第25話真冬は見た

「悠士先輩。これなんてどうです?」

 自分の体に服をあてがい見せて来るのは小春ちゃんだ。

 そう、俺は今、小春ちゃんと若者が闊歩する繁華街でお出掛け中である。


「上からなんか羽織るなら良いと思う」


「え~、このままの方が可愛くありません?」


「あのなあ。他人の視線を気にしといた方が良いぞ。可愛いんだからさ」


「確かに可愛い小春ちゃんがこんな露出の多い服を着てたら、それはそれはもう引っ張りだこでしたね! じゃ、着る時はなんか羽織っときます」


「で、買うのか?」


「ん~、もうちょっと他のを見てからで」

 といった具合に小春ちゃんと服を見て回る。

 インスタに上げる用の恋人との匂わせ写真。タピオカを飲んだ時に撮った俺との写真が人気だったらしく、今回は第二弾を撮るためのお出掛け。

 小春ちゃんが可愛い服を探してるのを見守る。


 周りには女性客ばっかりだ。


「お、これ似合いそうだな」


「どれです?」


「この長めのショートパンツだ」

 膝が隠れるか隠れないかのショートパンツ。

 夏っぽさが溢れる服で、これからの季節に良く似合うはずだ。


「ほほう。中々ですね。あ、そうだ。我が家のファッションリーダーに聞いてみよっと」

 我が家のファッションリーダーって?

 謎はすぐ解ける。

 小春ちゃんは服をパシャッと写真に撮って真冬にこれどうです? っていうメッセージと一緒に送る。


 ああ、確かにな。

 真冬はおしゃれと言えばおしゃれか。


「あ、運よく既読が付きましたよ! なになに……。今が6月の下旬でもうすぐ7月。2カ月くらいしか出番がないけど、流行ものというよりか、手堅いから、来年も着れるよ。一枚は持ってて損しない……だそうです」


「的確だな」


「はい。めっちゃ的確です。何だかんだで、真冬先輩にファッションを聞くのが間違いないって感じです。ほんと、助かります。という訳で、買っちゃおっと。お値段もお手頃ですし」

 小春ちゃんはショートパンツを持ってレジに行く。

 その間、俺はお店から出て待つことにした。

 一緒にレジに並んでも良いが、真冬からは一緒にレジに並ばない方が良いって言われたしな。

 買い物かごを持ってると男の人に背後に立たれた時、何とも言えない気恥ずかしさを感じるからだそうだ。

 確かに俺も服を買う時、後ろに女性が並んだら少し気になる。


「お待たせです。次、どこ行きます?」


「パンツが痛んで来たから、俺も服を見たい。ちょうどこの近くにメンズ向けのとこがあるし」


「もう、悠士先輩ってば女の子にパンツを見に行こうって誘うなんて……」


「おい。俺の言うパンツはズボンとかボトムの方だからな? 下着の方じゃない」


「ま、そうですよね~。じゃあ、次は悠士先輩のお買い物で!」

 そんな感じでお買い物を楽しむ。

 ゆったりとまるで妹の買い物に付き合うかのように楽しい時間を過ごす中、小春ちゃんがちょっと別行動で! と言い出してどこかへ消えていく。


「俺が居ると買いにくいものを買いに行ったんだろうな」

 一人になった俺。

 せっかくなので、俺も小春ちゃんと一緒に入りたくなかった場所へ行く。

 そう、アニメ系のグッズやら同人誌が売っているオタク特化の本屋。

 いわゆる同人ショップって奴だ。

 同人ショップって言うよりも、ゲーマー○、メロ○ブックス、とらの○って言った方が伝わりやすい。


 応援してるライトノベルが、アクリルキーホルダー付きの特装版を出したみたいだからちょうど良かった。

 普段はそこらの書店で買ってるけど、応援したい作品だったし、アクリルキーホルダーも可愛いので買いたかったからな。


 歩いて、数分。 

 アクリルキーホルダー付きの特装版を扱うお店に辿り着く。

 

