第24話シェアハウスは良い面もあるし悪い面もある
「ただいま」
「あ、お帰りです~」
家に帰って来たのでただいまと言うと、シェアハウスのキッチンの方から日和さんが返事を返してくれた。
キッチンはほとんど道具が揃っており、ミキサーとか、電動泡立て器すらある。
使ったら綺麗にすれば、誰でも自由に使えるキッチンでは、よく日和さんが料理をしている事が多い。
今日もそのようで、仕事終わりスーツを脱ぎシャワーを浴び、ラフな格好になった日和さんは鍋の中身をおたまで、ぐるぐるとかき回してる。
「日和さんって、よく料理してられますよね」
「外でご飯を食べるよりも、家で作れば好きな量と好みの味に出来ますからね。あ、せっかくだし味見してください」
小皿にトマト煮を乗せて俺に差し出してきた。
ナス、鶏肉、玉ねぎがちょうどいい感じに一口分乗っている。
口に含むと広がるトマトの酸味と風味。
そして、トマト味をより一層と引き立てるチキンのうまみが堪らない。
「でも、こう言う味って、オーソドックスな気がしますよ?」
「いえいえ。そこにドカンと溶けるチーズを乗せるんです。外じゃ、絶対に出てこないほど、たくさん」
「なるほど」
「正直、お店で食べる料理に乗ってるチーズって物足りない気がしません?」
「あ~、分かります」
「そういう訳で、私は外じゃ下品って言われるくらい、やりすぎな感じにチーズを掛けたり、お肉をガツンと乗っけたり、外じゃ出てこない料理が好きで、自分で作ってるんです。後は……、純粋に料理が出来るとモテるって言われたので、一応自分磨きです」
「確かに料理が出来るのはポイント高いですよ。ま、出来なくても、別に気にしないですけど。あ、トマト煮ありがとうございました。それじゃ」
「いえいえ。結構、多めに作ったので良かった食べますか? まあ、もちろん食材費は貰いますけどね」
「有難くごちそうになります」
「はい。それじゃあ、出来上がったら呼びますね?」
で、十分後。
俺は日和さんに呼ばれたので、ダイニングテーブルへ向かった。
ダイニングテーブルには、俺以外に朝倉先輩が居る。
「ああ、加賀くんも誘われたんだ。いや~、毎度思うけど、このシェアハウスってたまに日和さんが料理してくれるのが良いとこだと思わないかい?」
「確かに助かります。しかも、材料費と本当にちょっとした手間賃を払えば食べさせてくれますし。あれ? 小春ちゃんは?」
日和さんが食事を作った時、必ずと言っていいほど、一緒に食べている小春ちゃんが今日は居ない。
「今日は遊びに行ってるってさ」
「お待たせしました。そろそろできますよっと」
軽く朝倉先輩と話していたら、日和さんがトマト煮を乗っけたお皿を運んできてくれた。
ただ待ってるだけでもあれなので、ご飯をよそったり、スプーンを用意したりするか。
もちろん俺だけでなく、朝倉先輩も動く。
そして、あっという間に準備は終わった。
「さて、食べましょうか。頂きます」
日和さんの掛け声で食事が始まる。
さっき味見した時よりも、より煮込まれたトマト煮がめっちゃうまい。
「そう言えば聞いてよ。日和さん。この前、大学に行ったてのに、休講になってた。ほんと、もう少し早く情報を更新しても良いと思わない?」
「ほほう。私の時はまだスマホが普及しきって無かったので……休講のお知らせは学校の掲示板で確認してました。今は休講になった場合、スマホで知れるんですね。加賀くんのとこもそう言うのがあるんですか?」
「ありますよ。大学が作ったサイトで色々見れますね」
「へ~、便利な事で……。私が大学生の時は、休講かどうかは大学に行くまで分からなかったのに」
ジェネレーションギャップを感じる会話を繰り広げる中、ふとした気持ちで俺は聞いてしまった。
「そう言えば、日和さんって何歳なんですか?」
「……」
無言でぴくッと眉を引きつらせる日和さん。
そして、横では朝倉先輩があちゃ~という顔で俺を見て来た。
「えっ、あ、はい。聞いちゃダメでした?」
「……いえ。まあ、別に良いですよ。私は四捨五入すると30歳です。結婚適齢期に近づいて来たので年齢的にだいぶ焦って来てますね」
四捨五入って事は……25~34の間か?
割と広い年齢だな。
空気が凍りかけたの割と日和さんが結婚適齢期だからか?
そうであれば、まず25歳はないだろう。
となれば、26か27か28?
いや、ちょっと婚期を逃しそうで焦ってるって事は……29もあるのか?
待てよ? 大学の休講の知らせが大学にある掲示板でしか分からなかったって言ってたな。
四捨五入すると30歳って言ってるし、30代前半って線もある得るのでは?
