第27話動揺する真冬

「真冬先輩って彼氏が居たんですよね。付き合うってどうなんですか?」

 リビングに居た小春ちゃんがカップ麺を啜っていた真冬に話しかける。

 俺が居る中で、そう言う質問を真冬にされると気恥ずかしくなるんだが?

 リビングの片隅で俺は苦々しく、話しだした二人の様子を伺う。


「まあ、良いけどさ。どうして急に?」


「悠士先輩との匂わせ写真を投稿したら、周りの子から彼氏とはどう? って聞かれるんですよ」


「そりゃあ、あんな写真を投稿してたらね……」


「今は誤魔化して『彼氏じゃないから!』って対応してるんですけど、頑なに誤魔化し続けると普通に嫌な奴に見えるし、そのうち嘘ですけど彼氏って認めた方が良いかなと思ってて」


「そう言う事なんだ。匂わせて置いて、頑なに誤魔化し続けてたら、まあ、周りの女の子から嫌われるのは間違いないかも。こいつ、自慢したいだけだろって」


「はい。なので、どうか私に男の人と付き合うとどういう風になるのか、ちょっとばかし教えてください! これ以上、彼氏じゃないって言ったら、友達に、うざって思われちゃいそうな気がするので!!」


「いいよ。そうだなあ……。彼氏とどうなの? って聞かれたら、鉄板の答え方はツーパターン。仲良しな事をアピールするか、彼氏のダメなとこを言って同情を引くアピールするか。前者は自慢にならないように。後者はだったらなんでそんなダメ彼氏と付き合ってるんだって思われないように。こうすると波風は立たない。逆に普通だよ~とか答えてたら、もっとしつこくされるから気を付けること」


「なるほど。なるほど。じゃ、物は試しで。真冬先輩。彼氏とはどうなの? ってお願いします」

 ロールプレイを始める小春ちゃんと真冬。

 真冬は小春ちゃんの友達らしく気さくにこう言った。


「彼氏とはどうなの? いい加減、隠さないで良いから教えてよ」


「え~、あれは彼氏じゃないって。と言うと、さすがにそろそろうざって思われるから、教えてあげましょう。この前、どうしても手が繋ぎたいと言われちゃって……。ほんと、甘えん坊で困ってるかな~なんて。これで良い?」

 友達相手らしい口調で話した小春ちゃんは、わざとらしくリビングの片隅で大人しくしてた俺を見た。

 てか、勝手に捏造すんな。


「ふーん。そっか。でも、小春ちゃんの彼氏は甘えん坊なんだ」


「そうなんだよ~。もう、甘えん坊で甘えん坊でしょうがなくて……」

 

「おい。黙ってたら好き勝手言いやがって。誰が小春ちゃんに甘えてるだ?」


「え~、だって事実ですし」


「嘘つけ。小春ちゃんの方こそ、お母さんが迎えに来た時、俺の後ろで帰りたくないって甘えてた癖に」

 昔の話を持ち出した。

 そしたら、小春ちゃんも昔の話を持ち出してくる。


「は、はい!? そんなのしてません~。悠士先輩こそ捏造しないでください!」


「母さんに聞けば一発で事実だって分かるぞ?」


「っぐ。そ、そう言うことを言うと、悠士先輩の恥ずかしい過去を私も真冬先輩とか龍雅先輩とかにばらしますよ?」


「それがどうした」


「余裕があるのも今のうちですからね! ちょっと耳を貸してください」

 こそこそと真冬に俺の昔話をし始めた。

 そして、30秒後。

 真冬は俺の方を見て笑いを堪えてニヤニヤとしている。


「おい、一体何を……ばらしたんだ?」


「中学生の頃、ちょっと親に見つかるとあれな漫画を勉強机の奥底に隠してたんだってね。ガチでオタクな今からは全然想像できないかも」

 クスリと笑いながら真冬は教えて貰った内容を語った。

 っく。そうに決まってるだろ。

 今でこそ、オタク慣れして、親にもオタクで通ってる。

 だから、多少あれな漫画でも普通に部屋に置いてる。

 けどな。俺だって中学生の頃はそう言うのを見られるのが恥ずかしい時期だってあったんだぞ?

