第26話017「宣戦布告」



「やっぱり噂は本当だったのねー」

「はい。ハヤト君は本当にあのS級魔術士クラスSのソフィア先生の魔術攻撃を魔術で弾いて防いでました! でも、それだけじゃなく体術も凄かったです! もう、かっこよかったです!!」

「そ、そう⋯⋯」

「はいっ!!」


 猫型獣人のリンガという黄色い毛並みの可愛い女の子がかなりの熱量を込めてハヤトの話をする。ていうか、目がすでにハート型になっていた。


 こ、これは⋯⋯、


「ライバル出現⋯⋯てとこね?」

「むぅ〜⋯⋯クラスが離れているのはかなり不利」

「え? イ、イザベラ? マリー? な、何を?」

「「ティアラ(さん)」」

「は、はい⋯⋯っ!」

「今度ハヤト君とのお話会を絶対に開いてよね(ください)!」

「えええええ〜〜〜!!!」


 ちょ、ちょっと、D組女子だけじゃなくイザベラやマリーまでハヤトに⋯⋯てこと?! う、うそでしょ? 全くの予想外の展開に私があたふたしていると、


「どうした、ティアラ? 顔が赤いぞ?」

「ぴゃっ!?」


 ハヤトがいきなり私の髪を上げ、おでこをつけてきた。


「熱は無いよう⋯⋯だな」

「「「「きゃーーーーー!!!!!!」」」」

「「「「うぉぉぉーーー!!!!!!」」」」


 突然のハヤトの『おでこ熱測り攻撃』に体を硬直させた後ろでイザベラとマリーはもちろん、D組のみんながその光景に一斉に反応する。


 ハヤトは何もわからずに自然にやっているようだけど、それって『天然ジゴロ』とかいうただの最強生物じゃない! これだと他の女子が、


「やだ、ハヤト君⋯⋯かっこいいっ!」

「あんなにストレートに⋯⋯素敵」

「何なの、あの天然は?⋯⋯かわいいじゃないの!」


 すでに籠絡してました。


「うぐぐ、ハヤト⋯⋯何という大胆さ」

「まだD組に移動したばかりだというのに⋯⋯何という大型新人!」

「ハヤト君、お友達になろうじゃないか」


 男子のほうもいろんな意味で籠絡してました。


「こりゃー、明日からD組の女性陣は一気に接近するわね」

「うん。強敵ぞろい」

「⋯⋯」


 イザベラとマリーが不安な言葉を口にする。


 そんな『D組女子』や『イザベラ&マリー』という新たな強敵の出現にやきもきしていると、


「ソフィア先生が手加減したことも知らずに何やら浮かれている輩がいるようだな⋯⋯」


 侮蔑と悪意のこもった言葉を発する男に皆の視線が集まった。


「昼食中にバカ騒ぎする声がするなと思ったら⋯⋯D組の奴らとハヤト・ヴァンデラスじゃないか」

「「「「カ、カルロ・マキャヴェリ⋯⋯」」」」


 さっきまでの騒ぎがカルロの言葉と威圧で一瞬で静まり返る。


「やあ、寮での一件以来だね、ハヤト君」


 カルロはハヤトのところに行き、声を掛ける。


「ん? 誰だ、お前?」

「な⋯⋯っ?!」

「「「プッ!」」」


 ハヤトは本気でカルロのことを覚えていなかったらしい。ハヤトとカルロの温度差に私を含めD組のみんなも一瞬、笑いそうになった。


 キッ!


「「「ひぃ!!」」」


 すると、カルロが周囲のみんなに強く威圧を浴びせ黙らせる。


 いや〜、これマジで怒ってるね。


「ハヤト・ヴァンデラス。だいぶ調子に乗っているようだが、貴様の本当の実力⋯⋯私が来週の『一年合同魔術演習』で暴いてやる。覚悟しとけ」

「一年合同⋯⋯魔術演習? なんだ、それは?」

「もう、そんなことも知らないの、ハヤト? しおりに一年間の学院スケジュールが書いてあったでしょ!」

「ん? おお! そこにいるのはティアラさんじゃないですか!」

「えっ?! あ、ど、ども⋯⋯」


 私を見つけるや否やカルロがスッと近づく。


「ティアラさん、どうしてこんなD組のテーブルにいるのですか? ああ、弟さんの様子を見にきたんですね?」

「あ、はあ⋯⋯まあ、そんなところです」

「失礼ですがティアラさん。あなたの弟さんは養子⋯⋯つまり血が繋がっていないと聞きました。そんな男女が一つ屋根の下でこれまで暮らしていたなんて私には信じられません。はっ! もしかしてティアラさんやお父上のオリヴァーさんは彼に何か『弱み』を握られているということですかっ?!」

「そ、そんなことありませんよっ!!」


 カルロの妄想暴論に私は全力で否定する。しかし、


「⋯⋯いいんです、ティアラさん。私にはよくわかっています。ここは私にお任せください!」

「へ? な、何を⋯⋯?」


 カルロは私の話など聞かず、それどころか手を握ってきて勝手に話を進めようとした。その時、


「おい、手を離せ」


 バシッ!


