第15話006「ハヤト・ヴァンデラス」
「ハヤト・ヴァンデラスだ。よろしく」
簡素な自己紹介をするハヤト。
教室に移動した後、早速、自己紹介をすることになったのだがハヤトの番になると皆がざわつき始める。
「おい、あれさっきの一年生じゃん」
「ウ、ウソ⋯⋯A組だったの?」
「ね、ねえ、『ヴァンデラス』って⋯⋯もしかして⋯⋯」
皆がざわつく中、ハヤトは特に意を介さず、
「あと、ティアラは俺の姉で大事な人だ。二人共々よろしく頼む」
「ちょ! ハ、ハヤト⋯⋯っ!」
「「「きゃーーーーーー!!!!!!」」」
皆が⋯⋯特に女子が一斉に黄色い声をあげる。無理もない。
ていうか、ハヤト、言い方ーーっ!
「お前ら静かにしろ!」
担任であり魔術教官である『ソフィア・ハイマン』が黄色い声を一瞬で静止する。
「ティアラ!」
隣の席のイザベラが小声で声をかける。
「あ・と・で・ね」
「⋯⋯は、はい」
イザベラの予想通りの言葉に私は為す術もなく肯定する。
「さて、ホームルームが終わった後だがお前らは一旦家に戻り、明日からの入寮の準備をするように。それでは今日はこれで終わりだ。解散!」
ホームルームが終わると同時にハヤトの周りに生徒が集まり、私のところにはイザベラとマリーが集まる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ティアラ、あの子があなたが言っていた『最愛の弟』なのね」
「弟のハヤトさんもティアラさんのことを『大事な人』って言ってましたもんね」
「あ、あれは、その、ハヤトが大袈裟なだけで⋯⋯べ、別に、大したことじゃないわよ」
私はイザベラとマリーになぜか弁解のようなことをしていた。
別に何も悪いことをしているわけではないのだが、ただ、ハヤトがあんな言い方をしたということもあって、何だか恥ずかしくなってしまい、結果、弁解チックになったのだ。
「いやいや、ハヤト君のあの言い方は大真面目でしたのよ、ティアラ様?」
「⋯⋯イ、イザベラ? 何が⋯⋯言いたいのかしら?」
「だってぇ〜、あんたたち⋯⋯⋯⋯血、繋がっていないでしょ?」
「こ、こら、バカ!」
「「「ええええええええええ!!!!!!」」」
イザベラの言葉にハヤトの周囲にいた子たちも一斉に反応した。
「え? え? え? ハヤト君とティアラさんて血が繋がっていないのですか?」
「え? あ、まあ、その⋯⋯はい」
「ということは、同い年の男女が一つ屋根の下で暮らしているということですね?」
「あ、まあ⋯⋯はい」
「「「きゃーーーーー!!!」」」
女子の黄色い声が響く横で私はイザベラを睨む。
「ご、ごめ〜ん」
イザベラが小声で手を合わせて謝っている⋯⋯はぁーまったく。
私がこの場をどうやって凌ごうかと思った時、
「皆、すまん。ティアラ、行くぞ」
「え?」
ガシッ!
ハヤトが突然手を握ってきたかと思うと、グイっと引っ張り私を連れて教室を出て行った。
「「「きゃー! ハヤト君、強引ーーーーっ!!!」」」
私はハヤトの強引な態度にビックリしたが⋯⋯⋯⋯嫌ではなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それにしても、あの『紅蓮の乙女(ブレイザーズ・メイデン)』に弟がいたとはなー」
「ねー! しかも、血の繋がっていない弟なんて何だかミステリアスじゃない!」
「やっぱり、あの二人⋯⋯できてるのかなー?」
「いや、見た感じ、そういうわけではない気がするけどなー」
「ううん! ティアラさんはわからないけど、ハヤト君のほうはお姉さんにゾッコンって感じだったわよ!」
「てことは、ハヤト君の一方的な片思い⋯⋯てこと?」
ティアラとハヤトが出て行った後の教室は二人のことで大いに盛り上がっていた。無理もない。
「まー、その話題を投下したのはイザベラですけどね」
「なはは」
マリーがジト目で正論ツッコミを入れてくる。
「まー、そのおかげ⋯⋯というのも尺ですが、クラスの子達の距離が一気に縮まったのはよかったですけど⋯⋯」
「で、でしょー? ま、まあ、すべて私の計算通りよ」
「は〜⋯⋯まあ、そういうことにしきますわ。それよりも⋯⋯」
そう言って、マリーが真剣な表情に切り替わる。
「ティアラさんに弟がいたという事実。これは、この先いろいろと大変なことになるかも⋯⋯です」
「だよねー。ティアラから話を聞いてはいたけど、正直、そんな人が本当にいるなんて信じてなかったからね⋯⋯私たち」
「はい。話には聞いてても今まで会ったことなかったですから。ですが、こうやって学校に堂々と入学してきたということはオリヴァー様も承知の上でのことなのでしょう。そうなると⋯⋯」
「あたしたち四大公爵家もいろいろと動き出す⋯⋯か」
「はい⋯⋯」
あたしとマリーは自分たちの家のことを考えて暗い顔になる。
「まあ、どっちみちしばらくは静観ってことになるんじゃないの?」
「そうですね。ただ、個人的にはハヤトさんの出現によって私たちのこれまでのティアラさんとの関係が壊れないかと少し⋯⋯心配です」
マリーが不安げなことを口にする。
「大丈夫よ。だって、あたしのところもマリーのベルガモット家もヴァンデラス家とは家族ぐるみの関係じゃない!」
あたしはマリーの不安を払拭するように言葉を掛ける。
「ですよね? 大丈夫ですよね?」
「うん! 大丈夫だよ、きっと! さ、あたしたちも家に戻って明日の入寮の準備しよ!」
「はい」
そうして、あたしとマリーは教室を後にした。
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