 てか、あれだ。


「小春ちゃん。勝手に人の机を漁ってたな?」


「小さい頃の出来心なので無罪です。そして、これは私が知ってる中で、割と甘口な悠士先輩の秘密です。私の昔をバラそうものなら、私もちゃんと抵抗しますよ?」


「分かった。分かった」


「分かれば良いんですよ。が、しかし。今回、先に喧嘩を売ったのは私ですからね。ん~、そうだ。悠士先輩も彼女さんが居ないの? って聞かれたらご自由に私の事を彼女みたいに語って良い権利をあげましょう。私も何だかんだで、悠士先輩の事を彼氏みたいに言いふらしてますし」


「あー」

 間抜けな顔でちらっとリビングに居るもう一人を見る。

 そのくらいは気にしないからと言わんばかりな顔。

 とはいえだ。真冬が好きだからこそ、心配させ嫉妬などさせたくない。


「ま、機会があればな」


「そうですか。おっと。忘れてました。洗濯しなくてはいけないのを忘れてました」

 小春ちゃんは慌てて自分の部屋へ。

 そして、脱いだ服が入った洗濯籠を持ち洗濯機のある脱衣所へ。



「小春ちゃんって、俺達に比べてよく洗濯してるよな。なんでなんだ?」


「体操服を2着しか買ってないからだってさ。体育の授業で着るのが無くなるから、洗濯ものを溜めて置けないんだろうね」


「だから、こまめに洗濯してるのか」


「今度、実家に帰って私の使ってた奴でもあげようかな……。まだまだ綺麗だったはずだし」

 

「結構な値段がするしそうしてあげてくれ。たぶん泣いて喜ぶぞ?」


「そっか。じゃあ、そうする」

 

「てか、あれだ。お前、なんかさっきからもじもじしてるけど、どうした?」

 小春ちゃんが去ってから俺と二人きり。

 真冬がさっきから、何となくそわそわしている気がする。


「な、何でもないけど?」


「まあ、そんなこと言わずに教えてくれ」


「ちょっと嬉しかったから。だって、小春ちゃんに私の事を彼女だって言いふらして良いって言われた時に私の方を見てくれたじゃん」

 顔を赤くしながら語る真冬が可愛くてしょうがない。

 可愛いので見つめて居たら照れながら視線を外される。


「こっち見ないでよ。恥ずかしいからさ……」

 得も言われぬ雰囲気。

 付き合っていた時にすっかりと忘れていたもどかしい気持ち。

 恋人になる前に味わったまどろっこしさ。

 久方ぶりのそう言った時間は、とてつもなく俺をドキドキさせる。

 真冬とよりを戻す約束を果たすため、俺は気持ちをちゃんと言葉にした。


「可愛いこと言いやがって」


「前は可愛いだなんて言ってくれなかった癖に……」


「だからだよ。前にも話しただろ? もう好きで可愛いのが当たり前。そんな認識になってた。でもさ、人って口に出して言われなきゃ……分からないんだって」


「そっか。じゃあさ、私も言っとく……。小春ちゃんを彼女だと言いふらして良いって言われた時さ、わ、私の事見てくれて嬉しかった……」

 真冬にそう言われた直後だ。

 ドタドタと足音が聞こえて来る。

 小春ちゃんがきっと洗濯機のスタートボタンを押し戻って来たのだろう。

 元恋人同士かのように振る舞うのを辞め、シェアハウスで暮らす友達に戻った。


「ふ~、暑い暑い。もう、だいぶ暑くなってきましたね~」


「そうだね。キャミソールとかの出番が増えて来たし。ほんと、夏に近づいてきたんだろうね」

 夏は薄着の季節。

 ブラが透けないようにキャミソールを着こむケースが多い。

 

「キャミソールは乙女には必要不可欠ですよね! 私も制服が透けると見えちゃうので、ちゃんと着こんでますし」


「ほんと、透けさせちゃうと視線が凄いよね……」

 さてと、そろそろ部屋に戻るか。

 なんかガールズトーク味が強くなってきたし。


 と言った感じで、俺はリビングを去るのであった。





 真冬Side


「あ、気が付けば悠士先輩が居ない。キャミソールとか下着周りの話をしてたから、居なくなったんでしょうか?」

 楽しそうに話していた小春ちゃんがハッとした顔で悠士が居ないのに気が付く。

 うん、いつの間に消えたの?


「ほんとだ。いないね」


「それにしても、悠士先輩と真冬先輩は出会った時に比べて随分と仲良くなって、一安心です」

 悠士と私の中を心配してくれる小春ちゃん。

 確かに最近はちゃんと仲良く出来てるけど、少し前までは絶対にあいつら雰囲気が悪いって心配かけてた。

 ほんとうに申し訳ない事をしたと思う。


「あはは、心配してくれてありがと」


「いえいえ。同じ家に住む仲間ですからね! 当たり前ですって。さてさて、悠士先輩も居ない事ですし、色々と真冬先輩に相談したい事があるんですよ」


「何でも相談して良いよ」

 悠士が居たら出来ない相談。

 なんか女子ならではの悩みなのかな?