「加賀君。今、私の年齢が何歳か当てようとしてます?」
笑っているけど、どこか怖さを感じさせる日和さん。
そんな日和さんは年齢を探られるのがあんまり好きそうじゃないし、年齢については綺麗さっぱり忘れることにしよう。
「いえ、考えてません」
「ま、知られても別にどうってことは無いんですけどね。正解は26歳ですよ」
「へ~。大学の休講を知るのが掲示板だったって言ってたし、もう少し上かと考えちゃいましたよ。あと、結婚適齢期で焦ってるって言ってましたし」
何気ない俺の一言に日和さんは心外だと言わんばかりだ。
「スマホが本当に普及したのは最近ですから! まだ、学校によっては全然スマホが活用されてない大学とかあると思いますよ? あと、結婚適齢期が近いのに彼氏が居ないから焦ってるだけで、別に加賀君よりもかなり年上じゃありませんから!」
「あ、すみません」
「あはははは。怒らせちゃったね。加賀くん」
俺と日和さんのやり取りを見ていた朝倉先輩に笑われた。
一人だけ高みの見物にさせてたまるか。
「朝倉先輩って、最初に日和さんと会った時、何歳くらいだと思ってました?」
「見た目は20代後半くらいに見えた。でも、雰囲気が落ち着いてたし、シェアハウスは持ってるから、30代かもって思ったね」
「へ~。龍雅君は私の事を30代かもって思ってたんですね」
「あ、いや、見た目は全然見えなかったよ? ただ、こんだけ立派な家を持ってるから、そう思っちゃっただけでさ。いや、うん。本当に」
細い目で日和さんに詰め寄られ、あたふたする朝倉先輩。
っふ。目論見通りだ。
「30代って思ったんですよね? 私はまだ26歳なのに」
「い、いや~。言葉の綾で。ね、加賀くんもシェアハウスを持ってる人が20代って思えないよね?」
「思いません。なんか宝くじを当てて、資産運用してるのかな~って感じです」
「っく。日和さん。本当に、僕はただ単にシェアハウスを持ってるから、30代かなって思っただけで……」
「ふふふ。別に怒ってませんよ? 何をそんなに慌ててるんですか? 」
わざとらしく無表情で日和さんは朝倉先輩に詰め寄る。
じりじりと朝倉先輩は追い詰められていく中、真冬がバイトから帰って来た。
「ただいま。トマト煮だ。日和さん。お金払うから食べさせてよ」
「あ、真冬ちゃん。お帰りです。たくさん作ったので、どうぞどうぞ」
助け船が来たと朝倉先輩はこの機を逃さない。
「おかえり。真冬ちゃん。ところで、真冬ちゃんは日和さんと初対面の時、何歳くらいだと思ったんだい?」
「ん? 24くらいかな」
「そうですよね? まったくもう。龍雅君ってば酷いんですよ? 私の事、初対面の時は30代だと思ってたって言うんです」
朝倉先輩の策はより一層と自分を窮地に追いやるだけだった様子。
さっきからずっと苦笑いな朝倉先輩は日和さんだけでなく。
「酷いね。朝倉先輩って」
真冬にも責め立てられる。
もちろん冗談だ。
そして、日和さんも別に本気で怒ってるわけではなく、わざと怒ったふりして楽しんでるだけなのは言うまでもない。
「っく。加賀くんに嵌められたよ……」
やれやれと言わんばかりで見られた。
それから、真冬も加わって4人で夕食を食べながらワイワイと過ごすのであった。
真冬とよりを戻す約束をしたけど、まだまだ色々と懸念や心配事はたくさんある。
でも、以前とは比べ物にならないほど、シェアハウスでの暮らしが楽しくなっていくのを感じる。
シェアハウスに住んでるからこそ味わえる楽しさ。
良い事ばっかりだなと思っていたら、
「っく。1階のトイレも2階のトイレも空いてない」
「あははは。コンビニ行けば?」
真冬に笑われた。
「いや、コンビニに行くよりも待ってた方が……」
「ん~。二人ともすぐには出てこないと思うよ。私もそうだしさ」
「どういうことだ?」
「一緒に住んでる人に臭いって思われたくないから、トイレに芳香剤を撒いて、匂いが散るまでみんな待ってるし」
「なるほど。っく。まだトイレに入ってるのがお前だったら、さっさと出ろって言えたのにな……。じゃ、割と漏れそうだからコンビニに行って来る」
「アイス買ってきてよ」
「分かった。適当で良いか?」
「うん。お願い」
トイレを使っているのは真冬以外の住人。
出て来るのを待っていたら、普通に漏らしそうだったので俺はコンビニに向けて走り出す。
「ったく。シェアハウスはこうだから嫌なんだよ……」
良い面もあれば、悪い面もある。
それが、シェアハウスっていうものだと痛感させられる俺であった。
(あとがき)
シェアハウスでの暮らしを少し掘り下げてみました。
キャラクターの個性を引き出すためにはこういう話も必要かなと。
何も恋愛ばっかりが楽しい事じゃないと伝えられるような面白い話を、これからも適度にお送り出来たら嬉しい限りです。
あと、皆様のおかげでラブコメ月間1位を獲得できました。
本当にありがとうございます。
そして、これからもよろしくお願いします。
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