明日は放課後、私の通ってる高校までお出迎えをよろしくです!」


 こんな感じで、俺のレンタル彼氏としての日々は幕を開けるのであった。


 なお、真冬にこの話をすると、


「ふ、ふーん。ま、まあ、良いんじゃない?」

 めちゃくちゃに動揺していて可愛いのであった。

 そしてまあ、小春ちゃんにすることを私にもしろというスタンスを保っている彼女は俺にハッキリと言った。


「レンタル彼氏として小春ちゃんにしたことは、私がしても問題はないでしょ?」


「わかった。わかった。だからまあ、そんなに嫉妬するなって」


「べ、別にしてないけど?」









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