「と、友達の話なんですけど。結構、年上の男の人が気になってるらしいんですよ。それこそ、5、いや6歳くらい年上の人が」


「……。え、あ、そうなんだ。それで?」


「友達から気になる人が、本当に異性として好きかどうかを調べるためにはどうしたら良いの? って聞かれちゃいまして……」


「なんて答えたの?」


「いえ、まあ。その場では濁して『好き』って感じたら~好きなんじゃない? と物凄く曖昧に答えました。でも、その……。そう、ま、またそう言う事を聞かれた時、何て答えれば良いのか知っておきたいんです」


「す、好きかどうかを確かめたいんだ」

 嫌な予感がする。

 いやいや、待って?

 絶対にさ、これ小春ちゃんの友達の話じゃないでしょ。

 だって、小春ちゃんの子犬のようなつぶらな瞳に落ち着きがない。


 それに、5歳年上って言った後、露骨に6歳年上って感じに濁したよね?


 ま、まあ。

 完全に決まったわけじゃ無い。

 うん、たまたまでしょ。


「一緒にお出掛けに行ったらしいんですけど。なんと言うか、楽しかったは楽しかったらしいんですよ。でも、まるで友達と遊ぶような? 楽しさだったって。男の人と遊んで楽しければ、それは好き? なのかな~って感じで、もしかしたら異性として好きなの? って悩んじゃったそうです」

 ぐ、具体的過ぎる。

 本人は隠してるつもりだけど、隠しきれてない。

 あ、そっか。

 そもそも、小春ちゃんは私と悠士が元恋人だなんて知らないし、最悪、自分の事だってバレても良いやって思ってるんだろうね……。

 じゃなきゃ、こんなにも具体的な訳がない。


 悠士が誰か私以外を好きになろうが、好かれようが止める権利はない。

 だけど、小春ちゃんに――



『それは恋じゃ無いよ。良くある感情だって。好きな人の場合は、もう好きって感じで悩みすらしないから』



 そう伝えてしまいたい。


 よりを戻す約束を果たしたい私は……小春ちゃんは悠士の事を好きになられたら困ってしまう。

 こんなにも可愛い子だ。

 私よりも性格が良くて、すでに私よりも胸は大きい。

 絶対に負ける。


 一度別れた面倒くさい私なんかよりも、小春ちゃんを選んでも不思議じゃない。

 今でこそ、悠士は小春ちゃんの事を妹みたいだと言っているが、それは絶対じゃないのだから。


「この人とこれからもずっと一緒に居たい。そう思えたら、私は好きになったって言えると思うよ。私はそうだったし」


「なるほど。じゃあ、まだわた、じゃなくて友達はあの人が好きじゃない? あ、その勉強になりました。ありがとうございます!」

 お礼を言ってくれる小春ちゃんから私は逃げない。


 逃げてたまるもんか。


 たとえ、小春ちゃんが悠士を好きになろうとも、私はそれを受け止める。

 邪魔してでも悠士とよりを戻したい気持ちはある。

 そんな風にしてまで勝ち取りたいけどさ。

 

 私に小春ちゃんを邪魔する権利はない。


 ここでその気持ちは恋じゃないと言ってしまいたい気持ちは隠せない

 でも、邪魔をしたら悠士は私を蔑むに決まってる。

 そんな最低な事をする奴だと思って無かったって。


 あと、私にとっても小春ちゃんはすでに――


「私達はちょっと年は離れてるけど、一緒にシェアハウスに暮らす仲間。ううん。友達でしょ? これからも何でも相談して良いからね」

 もう、他人じゃ無く友達だ。

 友達を蹴落とすなんて事はぜ~~~~ったいにしたくない。


「真冬先輩。さっきから、汗凄いですけど大丈夫ですか?」


「え、あ、うん。ちょ、ちょっと暑いだけだから。冷房つけて良い?」

 小春ちゃんは悠士が異性として好きかどうか分かんない微妙な感情を持ってると知った。

 威勢よく立ち向かおうと頑張ろうとしている。

 しかし、目の前で起きた出来事を受け止めきれず、私は滅茶苦茶に動揺が止まらないのであった……。


 

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