 うん。小春ちゃんが居たら絶対に入れないな。


 仕切りの区切りが甘くすぐにR18の同人誌が目に付く。

 そんな中を歩き回って、アクリルキーホルダー付きの特装版やら、他に気になってたものを見て過ごした。


 で、あっという間に30分くらいが経った。

 小春ちゃんから『そろそろ合流しません?』とメッセージ。

 俺も買い物を済ませ、再び小春ちゃんと再会する。


「悠士先輩はどこに行ってたんですか?」


「そう言う事を聞くと、俺も小春ちゃんがどこに行ってたか聞くぞ?」


「あはははは……。それは困るので辞めときます」


「ま、別に俺が行ってた場所はあそこだ」

 ちょうど看板があったので目配せで行っていた場所を伝える。


「どういうお店なんですか?」


「やっぱり、オタク文化に特化してる。ライトノベルは買えば、ほとんどの作品に特典が付くし、アニメやら漫画のグッズの品ぞろえが豊富だ」


「なるほどなるほど。興味が出てきました。今度、入って見よっと」


「あ~、男ばっかりだから気を付けろよ?」


「は~い。で、そろそろ本題と行きましょうか」


「有名なパンケーキだろ」


「バレてました?」


「そりゃあ、今インスタ映えと言えば、あのパンケーキ屋だ。大学の友達がインスタに写真を撮ってたし」


「今日もタピオカとおんなじで行列覚悟。悠士先輩、お付き合いよろしくです!」

 個人行動を経て、再会した俺と小春ちゃん。

 インスタに投稿するための写真を撮るために今話題のパンケーキを食べに歩き始めるのだった。


 

 お出掛けはあっという間に過ぎていく。

 気が付けば、帰り道。

 可愛いリュックを背負う小春ちゃんは俺の前を歩いてる。


「ん~、いやあ悠士先輩とのツーショット写真をインスタに上げると本当にいいねがたくさんついて最高ですね。今日もありがとうございました」


「にしても、タピオカの時は感動は薄かったが、今日のパンケーキは本当に旨かったな」


「はい。超激うまでした。あのふわふわ感は本当に凄かったです」


「ああ、そういや。お金を払うのを忘れてたな」

 パンケーキのお会計の時、小春ちゃんが気が付けばさっとお金を出していた。

 今日は奢る気はないが、食べた分だけを払おうとする。 

 が、しかし。前を歩く小春ちゃんはしっかりと俺の方を見て笑った。


「今日は私の奢りです! この前、タピオカを奢って貰いましたからね」


「ったく。今日の方が高かっただろ」


「いえいえ。インスタに上げる写真を撮るのに協力して貰ったので良いんですよ」


「お小遣いが足りなくなったので、後で返してくれ~ってのは無しだからな」


「分かってますって。でも、お小遣いが今は本当にいくらあっても足りる気がしません。は~、私が18歳だったら良かったのに……」


「18歳?」


「ほら、私のインスタって人気がありますよね? だから、色々とお話が来るんですよ。うちの会社と契約してうちの商品をステマしてください~って感じで」


「ああ、まだ18歳じゃないから契約を結べないのか」


「そういう事です。さてと、今日は本当にありがとうございました。今回投稿した写真も超人気ですよ? 彼氏カッコイイ! お似合い! 私の彼氏は行列に並んでくれないから羨ましいとかほんと色々コメントが付いてます」


