第37話彼女の立ち位置
小春Side
お友達と買い物をした。
定期の区間内に若者向けのお店が軒並みを連ねる駅が含まれていると、ついつい寄り道しがちなのは私達だけじゃないと思う。
ちょっとした買い物であり、長々と遊ぶつもりはなかったため今日はお開き。
駅で友達と別れ、私も帰ろうと思ったのだが……。
「もう1セット買わなければ」
季節は夏。下着を見られる可能性があがる季節。
見せつけるつもりはないが、見られるかもしれない下着。
子供っぽいと見られたくない私は、同じシェアハウスに住む真冬先輩にどんなのが良いのか聞いた。
教えて貰ったブランドの下着を1セット購入。
これで、この夏は乗り切れる! と思っていたのだが、普通に足りなかった。
最低でも、2セットがなければ間に合わないのだ。
友達と別れて一人になった今。私は歩いてきた道を戻っていく。
「ふんふん~」
お気に入りの音楽を聞きながら、少し鼻歌を歌いながら目的地へ。
幾つか良さそうな下着を見繕い、どれを買うか睨めっこ。
「これください」
とまあ、無事に買い物は終わり、流れるように家に帰ろうとした。
「やっぱり新しい水着欲しいなあ……」
この前、ビリっと肩紐部分がちぎれてしまった。
水着はもう一着持っている。
けど、やっぱり夏は最高に可愛いお気に入りな水着で自分を彩りたい。
買うつもりはないが、見るだけでも。そんな軽い気持ちで、私は水着が売っているお店へ足を進めていく。
今日は平日ということもあり、お客の流れはまばら。
私がとある二人を見つけてしまうのは割と容易であった。
「ほへ?」
間抜けな声。そりゃそうだ。
なにせ、私が見つけてしまったとある二人とは……
真冬先輩と悠士先輩。
なんだか楽しそうに女性用水着を二人で選んでいる。
そんな様子を目撃してしまえば、間抜けな声の一つや二つ出て当然。
悠士先輩と楽しそうに話す真冬先輩は魅力的だ。
サバサバしてるかと思いきや、そうでもなかったり、クールな立ち振る舞いを演じるも、たまにポカしたりする。
私が男であったのなら、さぞ気を惹かれていたに違いない。
「どうして二人で水着を選んでるだろ?」
目が離せない。二人は、どこからどう見ても良い感じでお似合い。
もしかして、これはお付き合いに発展しちゃう?
「恋人かあ……」
二人が恋人になった未来を勝手に想像する。
あんなことやこんなことをしちゃうのを。
『なあ、良いだろ?』
迫る悠士先輩。
昔と違って男らしい一面を見せて堂々とする。
『え、あ、ダメですって……ゆ、悠士先輩?』
流れるまま、私は……悠士先輩に……。
「って、なんで私!?」
悠士先輩と真冬先輩で想像したというのに、なぜか真冬先輩の立ち位置に私を当てはめていた。
勝手に妄想した恥ずかしさを誤魔化すべく、私は何も考えず、水着売り場にいる悠士先輩と真冬先輩のもとへ飛び込んでいく。
「悠士先輩と真冬先輩だ! もしかして、デートですか?」
「え、あ、小春ちゃん!?」
「こ、小春ちゃん。どうしたの?」
いきなり現れた私に戸惑いを隠せない悠士先輩と真冬先輩。
「友達とお買物した後、買い忘れたものに気が付いて一人で戻ってきちゃいました。ところで、お二人はどうして水着売り場にいるんですか?」
「駅前でたまたま出会ってね。あ、この駅じゃないよ? シェアハウスがある最寄り駅。で、せっかくだから一緒にお買い物してただけ。小春ちゃんも悠士と気が合えば一緒にお買い物に行くでしょ?」
「なるほど。それにしても~、水着を一緒に選ぶとは中々に大胆な気が……」
「そうか? 大学生ともなれば、変に男女で距離を保つのもなくなるし。普通にこういう経験だってあるはずだ」
大学生ともなれば、高校生と違って変に男女で距離を保つというのはなくなり、意外な所にだって男女で出掛けると聞く。
ま、私は大学生じゃないので真偽がよくわからないけど。
「ふむふむ。二人はたまたま出会い、せっかくなので一緒にお買い物しているだけ。って、ことであってますか?」
「うん。あってるよ」
真冬先輩がそう答え。
横で悠士先輩もうんうんと首を縦に振る。
二人とも良い雰囲気。きっと、このまま仲を発展させていくだろう。
ここは、『それじゃあ。二人のデートをお邪魔しちゃダメですし、私はこれで』とにやにやとした表情をしながら去って行くのが筋だろう。
そうするべきだと分かっていたのに好奇心がそれを許さない。
