第28話酔っ払いに構ってあげる元カノ
高校デビューを失敗したのを思い出すと、今でも胃が痛くなる。
それでも失敗を恐れず、俺は大学デビューした。
真冬の支え合ってか、かなりうまく行ったと思う。
『飲み会をバックレた奴が居てな。人すくねえから、物足りないし奢ってやるから来いよ』
同じサークルに入ってる先輩からの呼び出されるくらいに。
高校では先輩後輩の付き合いなんてほとんどなかったが、大学生になってから初めて先輩後輩付き合い。
不安な面もあったが、何だかんだで順風満帆である。
ちょうど暇だった俺は奢ってくれるそうなので、先輩が飲んで居る居酒屋に向けて家を出た。
「あれ? 加賀君。お出かけですか?」
「あ、日和さん。ちょっと、奢って貰えるらしいので飲み会に行ってきます」
「そうでしたか。飲み過ぎないように気を付けるんですよ?」
「分かってますって。それじゃあ、行ってきます」
電車に乗り先輩たちが飲んでるお店に辿り着く。
店員に先輩の名前を告げると、個室のテーブル席に案内して貰えた。
「お、よく来たな。いや~、バックレた奴のせいで人数が少なくて盛り上がりに欠けててな。ほれ、座れ座れ」
まだまだ飲み始めたばっかり。
お酒以外はサラダと枝豆しかない机。
さてと、問題はだ。
「ちょ、先輩。合コンだなんて聞いてませんけど?」
「そりゃあ、言ってねえからな。まあ、合コンって言っても、別にガチガチな婚活パーティーじゃあるまいし、適当に飲んで楽しめば良いんだぞ?」
「まあ、それなら……」
「それにお前、今は彼女と別れてんだろ? 良い機会じゃねえか」
来てしまったし、引くに引けない。
合コンと言っても、ただ楽しく飲んでも別に文句なんて言われないだろう。
カバンを置き席に座った俺は通りかかった店員に注文をする。
「あ、すみません。生ビールひとつお願いします」
「かしこまりました~」
店員が去って行ったとほぼ同時、俺は向かい側に座ってる女性陣に声を掛ける。
「どうも。先輩に呼ばれたので来ました加賀悠士です」
そしたら、向かい合って座っている女性陣も挨拶を返してくれる。
挨拶を済ませた後、俺はふと気になったことを言っていた子に話しかける。
「あ、そこの大学に知り合いが居るんだけど。朝倉龍雅って知ってる?」
そう、朝倉先輩と同じ大学に通っている子が居た。
興味本位で朝倉先輩の名前を出す。
話しかけた俺の真ん前に座ってる子が嬉々として話に乗ってくれた。
「格好良いで女子から騒がれて有名な龍雅くんですよね? 話したことは無いけど知ってるよ。学園祭でバンドのライブをしていっぱい人集めてたし」
「へ~。朝倉先輩はバンドやってたのか。初耳だ」
「そうそう。結構、ガチってるやつ。ほらこれこれ」
見せてくれた写真には、ギターを持って演奏してる朝倉先輩の姿だ。
黒色でイメージに合った格好良い衣装を纏っている。
「格好良いな」
「だよね~。そりゃあ、女子からモテる訳だよ」
「そうだな。で、実際話してみたんだが、彼女が居ないって言ってたんだが、あのモテようだと嘘なんじゃ? って思ってる。そこら辺、どう思う?」
朝倉先輩に愚痴りながら酒を飲んだ時に教えて貰った。
彼女が居たことがないという事。
きな臭さを感じているのは言うまでもない。
「彼女は居ないかあ……。噂だと近づいて来た女の子を裏で食ってるとか色々聞くよ。まあ、絶対に周りがでっち上げたどうでも良い嘘なんだろうけど。事実だったら、それはそれで衝撃的だしね。それよりさ、龍雅くんじゃ無くてさ、そろそろ悠士くんの事を話してよ。一応、この場は合コンなんだしさ? ね?」
「あ、悪い悪い。それじゃあ……」