「やっぱり彼氏だと思われてんだな。小春ちゃんは俺の事を周りが彼氏だって勘違いしても嫌じゃ無いのか?」

 前を歩く小春ちゃんは車通りの無い道路で立ち止まる。

 そして、わざとらしく俺の横にやって来た。


「嫌だったらお出掛けに誘いませんからね?」

 ニコッと可愛らしく笑う。

 そんな小春ちゃんが可愛くて、つい頭の上に手を置いてしまう。

 まるで、昔みたいに撫でてやるかのように。


「女の子が頭を撫でられるのが嬉しい~って勘違いしてますね? 実は女の子って意外と頭を撫でられるのはセットが崩れるから嫌いなんですよ~だ」


「うるせえ」

 生意気な物言いをする小春ちゃんの頭をグシャグシャと強めに撫でる。

 昔はこうしてやったら、喜んでたからな。今は、喜ぶか分からないけど。

 で、小春ちゃんは笑いながら文句を垂れて来た。


「ちょ、悠士先輩。やりすぎです。昔じゃないんですよ? 今はそんな撫で方されても、全然嬉しくないですから!」


「嘘言え。どう見ても、嬉しそうだぞ?」


「良く昔は撫でて貰ったな~って思い出し笑いしてただけですし。そろそろ辞めないとセクハラで訴えますよ?」


「っく。辞めろ。割とその話題は俺に来る」

 真冬にも言われている。

 そう、俺は20歳。小春ちゃんは15歳。

 セクハラで訴えられたら、確実に負けてしまう。


「ふふふ。訴えられたく無ければ……ん~、あ、そうだ。こんな風にまた遊びに付き合ってください」


「なら、しょうがない。暇だったら付き合ってやろう。小春ちゃんは俺の妹みたいなもんだしな」


「わ~い。お兄ちゃん大好きです!」

 ……。

 …………。

 ………………。

 久しぶりに小春ちゃんにお兄ちゃんと呼ばれ、ついつい固まってしまう。


 何の気なしで言った小春ちゃんも、俺にお兄ちゃんと言った後、割と恥ずかしくなってきたのか、顔を真っ赤にしてボソッと呟く。


「何となくでお兄ちゃんって言っただけなのに、固まらないでくださいよ……」


「悪い。なんていうか、久しぶりに言われたからな」


「まったくもう。あ~、恥ずかし。もう二度と、お兄ちゃんって呼びません。てか、悠士先輩は私の事をまるで年端も行かない妹扱いしすぎです。こう見えて、私は高校生なんですよ? もっと、大人に扱ってください」


「大人って言ってもなあ……」

 まだまだ小春ちゃんは子供だし。

 それが透けて見えたのだろう。

 小春ちゃんはむっとして、俺の手を握って恋人ごっこを始める。


「デート楽しかったですね。悠士くん」


「彼女アピールすんな」


「っち。妹扱いされたので、彼女ぶって見ましたが失敗しましたか。でも~、手汗が出てますよ? あれですか? こんな可愛い子に手を握られて、やっぱりドキドキしちゃってるんですよね?」


「ったく。うるさい妹め。ほら、手を離せ」


「嫌です~」

 ほんと、小春ちゃんと一緒に居ると飽きることは無いな。
















 真冬Side


「……」

 バイトが終わったのでそそくさと家に向けて歩いていた。

 が、しかし。

 私の目の前で信じられない光景が広がっていた。


 ナニコレ?


『デート楽しかったですね。悠士くん』


『彼女アピールすんな』


『っち。妹扱いされたので、彼女ぶって見ましたが失敗しましたか。でも~、手汗が出てますよ? あれですか? こんな可愛い子に手を握られて、やっぱりドキドキしちゃってるんですよね?』


『ったく。うるさい妹め。ほら、手を離せ』


『嫌です~』


 今日お出掛けしていた悠士と小春ちゃん。

 二人が凄く仲良く歩いてる。


 話しかけようと思ったが、話しかけられないような良い雰囲気。


 いつの間にか私は二人から距離を空けて歩いている。


「うぅ」

 涙目になりながら、電柱の陰でひそひそ私は前の二人を見る。


「悠士が小春ちゃんに取られちゃう……。やだ。やだなあ……」

 元カノ。

 確かに『よりを戻す約束』はした。

 だけど、それはあくまでうまく行ったらの話。

 仮によりを戻す前に悠士が他の誰かを好きになったとしても――



 私に止める権利はない。




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