第30話真冬壊れる
備品置き場。
そこで俺が小春ちゃんを押し倒してるかのような状況を真冬は目撃。
冷汗がだらりと垂れる中、小春ちゃんから勢いよく離れて真冬に誤解されないように取り繕う。
「これは事故だ。上か降って来る物から、小春ちゃんを庇おうとしただけだからな? それで、押し倒す形になっただけだ!」
「そ、そうですよ! 悠士先輩は落ちて来る物から私を庇ってくれたんです!」
小春ちゃんも同様に慌てて真冬に説明。
ドクンと心臓の鼓動が強くなっていく中、俺と小春ちゃんは真冬に目を細めじ~っと見つめられる。
疑わしいという視線がひとしきり注がれた後だ。
ふふっと気さくに真冬は笑った。
「まったくもう。見れば分かるって。二人ともさ、私の事を馬鹿にして無い?」
ひとまずの安寧は訪れたらしい。
どうやら、変な勘違いは免れたようだ。
さすがにこのくらいで怒るような奴じゃないか。
状況を判断し、俺が小春ちゃんを押し倒してないのをちゃんとわかってくれた。
「よいしょっと」
さらには、頭上に降り注いできた物を一緒に片付けてくれる。
状況が状況なだけに怒られると思っていた。
だけど、理不尽に怒ることは無い真冬にホッとした何かを感じる。
話し合えばちゃんと理解しあえる。
なのに、俺は真冬が従弟である宗近くんととカフェで一緒に居たのを見て、勝手に結論付けた。
ったく、本当に今思うとあり得ないだろ……。
「ありがとな。わざわざ片付けまで手伝ってくれて」
「ううん。気にしないでよ。ところで、二人とも体は大丈夫だった?」
怒るどころか、心の底から俺と小春ちゃんが怪我してないか心配そうにしてくれる真冬であった。
*
真冬は片付けを手伝ってくれた後、自分の部屋へ帰って行った。
怒ってはなさそうだったが、一応顔色を伺うべく真冬の部屋へ向かう。
本当は怒ってて、顔に出してないって線も十分にある得るのだから。
真冬の部屋の扉をノックすると、入っても良いよと言われたので遠慮なく中へ。
「悠士から訪ねて来るのって珍しいじゃん。で、どうしたの?」
「こ、この前でた漫画の最新刊を借りに来た。お前は買ったって言ってたよな?」
「そっか。借りに来たってわけだ。はい、これ」
「ありがとな」
「で、用が終わったなら早く出て行けば?」
ちょっとした雑談もしたかったのに、漫画をすぐに渡されるだけ。
冷たい態度とまでは行かないが、どこか素っ気ない。
「いや、ちょっと話でも……」
「私は今そう言う気じゃないから無理」
淡々とした態度を取って来る真冬。
やっぱり小春ちゃんを押し倒している所を見られたせいか?
あの時は怒った素振りは見せてなかったが、やっぱり怒ってるんじゃ……。
「小春ちゃんを押し倒してたことに対して、やっぱり怒ってるのか?」
「ううん。怒ってないよ?」
「それにしてはちょっと冷たい気が……」
「き、気のせいでしょ」
「じゃあ、さっきからなんで俺の方を真っすぐ見ないんだ?」
そう、さっきからず~っと俺の目を真冬は見てくれない。
冷たいと思うのは、現在進行形で俺と目を合わせてくれないからだ。
「そりゃ、あんなとこ見せられたら、悠士の事を真っすぐに見れないに決まってるじゃん……」
「やっぱりそうだよな」
小春ちゃんを押し倒していた。
その光景は事実がどうであれ真冬にとって衝撃的な物。
幾ら、ちょっとした事故であったとしても、普通に堪えてしまうのも無理ない。
だからこそ、俺はさっきからどこかよそよそしい真冬に頭を大きく下げた。
「事故だったとはいえ、お前以外の女の子を押し倒したのは事実だ。悪い!」
「……」
どう反応したら良いのか困ったのか真冬は無言だ。
「……」
まだ無言だ。
「……」
そろそろ何か話して欲しいんだが?