大学に入る前は合コンってガチで恋愛したい人が集まってるんだろうなあ。
と思っていたが、実際は合コンとは名ばかりなようだ。
ただ単に男と女が一緒にお酒を飲んで色々話すだけ。
どんな音楽を聞いてるだとか、大学で経験した面白い出来事だとか、ちょっとしたトラブルへの愚痴などなど。
色々と話して楽しむ飲み会だ。
気が付けば、あっという間に予定していた2時間を過ぎてしまう。
「じゃあね~」
去って行く女性陣。
それに先輩は手を振って挨拶する。
「気を付けてな~」
俺も気を付けてと適当に手を振って見送る。
野郎どもだけになった後、俺を呼び出した先輩が俺に言った。
「いや~、ありがとよ。一応、合コンって事で頭数は揃えとかなきゃいけなかったからな。バックレた奴の代わりにお前が来てくれて助かった」
「いえ、無料で飯とお酒が飲めて満足したんで。じゃ、今日はこれで」
「おう。加賀が帰んなら男だけで2次会しても良かったが、今日はこれでお開きにすっか。じゃ、かいさーん」
気の抜けた先輩の解散で俺達は散る。
随分と酒臭くなった俺はそそくさと電車に乗って家に帰って来た。
「ただいま」
「おかえり。って、酒臭いけど飲んで来たの?」
ちょうど出くわした真冬から酒臭いと言われた。
そりゃそうだ。酔っているのだから。
「いや~、がっつりと。先輩に呼ばれて合コン? って奴に参加して来た」
「ご、合コンって……」
「いや、呼ばれて行ったら合コンだっただけで、別に彼女が欲しくて合コンに行ったわけじゃ無いからな」
「まあ、私も別に合コンくらいき、気にしてないから」
「ふぅ~。さてと、シャワーでも浴びて寝るか。じゃあな。お休み」
自分の部屋から着替えを持ちシャワーを浴び自分の部屋へ。
ベッドに倒れ込み、だらだらと携帯を弄りながら眠くなるのを待つ。
「真冬が可愛いんだよなあ……」
合コンに参加して改めて真冬の可愛さを再認識。
酔っぱらってる中、頭の中は真冬の事ばっかり。
そんな俺は意味もなく真冬を部屋に呼ぶ。
「なに?」
「なんとなく」
「はあ……。酔ってるね。そんな事だろうと思ってた。すれ違った時、顔真っ赤だったし。ほら、水飲みなよ」
渡された冷えた水。
のどを潤しながら、酔っているせいか気が付けば真冬の体に触れていた。
「付き合ってるわけじゃないから触らないの」
「悪かった」
「ほら、悪いと思ってるなら触らないでって」
「はいはい。悪い悪い」
真冬に触れるのを辞めたと同時だ。
携帯が震えてメッセージが届いた。
『今日は楽しかったね! 良かったら、今度は別のメンツで飲み行こうよ』
「……ん~。これって、どうなんだ?」
真冬に届いたメッセージを見せる。
そしたら、真冬はため息交じりに俺に言うのだ。
「思いっきり合コンして来てるじゃん」
「ん?」
「それ、絶対に悠士とまた会いたいって感じだから」
「マジか」
「うん。思いっきり、気になられてるよ」
「……」
人生生まれて初めての経験。
俺という男は真冬以外に気になられた事なんてないのだ。
「で、どうするの? ま、まあ、私は君がしたいようにすれば良いと思うけど」
真冬はちょっとツンとした感じ。
別に彼女でないし、俺の行動を制限する権利などないと分かっている。
そんな感じだ。
酔ってるせいか、出来心で俺はふざけ始めた。
「したいようにかあ……。まあ、お前とまたよりを戻せるとは限らないしな」
「そ、そうだよ。べ、別に悠士が何しようが私は止めないし」
「じゃ、遠慮なく。と言いたいところだが、真冬よ。お前の態度次第で、ここはお断りすることにしよう。ほれ、悠士が好きだから他の子に現を抜かさないで~って言ってみろ」
