第22話一皮むけかけの真冬

 シェアハウスは楽しい。

 リビングに誰かが居れば、その誰かと話せて、常に学校の昼休みのようなもの。

 そして、誰かと一緒に話したくない時は、普通に自分の部屋に帰れば良いだけ。

 人と話すのが大好きな人にとって、うってつけの場所だ。

 まあ、共用スペースの使う順番などを自由気ままに使えないデメリットもあるけどな。

 今日も今日とて、何となくリビングでテレビを見ながら過ごしていた。

 もちろん、スマホでアニメやら漫画の新情報を漁りながら。

 あ、そういや、昨日はあのアニメの放送日だったっけか?


「悠士先輩。どこ行くんですか?」

 録画したアニメを見るために自分の部屋に戻ろうとしたら、ソファーでごろごろしてた小春ちゃんに呼び止められる。


「自分の部屋だな。撮り溜めたアニメを見ようと思ってな」


「へ~。やっぱり、格好良くなってもオタクなんですね」


「別にオタクを辞めたから格好良くなれたわけじゃ無いし。むしろ、大学に入ってからより一層とオタク趣味が過激になりつつある」


「普通はコンパとか、遊びに行くとかで減るんじゃないですか?」


「いや、それに行っても、まだまだ時間に余裕がある」


「大学生って暇なんですね」


「高校に比べたら本当に楽だ。ま、課題は多いけどな。じゃあ、俺は部屋に戻る」


「あ、はい」

 何故か俺の方をじ~っと俺の方を見つめる小春ちゃん。

 まじまじと何か言いたげだ。


「そんなに見るな」


「いえ、悠士先輩ってこれから部屋でアニメ見るんですよね」


「まあな」


「あ~、私って今、暇なんですよ~」

 しらじらしく惚ける。

 何が言いたいのか分かるが、俺もしらじらしく惚ける。


「ああ、暇そうだな」


「はい。暇なんです」

 小春ちゃんはニコニコと俺の目を見て来る。


「……はあ。あれか、誘えってか?」


「え~、そんなことは言ってませんって~。でも、悠士先輩がどうしてもって言うなら、見てあげますよ?」


「どうしてもじゃないから別に」


「もう酷いですね! 良いじゃないですか! 私もアニメ見たいんです~。で、見せてくれますか?」

 自分の思い通りにならなければ、そうそうに素直になる。

 これがリア充がなせる業だな。


「分かった。分かった。でも、小春ちゃんは漫画とか、アニメとかって好きなのか?」


「あんまり見ません。でも、今時は私みたいなリア充でも普通に嗜みますね」


「だいぶ偏見も無くなって来たんだな……」

 俺と真冬が高校生だった頃からは想像も出来ない。

 急激にオタク文化が受け入れられる風潮が出来つつある。

 まさか、ここまでオタク文化が人権を持つようになったとは誰が想像した事か。


「どんな風に偏見があったんです?」


「アニメ見てるってだけで、馬鹿にされる。現に俺も手ひどく、馬鹿にされたことがあるからなあ……」

 真冬がオタクバレしそうになった時、構ってやった時には凄かった。

 今でもあの経験は忘れられない。


「そうだね。私と悠士が高校生の時はまだまだ偏見が強かったし」

 自分の部屋から、1階に降りて来た真冬はいきなり会話に混じって来る。

 そして、俺にやんわりとあの時はごめんと言わんばかりに微笑んだ。


「へ~、やっぱりそうなんですか。というか、真冬先輩~。今、悠士先輩のこと、悠士って呼びませんでした? このこの~、隅に置けませんね。やっぱり、悠士先輩が好きな俳優さんに似てて、良いかもって思ってるんですかあ?」


「もともと加賀くんって呼んでる友達がいたからね。せっかくだから、悠士って呼ばせて貰ってる」


「ん~、なんかそうっぽいですね。じゃ、茶化すのは辞めときます」


「まあ、本当だからね」

 なるほどなあ。こう言う嘘をつけば良いのかと感心だ。

 そう思いながらも、俺は悪ふざけする。


「いや、違うぞ。小春ちゃん。真冬が俺をどうしても、悠士って呼びたいって熱烈なアプローチを受けてな……」


「してないから! アホ抜かさないでよ。ゆ、悠士こそ、私の事が気になるから『真冬』って呼ばせてくれって言って来たんじゃん」

 

「そうだったけか?」 

 ちょっとした芝居を繰り広げる。

 それを小春ちゃんは嬉し気に見ていた。


「小春ちゃん。どうしたの嬉し気でさ」


「いえいえ、お二人ともなんか仲良くなって良かったなあと。せっかく、シェアハウスに住んでるんですから、皆仲良しが一番ですから」

 小春ちゃんは、わりとうざい。 

 だけど、こんな風に根は物凄く良い子だからこそ、うざいのが許されるんだよな。

 強く心にそう感じる中、真冬が小春ちゃんに聞いた。


「で、オタクの偏見がどうのこうのって、結局二人は何の話をしてたの?」


「これから悠士先輩の部屋でアニメを見るんですよ! あ、良かったら真冬先輩も来ますか?」


「おい、勝手に誘うな」


「うん。じゃあ、行く」


「まあ、良いか……。よし、じゃあ、俺の部屋でアニメの鑑賞と行くか」

 と言った感じで一緒にアニメを見ることになった。

 2階に行き俺の部屋の扉を開けた。

 

「私はベッドで」

 小春ちゃんは遠慮なく俺のベッドに腰掛ける。

 というか、ダイブした。

 