しびれを切らし、恐る恐る俺は顔を上げ、真冬がどんな顔をしてるのか確認した。
「そう言うの辞めて。本当に我慢できなくなる。ただでさえ、最近、悠士ってやっぱり格好良いって思ってたのに、もっと格好良いって思っちゃうから。ね?」
めちゃくちゃに真っ赤な顔の真冬が、どこか嬉し気な顔をしていた。
「へ?」
「小春ちゃんを押し倒してまで庇うなんて格好が良すぎだし……。前からそうだけどさ、君って本当に行動がずるすぎる」
「お、怒ってるんじゃ……」
「はあ!? お、怒るわけないじゃん。身を挺して庇ってるんだよ? それなのに怒るってあり得ないでしょ」
「小春ちゃんと俺が体をあんなにくっつけってたのに?」
「まあ、確かにちょっと嫌だけどさ。悠士がそれだけ必死に誰かを守ろうとしてるのに、なんで怒らなくちゃいけないの? あれ見て怒る方がおかしいから!」
何故か真冬に怒られた。
いや、なんで?
「格好良いって思ってくれたのは嬉しいけど。俺を真っすぐに見れなくなるほどのものか?」
「だって久しぶりに君の格好良いところだったし。思いのほか凄くうずうずしちゃってる。もうさ、別れた事なんて忘れそうになっちゃいそうだったから……。ごめん」
「本当に怒ってないんだな?」
俺の言葉を聞いた真冬はコクリと頷いた。
そして、以前として、もどかしそうなまま俺に話しを続ける。
「あ、あのさ。誰かを庇うのは良いけど程々にしてよ? 誰かを庇って、悠士がボロボロになるのだけは絶対に嫌だし」
「さすがに俺も自分の体が大事だから安心しとけ」
「そっか。それなら良い。てか、そろそろ帰って欲しいかな。今日は駄目。悠士が格好良すぎて本当にあれだから」
「お、おう。じゃあ、これで」
まさか過ぎる展開に終始頭が追い付かない。
小春ちゃんを押し倒したら怒られるどころか逆に好感度を高めるという珍事。
真冬ってこんなキャラだったっけ?
じゃあ、これで。そうはいったものの、驚きで立ちすくんでしまっている時だ。
真冬がおかしなことを言い出した。
「素直に嫉妬してるって言ったら、小春ちゃんと同じような事をしてくれるって約束したよね?」
「したな。それがどうした」
「嫉妬してるから、小春ちゃんと同じようにしてよ」
「おまっ」
「だめ?」
「いや、一応俺達は今の所はよりを戻す約束をしたシェアハウスに一緒に住んでるだけの友達ってだけで……」
「こ、小春ちゃんは押し倒せて私は押し倒せないんだ。ふーん。私が好きなのに、私は押し倒せないんだ」
「わ、分かったって。で、俺がお前を押し倒すだけで良いんだよな?」
「よ、よろしく」
真冬はベッドに座り俺を待つ。まるで襲ってくれと言わんばかりに。
そんな真冬の方へじりじりと近づいて行き、肩を掴んでグッと後ろへ押した。
真冬の体に力は入っておらず、すんなりと後ろへ倒れこんだ。
小春ちゃんにした押し倒すとはかなり違うが、それでも十分に押し倒していると言えるであろう。
長いまつげと綺麗な目、潤っている唇と整った鼻が嫌でも目に入る。
そして、微かに聞こえる小さな吐息を聞くだけでドキドキが止まらない。
押し倒せと言われて押し倒した。
ものの見事にこれだけじゃ満足が出来そうになくなりつつある俺は、我慢出来ているうちに急いで離れた。
「あはははは……。私、壊れちゃったのかな? 前は悠士に押し倒してなんていうようなタイプじゃ無かったのに」
押し倒せといった張本人は俺に押し倒されさぞ満足してるかと思いきや、なぜか複雑そうな顔で嘆き始めるのであった。
*
小春Side
「馬鹿……。ばかっ、ばかっ!」
耳元で『可愛い』と囁かれた時、凄くドキドキしてしまった。
まあ、勘違いだろうと思いながらも過ごしていた今日この頃。
だけど、今日で私は完全に分からされてしまった。
「パンツは触るし、私の頭は勝手に撫でるし、頬を引っ張るし。絶対に私を女の子に見てません。相手にされてないのは良く分かってるのに……」
まるで妹みたいに接して来る。
だから、私もお兄ちゃん的な存在として慕っていた。
だというのに、押し倒されたさっきから何かがおかしい。
いや、さっきじゃなくて、普通に5時間は経ってるんですけどね!
「あんなことされたら、もうお兄ちゃん的な存在に見れなくなっちゃうじゃないですか! どう責任を取ってくれるんですか? 悠士先輩のば~~~~か!!!」
そう、私はどうやら恋というものをしちゃってるみたいです。
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