「それは言えないかな。これ以上、悠士に面倒くさいって言われたくないし」
「悪い。そりゃそうか」
「ううん。別に気にしてない」
「『機会があればよろしく』送信っと。ほら、今でもお前一筋だぞ? どうだ? 格好良いか?」
うざったらしく真冬の髪の毛を触る。
あ~ダメだ。
髪の毛触ったら怒られるのに酒のせいで自制が出来ん。
「酔っ払いめ」
「お前が可愛いのが悪いんだぞ」
「一応、友達なんだからさ。髪の毛をそんなに触らないでって」
「そう言われてもなあ……。てか、あれだ。今まで聞くに聞けなかったんだけど、なんで髪の毛切ったんだ?」
別れる前は肩にかかるくらいのセミロング。
でも、今は長めのボブヘアー。
ざっくりと短くなってしまった髪の毛を触りながら聞いていた。
「……悠士と別れたからだよ」
「そっか。俺が長いのが好きって言ったからな。いつも髪の毛が長い長いって言ってたし、そりゃ別れたら普通に切るか」
「へ~、私が髪の毛を伸ばしてた理由覚えてたんだ。そうそう、だから悠士と別れたから、長いのがうざいし切った」
意外そうな顔で笑われた。
そして、うざったらしく髪の毛を触っている俺の方を向く。
「今更だけどさ。どう? この髪型、似合ってる?」
「似合ってる。あれだ。出会った時を思い出す」
ちょうど今くらいの髪の毛の長さの時、真冬と仲良くなった。
そう思い出すだけ、不思議と笑みがこぼれていた。
「これでも、悠士と出会った時よりかは圧倒的に長いからね?」
何もおかしなことは無い。
ただ、昔を思い出しただけ。
それだけだというのに、クスっと思い出し笑いする俺ら。
「いや、でもその髪型はやっぱり昔に似てるって。そして、俺は長い方がどちらかと言うと好きだし、また伸ばしてくれても良いんだからな?」
「あははは。何言ってるの? もうやだよ。また君と仲違いした時に、ばっさり切ると思うと、ないない」
「そりゃそうか。ま、気が向いたら伸ばしてくれ」
「うん。気が向いたらね」
「そういや、今日、合コンで飲んでた相手の中に朝倉先輩と同じ大学に通ってる子が居てな。曰く、裏では近づいて来た女の子をたくさん食ってるらしい。お前も気を付けろよ?」
朝倉先輩がそういう人じゃないのは良く分かっている。
だけど、せっかく手に入れた話題だ。
振る舞わずには居られなかった。
「そんなわけないのにね」
「だよな。てか、あれだ。同棲してる時は酔った俺なんて雑に早く寝ろって言った癖に」
「そりゃ、こんな酒臭い人と一緒にベッドに寝なくて良いし」
「ダブルじゃなくてセミダブルだったもんな」
「そうそう。もう、お酒臭くて超嫌だった。でも、今はベッド別だし気にならないから優しくしてあげてるわけ。という訳で、今のうちに言っとく。酒臭いの嫌だから、より戻したとしても酔ってる時は一緒に寝ないから」
好きだから。
だからこそ、ちょっとした事には目を瞑っていたんだろう。
「そうだな。小さい事だと思ってても、嫌な事は嫌だしな。じゃ、俺からも一つ。次お前と寝るベッドはダブルベッドで。結構な頻度でお前に蹴飛ばされて、床で寝てたし」
「半分くらいは、わざと蹴落としてたわけじゃ無いから許してよ」
「半分もわざとで突き落とされたのかよ」
「ごめんね?」
「ったく。やっぱり、お前とセミダブルは無理だな。いつか、頭打って死ぬ」
「ばーか。何、また私が一緒に君と寝るの前提で話してるの?」
「だな」
それから俺は満足するまで、真冬と話し続けるのであった。
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