第20話1章エピローグ


 ちゃんと反省出来たら、よりを戻す約束をした俺と真冬。

 二人で過ごしたい気分だったので、夜は遅いが、漫画、ラノベ、ゲームソフトが入った段ボールの中身を整理し始める。


「あ、これは私が買ったのだ。いや~、助かる。ゲームソフトを売ったら、お財布が潤いそうだし。それにしても、私が置いて行ったのを良く勝手に売らなかったね。売っても良かったのに」


「返せって言われた時に困ると思ってたからな。っと、これは俺のだっけ?」


「う~ん。それは私がお金を出した気がする」


「いやいや、俺が買った気が……」


「でもさ、私っぽくない? そう言うゲームって私の方が好きじゃん」


「いいや。俺のだ」


「私のだって」

 ちょっとした言い合いに発展しかけてしまう。

 持ち物の所有権を曖昧にしていたからこそ、起きている事態だ。

 こんなのが原因で喧嘩したくない。


「よしっ。揉めそうだし、全部金にしてそれを半分に分けよう。真冬もこんなくだらない事で喧嘩したくないだろ?」

 実の所、金になるゲームソフトは俺が買ったものが絶対に多い。

 喧嘩したくなかったので俺の利益は度外しして、承知で金に換え半分に分ける事を提案した。


「良いの?」


「ああ、良い。言っただろ、同棲してる時の失敗を繰り返さないように反省するって。お前とくだらない事で喧嘩したくない。そのためだったら全然いい」


「ありがと。もう。悠士さ、私とよりを戻したいからって必死過ぎない?」

 小馬鹿にした感じで嬉しそうに笑われてしまう。

 だけど、不思議と嫌な気はしなかった。


「よしっ。ゲームソフトは全部売って金を半分。ラノベと漫画はどうする?」


「二束三文にしかならないから売らないで取っとこうよ。というかさ、懐かしいねこれ」

 段ボールから取り出された一冊のライトノベル。

 テンポの良い転生チートものだ。

 真冬が懐かしいと言ったのは訳がある。


「俺とお前はこの作品がきっかけで仲良くなったんだもんな」

 そう、この作品のおかげで俺と真冬の日常が交わり始めた。

『無職だった俺、転生して神になる』という作品。

 今では20巻を超え、アニメの3期が決まっているという噂すらある。

 そんな思い出深い品を手にした結果、俺の思いは抑えきれないくらいに膨れ上がっていた。


「ふぅ。ダメだ。やっぱり、俺、お前の事が好きだ」


「今更ご機嫌を取っても、すぐには復縁してあげないよ?」

 今更遅いと言わんばかりに笑う真冬。

 ああ、そうだな。遅かった。ほんと、遅いんだろう。

 気持ちが離れていく前に、今みたいに何気なく好きだと言い続けて居たら、俺と真冬は別れることなんてなかったのかもしれない。

 出来上がった関係に胡坐をかいて、甘えて、甘え続けた結果が今なんだ。


「知ってる。にしても、あれだな。今思うと、別れるような原因しかないな」


「どういう意味?」


「お前にきちんと好きだって言ったの久々だろ? 気持ちを伝えるのを雑にしてたら、気持ちも離れてくのは当然だ」


「じゃ、復縁したら好きっていっぱい私に言ってくれるのかな?」

 真冬は反省してる俺を嘲笑うかのようだ。

 どうせ、恥ずかしくて言わなくなる癖にと言わんばかりである。


「ああ、お前が満足するまで言ってやるよ」


「ふーん。そっか」

 興味なさげに呟いた後、そっぽを向く真冬。

 で、整理を続ける中、真冬はぼそぼそと文句を垂れる。


「すぐに復縁したくなるから、素直になりすぎないでよ」


「お前、俺の事どんだけ好きなんだ?」


「本当は今すぐにでもよりを戻したいくらい好きだよ……」

 顔を伏せたまま不貞腐れている真冬。

 こんなにも好きでいてくれたというのに、恋人の関係に慣れ切ってしまい、変な意地を張ったり、素直になれなかったり、その他諸々で真冬をないがしろにし続けていた。


 きっとこれを反省できなきゃ、前には進めない。


 顔を隠してしまった真冬といつまでも話して居たいが、目の前にある、漫画、ラノベの所有権をはっきりさせなくちゃな。


「さてと、漫画とライトノベルの扱いだが……。まあ、売ってもそこまで金にならないからそのままだ。でも、所有権だけはハッキリさせておこう」

 

「……私の本は全部あげる」


「良いのか?」


「ゲームソフトは明らかに悠士がたくさん買ってた。なのに、売ったお金を半分にしてくれるんでしょ? だったら、漫画やラノベは悠士が受け取ってよ。あんまり、売ってもお金にならないだろうけどさ」

 俺が反省する中、それに張り合うかのように振る舞う真冬。

 そんな彼女の優しさに触れながら、俺は話しを区切った。


「ならそうさせて貰う。という訳で、この問題は無事解決だな」

 趣味の詰まった段ボールの中身をどうするか決めた俺達。

 もう、することが無くなってしまった。

 揉めたくないから、所有権を互いに譲歩しあった結果だ。

 別れる前だったら、こんな風に上手くは行かなかっただろう。


「今日はもう眠いし部屋に戻る。お休み。悠士……」


「ああ、お休み」

 去って行く真冬。

 寝る前によく軽いキスをしていたのを思い出してしまう。

 まだ仲直りしたばっかり、よりを戻すかも分からない。

 関係は恋人ではなく、シェアハウスで一緒に暮らす友達。

 キスなんてする間柄じゃない。


 俺の部屋の扉の前で真冬は立ち止まり、ニヤニヤした顔で去って行った。


「寝る前のキス。期待してたでしょ? ば~か。今の私達はシェアハウスで一緒に住む友達なんだからするわけないよ?」

 仲直り出来て嬉しいのが露骨に滲み出る真冬を見送った俺は、ベッドに倒れこんで真冬に引けを取らないニヤニヤした顔で呟く。


「歓迎会で酔った時、俺にキスしやがった癖に何を言ってんだか」

 俺は晴れ晴れとした気分で電気を消し、目を閉じた。












(あとがき)

これにて、一区切り!!!

しかし、お気づきの方はお気づきでしょう。

二人はまだ再スタート地点に立っただけだと。


という訳で、これからもよろしくお願いします。

もうすでに色んな伏線はバラまいてあるので、それを回収しつつ二人の関係の行く末を描いて行きますよ!!!

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