「じゃあ、せっかくなので私もご一緒しても良いですか?」
気が付けば、二人のお出掛けに混ざろうとしていた。
「もちろん。真冬も良いよな?」
「うん。良いよ。せっかくだしね」
「あ、今、真冬先輩はどんな水着をお選びで?」
「これにしよっかなって」
「可愛いですね」
「でしょ? 悠士が似合いそうって選んでくれたんだよ。こ、小春ちゃん。ど、どうしたの。急ににやにやして」
「いえ、悠士先輩と仲良しなんだな~と。このこの~、やっぱり、悠士先輩が好きな俳優さんに似てて気になっちゃってるんですか?」
「え、あ、ち、違うよ? うん、本当に」
「え~、そうですかあ? っと、そこで静観している悠士先輩。実際問題、真冬先輩のことを可愛いな~って思っちゃってるんでしょう?」
「い、いや。別に? というか、真冬。一応、試着したらどうだ?」
なんだか気まずくなって話題を変える悠士先輩。
あらら、やりすぎたかな。これ以上の深追いは止めておこう。
「そうですよ。真冬先輩! 下着の上からといえども、一応試着はした方が良いと思いますよ」
「じゃあ、行ってこようかな」
試着室へ消えていく真冬先輩が遠のく中、私は悠士先輩に聞いていた。
「実際問題、どうなんですか? 真冬先輩とは」
「いや、まあ、普通にシェアハウスで仲良くなった友達みたいな?」
とは言うものの。悠士先輩の顔はどこかぎこちなくて不自然だ。
口にこそしてはいないが、本当は真冬先輩に気を惹かれつつあるのだろう。
きっと、恥ずかしくて口に出せないだけだ。
真冬先輩も好き。悠士先輩も好き。
シェアハウスでの暮らしは楽しい。
本気で悠士先輩に恋する前で本当に良かったと思う。
今なら、私は……諦められる。
「私はお似合いだと思いますけど?」
確かに悠士先輩のことを最近、異性として良いなと感じている。
けど、まだまだ私は二人の仲を応援できる良い子になれる。
だって、私は悠士先輩を異性として好きな前に……
「そういや、小春ちゃんが水着売り場を訪れたってことは、新しい水着を買いにきたのか?」
「あ、話逸らしましたね。まあ、買うつもりはないけど、少しだけ見たかっただけです。ほら、やっぱり、夏は可愛い水着で楽しみたいんですよ」
「男物の水着と違ってたくさん種類がある。そりゃ、自分が好きなデザインの水着で海で遊んだり、プールで遊べたら楽しいよな。引っ込み思案だった小春ちゃんの頃から海は大好きだったし」
「あははは、まだ覚えてるんですね」
海。それは私が好きな場所。
引っ込み思案だったけど、私は海に行くのが好きだった。
いつもと違う場所でいつもとちょっと違う遊びができる場所。
そして、大好きなお兄ちゃんがはぐれない様にといつも以上に構ってくれる。
なんだかそれが嬉しくて楽しくてしょうがなかった。
「海で溺れたらお前の責任だからね~と親に脅され、小さい小春ちゃんの面倒を見させられたら忘れられるわけない」
ちょっと苦々しく笑いながら話す悠士先輩。
そう、私は異性として好きな前にお兄ちゃんとして大好きなのだ。
たとえ、疎遠になっていた時期があったとしても過去は消えない。
性格が変わろうとも、容姿が変わろうとも、思い出は絶対になくならない。
だからこそ、悠士先輩が真冬先輩に惹かれているのなら、
「お姉ちゃんが住人を絶対に海へ連れて遊びに行こうと画策してるみたいですよ。良かったですね。真冬先輩という綺麗な人の水着姿を間近で楽しめるなんて」
私は悠士先輩の恋を誰よりも応援してあげられる。
というか、してあげたい。
「だな。真冬もそうだが、可愛い小春ちゃんの水着も見れるなんて、他の男たちから恨まれてもおかしくない」
「わ、私なんてど、どうでも良いですって」
「いやいや、同年代だったらまず間違いなく気を惹かれるレベルだと思う」
「お世辞でも言い過ぎですよ。昔ならそんな女の子を口説くようなこと言わなかったのに。悠士先輩が私を口説こうなんて100年早いですから」
せっかく恋を応援してあげようってのに、私のことを遠慮なく口説いてくる悠士先輩に心の中で文句を垂れる。
悠士先輩、私は真冬先輩との仲を応援してあげるつもりです。
でも、そんな風にされたら応援できなくなっちゃいますよ?
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