イベントクラッシャー(2)
――と、いうわけで。
「本当に、見るに堪えないこと。たしかに、顔は多少良いけれど、生まれの卑しさがにじみ出ているわ」
「わかりますわ。性根の意地汚さって、顔や態度に出るものですわね。アンリ殿下というものがありながら、他の殿方にまで色目を使って。べたべたと体に触れるなんて」
「そのくせ、わたくしたちには挨拶一つしませんものねえ。聖女と言っても、さすがは平民ですわ。礼儀知らずの無礼者ですわねえ」
「――無礼者はあなたたちもよ!」
アデライトは王宮をめぐり、陰口を叩く人々を見つけては割って入っていた。
「オレリアは国賓なのよ、国賓! オレリアから挨拶をしないなら、あなたたちからすればよくってよ!」
「あ、アデライト様!?」
王宮の中庭。薔薇の咲く生垣の近くに立ち、くすくすと笑っていた貴族の令嬢たちは、突然入って来たアデライトにおののいた。
全員、王宮に自由に出入りできるほどの身分だが、王女であるアデライトには口答えできるはずがない。
失礼しました!――と慌てて逃げ出していく令嬢たちの姿を、アデライトは「ふん!」と鼻息荒く見送った。
「本当、評判が悪くて嫌になるわ! みんな悪口言ってるじゃない!!」
「そうみたいですね……」
アデライトから少し遅れて生垣にたどり着いた私は、そう言いながらも呼吸を整える。
悪口が聞こえた途端にアデライトが突っ走るので、追いかけるのが大変だ。
しかもこの悪口、アデライトの部屋から中庭までの短い間に、もう何件聞いたかわからない。
――男性に色目を使ったとか、朝食が不味いとひっくり返されたとか、警備の兵をもっと美男子に変えろと文句を言ってきたとか…………。
頭の中で、聞いてきた悪口を反芻する。
オレリア様の悪口を言っているのは、アンリに憧れる令嬢や、娘を王妃の座に付けたい貴族たちだけではない。
王宮で働く使用人――特に女性陣からは、貴族たち以上の悪口が聞こえて来た。
「どうも、オレリア様は素行がよろしくないみたいですね……」
「むう……」
さすがのアデライトも、難しい面持ちで唸り声を出す。
根も葉もない悪口ならまだしも、オレリア様自身に問題があっては、人々の口をつぐませるのは難しい。
いくら言って聞かせても、聖女が問題を起こせば不平不満は出てきてしまうものなのだ。
「でも、だから悪口を言わせるわけにはいかないわ。イベントもだけど、それ以前にオレリアは国賓だもの。国が招いた相手に不快な思いをさせるわけには――」
深いため息とともに、アデライトがそう言いかけたとき――。
「見つけたわよ! この悪役女!!」
甲高い怒声が、中庭に響いた。
顔を上げれば、こちらに向かって大股で歩いてくる、怒りの形相のオレリア様の姿がある。
「また私の邪魔をしたのね! ぜんぜん私の悪口が言われないじゃないの!!」
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