第27話018「女子寮にて」
——女子寮A組食堂エリア
「それにしても不思議よね〜」
イザベラがふいに呟く。
今、私たちは授業を終えて寮に戻った後、お風呂と食事を済ませ食堂の外にあるテラスで寛いでいた。寮の食堂は学院の食堂とは違い、各クラスごとに食堂エリアが分けられている。また、それは一年生だけでなく二、三年生も一緒なので、このA組の食堂エリアには一年、二年、三年のA組の生徒だけがいるのだ。
ちなみに、アリストファレス防衛学院では『魔術士ランキング』によって、上からA組、B組、C組、D組とクラス分けされる。『魔術士ランキング』は『特S級魔術士(オーバークラス)、
「何が?」
「ハヤト君よ」
「ハヤト?」
「そう。今日初めて話したけど、何と言うか⋯⋯すごく惹きつけられるというか⋯⋯その⋯⋯」
「イ、イザベラ? あ、あなた初対面で、本当にハヤトのことを⋯⋯?」
「わ、わかんない! わかんないけど⋯⋯ハヤト君と話したらすごく⋯⋯ドキドキした」
乙女やないかーい!
「う、うん。ドキドキした」
乙女やないかーい!
二人して、乙女やないかーい!
「う、うそでしょ?!」
「ほ、本当⋯⋯えへへ」
「『本気』と書いて『マジ』」
「⋯⋯」
何と言うことでしょう。
まさか、初対面で二人がこうなってしまうとは。
ハヤト、恐ろしい子。
「ていうか、ティアラこそどうなのよ!」
「え? わ、わわわ、わたしぃー?!」
「あんた、ハヤト君のこと好きなの?」
「わ、私とハヤトは⋯⋯し、姉弟だし⋯⋯」
「でも血は繋がっていないでしょ?」
「そーだ、そーだ」
「うっ⋯⋯」
私は言葉に詰まる。
「言葉に詰まるってことは⋯⋯まあ、そりゃそうよね」
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんな勝手に決めつけないでよ」
「じゃあ、私とマリーがハヤト君とイチャイチャしてもいいの?」
「わ、私には⋯⋯関係⋯⋯ないし⋯⋯」
「本当に?」
「⋯⋯う、うん」
「ティアラさん、目を背けてそんなこと言われても説得力皆無です」
「う⋯⋯」
イザベラとマリーの攻撃に為す術もない私がモジモジしていると、
「はぁぁぁ〜〜〜⋯⋯もう、わかったわよ。あんたの気持ちは! でも、ということはティアラは別にハヤト君と付き合っているわけではないのよね?」
「そ、そりゃ、もちろん! 姉弟だもん!」
「ということは⋯⋯」
「??」
「ハヤト君のほうが誰かを好きになるんなら話は別よね?」
「へ?」
ここですかさずマリーが畳み掛けてきた。
「ということでティアラさんに宣戦布告です」
「せ、宣戦布告?」
「「つまり⋯⋯ハヤト君を惚れさせた人が勝ちってこと!」」
イザベラとマリーが声をハモらせる。
「ええええ〜〜〜〜!!!」
「まあ、一応現時点ではティアラがだいぶ有利だけどね。でも、勝負はこれからよ!」
「はい。この三年間の学院生活で大逆転狙いますけん」
な、ななな、なんかいつの間にか『
あと、マリーの語尾、変なんですけど〜。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
——女子寮食堂D組エリア
「強敵ぞろいね、リンガ」
「う、うん」
「よりにもよって、
私は猫型獣人のリンガ。
今、私は仲良くなったクラスメートの兎型獣人のエマと人間族のシャロンと一緒に食堂のベランダでお話をしていた。
「お話じゃないわよ、リンガ! 作戦会議よ!」
作戦会議を開いていた。
え? 何の作戦会議かって? それは⋯⋯、
「というわけで!『第一回ハヤト君ラブアタック会議』を開催いたしまーす!」
「イエーイ!」
パチパチパチパチ。
エマとシャロンがテンション高く手を叩く。
エマとシャロンの応援は嬉しいのだけれど⋯⋯で、できればその会議名⋯⋯変えて欲しい。
「では、ここで状況を整理したいと思います」
と言って、シャロンが話を始めた。
「え〜、現在の『ハヤト・ヴァンデラス株』でございますが、入学初日の会場での出来事で少し注目を集め株価が上昇したもののそこまで急激な上がり方はしておりませんでした」
何故かシャロンが『株』に例えて話を始めた。
「ですが、本日の魔術授業におけるソフィア先生との対決で、ソフィア先生の魔術を魔術で弾くという前代未聞のやり方で防ぎ一進一退の攻防を見せました。結果、現在の『ハヤト・ヴァンデラス株』は高騰と相成っております」
「そんなわけでリンガっ!」
「は、はい!」
「私が思うに『ハヤト・ヴァンデラス株』はこれからさらに上昇⋯⋯つまり
エマがずいっと顔を寄せてアドバイスをする。
「エマの言う通りよ、リンガ!」
次にシャロンが顔を寄せてくる。
「いい? 現時点ですでにA組のあの有名人三人が
「う、うん、そう⋯⋯だよね」
確かに。それはシャロンの言う通りだろう。
「でも、リンガには一つだけ有利な点がある。それは⋯⋯ハヤト君と同じD組であるということ!」
「そう! これはあの三人にはないかなりのアドバンテージと言えるわ。だからこそリンガには積極的行動⋯⋯つまり『ラブアタック』が大事になってくるってこと!」
「「イエーイ!」」
パン!
二人は私に自信満々に言葉をかけると、いつものように手をパンと鳴らした。
な、なるほど。
このオチがあってのあの会議名だったのね。
い、いやいや、今はそんなことにかまっている状況ではなかった。
確かに二人の言う通りだと思う。私があの三人にはない唯一のアドバンテージがあるとすればハヤト君と同じクラスメートであることは間違いない。でも⋯⋯、
「で、でも、私、あ、あまり、積極的に話せるタイプじゃないので⋯⋯ちょ、ちょっとハードル高い⋯⋯」
「「ダメよ、リンガちゃん!」」
「ひゃっ?!」
エマとシャロンは私の訴えを即断却下する。
「せっかく『ハヤト君と同じクラス』だというのに、その長所いつ活かすの?」
「今でしょ!」
「⋯⋯」
え、えーと⋯⋯まずはハヤト君と『親しい友達になる』という目標に向かって頑張りたいと思います。
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