ポンコツ王女と作戦会議(2)
アンリの出て行った扉を見つめながら、私は呆然としていた。
――まだ、なにも言っていないのに。
求婚は、アンリの方からなかったことにされてしまった。
やっぱり二年間の隔たりは大きかったのだろうか。
あのとき即答できなかったのが悪かったのだろうか。
それとも――。
――オレリア様。
彼女の存在が、アンリの気持ちを変えさせたのだろうか。
思い返すのは、陛下による婚約宣言だ。
アンリ自身は乗り気ではなかったように見えたけれど――本心はもしかして違うのかもしれない。
あの婚約宣言を、陛下も周囲の人たちも祝福していた。
戦いの中で結ばれた勇者と聖女の結婚――なんて話は、民からの受けもいい。
きっと、二人の結婚は多くの人に喜ばれるだろう。
身分差も、たしかに彼女は平民だけれど、聖女の身分は特別だ。
国内外に影響力のある神殿が後ろ盾にあり、影響力なら上位貴族にも匹敵する。
王家に嫁入りするにはそこまで問題があるわけではない。
それに、陛下がわざわざ人前で宣言したくらいだ。
王子の結婚なんて、その場の勢いで宣言するものではない。
となるとやはり、二人の結婚はもう決定事項に思われた。
――アンリが、結婚……。
胸によぎるもやもやを、私は慌てて振り払う。
アンリが求婚してくれたとき、返事をできなかったのは私だ。
それから二年。はっとするほどの美青年で、そのうえ勇者で王子なアンリに、新しい出会いがないわけがない。
オレリア様でなくとも、たくさんの女性たちが彼に惹かれたはずだ。
その中から、アンリが誰かを選ぶのは当然。
求婚を待たせる私より、自分に思いを寄せる相手の方がいいに決まっている。
それでも彼は罪悪感から、『君に触れる資格がない』なんて言ってくれたのだ。
――仕方ないわ。
私は胸に手を当て、自分に言い聞かせる。
だって二年たった今もまだ、私はアンリの求婚に答える言葉を見つけられていない。
私は、アンリにはつり合わない身分だから――。
「――ミシェル、聞いていて!?」
聞いてなかった。
はっと我に返れば、いつの間に泣き止み、不満そうな顔で私を覗き込むアデライトに気付く。
アンリが去ってから、どれほど考え込んでいたのだろう。
窓から差し込む陽光は、朝日から昼の光に変わりはじめていた。
「呆けている場合じゃないのよ! ミシェル、仕方ないからもう一度言うわ!」
つんと不機嫌な声で言うと、アデライトは私の両肩をむんずと掴んだ。
「今度こそ、あなたとお兄様をくっつけるわ! 聖女の思い通りにさせるもんですか!!」
「えっ」
さっき、アンリから求婚を取り消されたばっかりなのに……!?
……いや、その前に『今度こそ』ってどういうこと!?
「さあ、作戦会議をするわ! 付いてきなさい!」
疑惑を浮かべる私など気にも留めず、アデライトは自信満々に立ち上がった。
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