 ハヤトが突然立ち上がり、カルロの手を強引に引き剥がす。


「ハヤト!」

「気安く姉さんに触るな」


 うっ!⋯⋯⋯⋯ちょっと、かっこいい。


 いやいや、今はそんなこと言っている場合ではない。


「ダメよ、ハヤト! ケンカはダメ!」


 私はハヤトを必死で止める。当然だ。只でさえ貴族に逆らうのは自殺行為に等しいのに、カルロ・マキャヴェリなんて四大公爵の中でも影響力の高いマキャヴェリ家の人間だ。そんな人物に対してケンカを売るなど自殺行為どころかフルボッコにされるようなものだ。


「なるほど。威勢は良いようだがいいのか? 私にそんなケンカを売るような真似をして? いくら王宮魔術士のオリヴァーさんの養子とはいえ只では済まんぞ?」

「なんだ、お前? 俺とケンカするのが怖いのか?」

「な、何⋯⋯っ?!」

「お前は俺に負けるのが怖いから権力を振りかざそうとしているんだろ?」

「ちょ! ハ、ハヤトっ!」


 ハヤトが予想以上にカルロに食ってかかるのを見て私は驚き止めに入る。だが、


「ふ、ふふ、ふざけるなっ!! 誰がお前ごときに私が恐怖するというのだ、いい加減にしろ!」

「じゃあ、ケンカするってのか? 俺は構わんぞ?」

「や、やめなさい、ハヤト!」

「嫌だ」

「え?」

「姉さんの手を馴れ馴れしく触るような奴は俺は許さない」

「ハ、ハヤト?」


 あ、あれ〜?


 なんか、思った以上にハヤトってシスコンなの?


 あれ? これってシスコンでの反応なの? どっちだろ?


 などと、一人違うことで悩んでいると、


「ふん。かなり調子に乗っているようだな。いいだろう⋯⋯そこまで言うのなら来週の『一年合同魔術演習』で勝負だ」

「ああ、いいだろう。ちなみに⋯⋯⋯⋯一年合同魔術演習てなんだ?」

「ちょ、ハヤト! あんた一年合同魔術演習のこと知らないで安請け合いしたの?」

「ああ」

「ああ⋯⋯じゃないわよ! あのね、いい? 来週、一年生全員での魔術演習があってね、その演習では模擬戦闘というものがあるんだけど、たぶん、カルロはそこで勝負するって言ってるの! しおりの中の『一年間のスケジュール』に書いてあったでしょ?!」

「うむ、読んでいないな」

「はぁ?! あ、あのねー⋯⋯」

「ティアラさん⋯⋯」

「!? は、はい!!」


 カルロが突然私に話しかけてくる。


「ご心配なさらず! 私が奴の本性を暴いてあなたたちから引き剥がしてみせます!」

「あ、あの〜⋯⋯ほ、本当にハヤトに弱みを握られているなんてことはなくてですね⋯⋯」

「では、ハヤト・ヴァンデラス! 一週間後の『一年合同魔術演習』で勝負だ!」

「ちょ、ちょっと! カルロ⋯⋯っ?!」


 カルロは私の声など聞くこともなく、その場から颯爽と去っていった。


「いや〜、カルロ君は姫にゾッコンですからね〜」

「⋯⋯これぞ、修羅場」

「ちょ、ちょちょ、ちょっと二人ともっ! やめてよ!」


 二人が『面白いおもちゃ見つけた』とでも言いたげな顔で私を全力でおちょくってくる。


「う〜む。やっぱハヤト君はティアラさんが一番なのか〜」


 エマがそう言うと、


「で、でも、私だって⋯⋯私だって負けないもん!」


 リンガが『ふんす!』と自分に気合いを込めていた。


「こりゃ〜、来週の一年合同魔術演習が楽しみですな〜」


 そのリンガの横では、このイベントを全力で楽しもうという魂胆のシャロンがニヤニヤしていた。


 何だか、いつの間にか大ごとになってしまったのは気のせいだろうか?


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