「じゃあ、私はここで」

 背の低いテーブルの前にクッションをお尻にして座る真冬。

 で、俺もテーブルの前にクッションを敷いて座った。


「小春ちゃんが今時の高校生はアニメを見るって言ってるし、友達と話しやすいように見るのは最近の話題作にしとくか」

 ブルーレイレコーダーに撮り溜めてある今期の話題作を再生する。

 4話溜まってるから、大体1時間20分くらいだな。

 謎の島に漂流した主人公がなぜか魔法を使えるようになって、謎の島を開拓しつつ原住民と戦う異世界? 風ファンタジーだ。

 今、非常に人気があり、Twitterでも話題をよく見かけるし高校生でもきっと楽しめるはずだ。

 と言っても、あくまで今期の話題作で、社会現象には到底及ばないけどな……。


「じゃ、再生するぞっと」

 再生ボタンを押す。

 高校の時のバイト代を溜めて買った24インチのテレビにアニメが流れ始めた。

 小春ちゃんは、あんまりアニメを見ないと言っていたので、退屈してないかちらちらと様子を伺う。

 が、杞憂だったようだ。なんだかんだ楽しんでくれている様子。


 そして、1話目が終わると小春ちゃんが俺に感想を言って来た。


「なんかご都合主義ですね」


「……まあ、創作だから。ご都合主義なのは分かっているうえで、楽しむもんだ」


「それにしても、裸のシーンがありましたけど、悠士先輩も変態ですね~。女の子二人にちょっとエロいアニメを見せて反応を楽しむなんて……」


「これでもエロくない方だぞ。なんだ? もっとエロいのが見たかったのか?」


「じゃあ、それで! あ、真冬先輩は平気です?」


「平気だよ。こう見えて、割とオタクだからさ。ほら、悠士。早く、エロいのにしてよ」


「えっ、あっ、はい……」

 真冬とはちょっと際どいアニメを見た事がある。

 てか、よく見てた。

 しかし、小春ちゃんと一緒に見るとなれば話は別だ。

 理解の無い人に見せれば、拒絶は間違いない。

 アニメに偏見を持たれたら、普通に嫌だからな……。

 まあ、謎の光とかがあるかし、へ、平気だよな? 



『あっ、あっ、だ、だめえ~~~~』



 女の子の喘ぎ声が俺の部屋に響く。

 主人公が何故か女の子の股間に顔を突っ込み、あれこれした結果である。

 ちらっと、エロ路線の強いアニメにどんな反応を小春ちゃんの方を見た。

 まあ、嫌悪してるわけではなく、別にああ、こんな感じなんだって風貌だ。

 肝を冷やしながらも、1話が終わる。

 そして、俺の方が耐えきれなくなったので、エロ路線のアニメを見るのを辞めようと動き出す。


「ま、まあ、エロいアニメはこれくらいにしておいて、最初に見た続きを見よう」


「悠士先輩って。今のアニメに出て来た女の子で誰が一番好きなんですか?」


「聞いてどうしたい」


「純粋にどういう子が好きなのかな~って。真冬先輩も気になりますよね?」

 俺が小春ちゃんに詰め寄られて困っているのが分かっている真冬。

 もちろん助け船など出してくれない。

 むしろ俺を深い海の底へ沈めようとしてきた。


「うん。気になる。ねえ? 悠士、あの中だったらどんな子が好きなの?」

 ここで答えたら、絶対にからかわれる。

 あの子がタイプだって言ったら、俺がタイプの子と主人公が作中で起こしたラッキースケベのシーンの話題になり、ああいう事がしたいんだ。

 そんな風なからかいを受けるのが絶対に落ちだ。


「いやあ、全員好きだな。優劣なんて付けられない」


「なるほどなるほど。ちなみに、ああいうラッキースケベ? っていう奴をしてみたいって思うんですか?」


「いいや、全然。あれは創作だからな。現実ではない。まあ、男的には体験できるものなら、体験したい気もするけど」

 セクハラだのなんだのと過剰に気を使う方が不自然。

 俺は自然体であたかも緊張してないかのように、小春ちゃんに答える。


「ふむふむ。というか、悠士先輩ってつまらないですね。もっと、恥ずかしそうに『俺はエロくない!』ってうろたえる姿が見たかったのに」


「やっぱり俺を辱めて楽しもうとしてたか……」


「ふーん。小春ちゃんは悠士が恥ずかしがるところが見たかったんだ」

 真冬は何を思ったか悪い笑みを浮かべる。

 そして、俺の方へ近づく。

 俺の手をいきなり握り、自身が着ているスウェットの中に手を引きずり込む。

 お腹のおへそあたりを生に触らされれた後、耳元で真冬は小春ちゃんに聞こえないように囁く。


「女の子にあんなの見せて何したいのかな? へんたい」


「っくは!」

 元カノからの何とも言えない囁きがぞくぞくっと鳥肌を立たせる。

 こいつめ。いきなりなんて事しやがる。

 お腹を触らせてくる真冬の手を払いのけると真冬は小春ちゃんに告げた。


「男の子はこうすると簡単に恥ずかしがるからね。好きな子が出来たら、試してみたら良いと思うよ」

 満足気な顔を見せつける真冬。

 もしかして、俺が小春ちゃんになびかないようにアピールして来てるのか?


「さすが真冬先輩です。っと、のど渇いたのでジュース持ってこよっと」

 小春ちゃんがジュースを取りに行く。

 真冬と俺の二人きりになる。


「あれか? 今のは小春ちゃんに俺がなびかないようにってか?」

 文句を言う。

 そしたら、真冬はそっぽを向いてぼそぼそと言い訳し始める。




「そ、そんなわけないじゃん……。き、気のせいだって……」


 

 


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