第18話009「入寮」



「いってらっしゃいませ、ティアラ様、ハヤト様」

「「いってきます」」


——次の日


 私とハヤトは馬車に乗って学校へと向かった。


「今日からいよいよ入寮ね」

「入寮?」

「あれ? 知らないの、ハヤト? 学院では三年間寮に入って生活するのよ」

「そうなのか⋯⋯知らなかった」

「でも、寮生活になれば友達もできやすくなると思うから⋯⋯きっと楽しいわよ!」

「そうか。楽しいのか。いいな」

「うん!」


 私はそう言って窓越しに見える遠くの山を眺めながら、昨日の夕食の後に言われたお父様の言葉を思い出す。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ティアラ⋯⋯ティアラ⋯⋯」

「?? お父⋯⋯様?」


 お父様がハヤトが上の自分の部屋に行ったのを確認してから私を呼び止めた。


「どうしましたの、お父様?」

「いいかい、ティアラ。ハヤトのことだが⋯⋯」

「ハヤト?」

「ああ。ハヤトは現在『力を封印されている』と言っていた。だが、ハヤトのあの雰囲気や口調はおそらくトラブルを招く恐れがある。だから⋯⋯」

「ハヤトを守ってくれってことでしょ? もちろん、そのつもりよ! 心配しないで、お父様!」


 私は胸を張ってお父様へ返事を返す。


「ありがとう、ティアラ。頼むぞ」

「まかせてっ!」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



(私がハヤトを守るんだ)


 昨日のお父様との会話を思い出しながら私は、一人、拳(こぶし)を強く握りしめる。


 そうこうしている内に馬車は学院へと着いた。


「えーと⋯⋯寮はあっちみたいね。行きましょ、ハヤト」


 私は『しおり』を見ながら、ハヤトの前を歩いて寮へと歩く。すると、目の前に大きな白い建物が見えてきた。


「あ、あれね」

「⋯⋯でかいな」


『アリストファレス防衛学院・生徒寮』——入学後、生徒の三年間の生活の基盤となる建物で、生徒らが勉強に集中できるよう、アリストファレス王国の全面バックアップの元、質の高い食事やサービスを寮内で提供している。


 寮に着くと全一年生がクラスごとに並んでいた。そう、今日の集合は教室ではなく、寮のエントランスとなっているのだ。私たちはクラスメートと合流しA組に列に並んだ。


「立派なエントランスね〜」

「ね〜、いいよね〜」

「素敵⋯⋯」


 私はイゼベラとマリーの所へ行き話をする。


「ねえ、ねえ、ティアラ。今日ハヤト君と一緒にお昼ごはんしようよ?」

「え? 今日?」

「うん。だって私もマリーもまだハヤト君に挨拶とかしていないし。ていうか、あんたハヤト君に教室から連れ出されて、そのまま帰ったでしょ!」

「あ⋯⋯」

「『あ』⋯⋯じゃないわよ! あんた、昨日私たちに紹介するの忘れてたでしょ?」

「う⋯⋯」


 はい。すっかり忘れてました。


「ということだから、今日はハヤト君を絶対にお昼に誘ってよね」

「はい。ティアラさん、ぜひお願いします」

「わ、わかりました⋯⋯」


 そっか。そう言えばなんだかんだで昨日はハヤトに教室から連れ出されたまま家に帰ったから二人にはまだ紹介していなかったんだっけ。


 私はイザベラの言う通りすっかり忘れていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「部屋は二人一組となる。組み合わせは渡した資料の二枚目に書いてあるからそれを見て移動するように! 他に質問のある奴はいるか?」


 担任のソフィア・ハイマンがそう言って腕組みをして私達を睨みつける。まるで『質問なんてないよな?』とでも言いたそうな眼光で。それにしても先生⋯⋯おっぱいデカイわね。


「よし。では早速、移動⋯⋯」

「すみません。先生、いいですか?」


 ソフィア先生の眼光や威圧をまるで無視するかのように手を挙げたのは、


「⋯⋯カルロ」

「「「きゃあああーーー、カルロ様ーー!!!」」」


 四大公爵マキャヴェリ家の次男。『マキャヴェリ家の至宝』である生徒会長の弟、カルロ・マキャヴェリ。端正な顔立ちで気品漂う所作は兄のジュリオと同じく『四大公爵家』という大きな名前を背負うにふさわしい人物である。当然、女子生徒からの人気も高い。


「で? 要件は何だ?」

「いえね⋯⋯たしか、この学校のクラス分けというのは『能力』によって分けられているはずですよね?」

「ああ、そうだな」

「そして、このA組に入るには魔術士ランキングで『最低でもB級魔術士(クラスB)』以上の者である必要があるはず⋯⋯だが、あのハヤト・ヴァンデラスの魔術士ランキングは『下級魔術士(ジュニアクラス)』。これはおかしいんじゃないですか?」

「⋯⋯そうだな」


 あ! そうだ。確かにA組は『B級魔術士(クラスB)』以上じゃないと入れない。


 ということは、下級魔術士(ジュニアクラス)のハヤトは本来なら⋯⋯、


「ハヤト・ヴァンデラス。本来、君はよくてもC組、魔力量が少なければD組となるはずだ。なのに、このA組に入っているのは⋯⋯父親のオリヴァーさんの計らいか? それとも国王様の? いずれにしてもこれは『不正』に当たるぞ!」


 そう言って、カルロ・マキャヴェリはハヤトに向かって厳しく追求した。


「⋯⋯異論はありませんよね? ソフィア先生」

「ああ、異論はない」


 どうやら、ソフィア先生もハヤトがA組にいることに不満はあったようだ。


 そ、そんな、ハヤトがなんで?


 ていうか、確かに誰が下級魔術士のハヤトをA組に入れるなんて『不正』をしたの?


 お父様がそんなことわざわざするはずがない。


 となると、一体誰が? ま、まさか⋯⋯国王様?


「ああ。それ、僕がやった」


 皆が聞き覚えのある『子供の声』を聞いてその声に跪く。


「「「「国王様!」」」」


 まさかの国王様、二日連続の登場である。


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