第21話012「差別ではなく区別」
「ここが俺たちの部屋か」
扉を開き奥を見ると通路を挟んで両方に勉強机とベッドが置かれていた。部屋にはシャワールームもあるがだいぶ狭い。寮のしおりによると大浴場があるらしく、大体は皆、大浴場を利用するとのことだった。
「にしても、二人で使うにしては狭いよな〜。まあ、D組だからこんなもんか。はあ⋯⋯」
俺が部屋の中を見てヘコんでいる横で、
「すごいな、ベッドが一人一つずつ用意されているとは。これは快適だ」
ハヤトは部屋をだいぶ気に入っている様子だった。
「そうか? 二人で使うにしては狭くないか?」
「ん? そうか? 野宿に慣れている俺としては最高な環境だぞ」
「の、野宿?」
なんで王宮魔術士の息子が野宿してんだ?
俺は興味本位で聞こうと思ったがやめた。理由は深入りするのは身を滅ぼすと思ったからだ。
「改めて、ハヤト・ヴァンデラスだ。よろしく、ライオット」
「ライオット・シャゼルバイゼンだ。よろしく」
一応、王宮魔術士オリヴァー・ヴァンデラスの息子ということもあるので俺は深入りしない程度に仲良くしようという作戦を取ることにした。
とにかく、俺はこの学院生活の三年間で少しでも王宮の『魔術士隊(マギアクラン)』か『騎士隊(ナイツクラン)』に入るためにここに来たんだ。利用するものは利用してやる。
俺たちは持ってきた荷物を整理する。一通り終えたところで、
『ピンポンパンポーン⋯⋯これよりホームルームを始めますので各教室へ移動してください。繰り返します。これよりホームルームを⋯⋯』
放送を聞いた俺たちはすぐに教室へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それでは皆さん、ホームルームを始めますー。昨日、自己紹介は済みましたがハヤト君が新たにこのクラスの仲間となりましたので、このホームルームの時間はハヤト君との交流会にしたいと思いまーす」
マリアちゃんが『名案でしょ!』とでも言いたげな『ドヤ顔』で元気よく発言する。正直、『関わりたくない』と思っている連中が多いのでそのマリアちゃんの提案は『ありがた迷惑』だった。だが、マリアちゃんの悲しい顔は見たくないという思いからハヤトのところに集まり、一人一人自己紹介をしていく。
「俺の名はマルコ・サンピエロだ。よろしくな」
「私はノエル。ノエル・セントルイスよ」
皆が一人一人自己紹介をしていく。正直、こんなの一回じゃ覚えきれないだろう。皆もそう思っているがマリアちゃんを悲しませたくないということで、とりあえず作業的な挨拶程度を行っていく。
一通り挨拶が終わった後、ハヤトが口を開いた。
「一つ、質問してもいいか? えーと⋯⋯リンガと言ったか?」
「え? あ、はい!」
いきなり名前を呼ばれたのは、猫型獣人のリンガ。
ていうか、こいつ、あの一回の自己紹介で全員の名前を?
ま、まさかな。
「君は獣人族のようだが、獣人族とは苗字がないのか?」
「え? あ、うん。獣人族には苗字ないんだ」
「そうか。あと、お前は性別は女なのか?」
「う、うん。あ、でも『女』というのは人間族の女性のことだから獣人族だと『雌』かな。まあ別に言い方はどっちでもいいよ」
「そうか。ところでA組には獣人族が一人もいなかったが学校にはD組以外にも獣人族はいるのか?」
「え⋯⋯あ、いや、その⋯⋯どうだろう?」
リンガが答えに困っていた。無理もない。だって獣人族は、
「おい、やめろよ」
「む? どうしてだ? エバンス?」
「!? お、俺の名前まで⋯⋯」
「ん? いや、だってさっき皆、自己紹介してくれたじゃないか。何を驚いている?」
「え⋯⋯あ、いや、そ、そうだな⋯⋯」
マ、マジかよ。
こ、こいつ⋯⋯本当にあの一回の自己紹介で全員の名前を覚えたってのか?!
そんなハヤトの記憶力の凄さに皆、少しずつ興味を抱き始めていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「で、どうなんだ?」
「な、なにが⋯⋯だよ?」
「いや⋯⋯獣人族というのはD組以外にはいないかと聞いている」
「あ、ああ。そうだったな⋯⋯」
エバンスだけじゃなく俺を含めた皆が、ハヤトの記憶力の凄さについ質問を忘れていた。
そんなエバンスがコホンと一つ咳払いをして気を取り直した後、ハヤトに説明を始めた。
「この学校では⋯⋯というより、この世界の常識みたいなものだし、獣人族のいる目の前で言葉にするのもアレだが⋯⋯この世界の大部分を統治しているのが俺たち人間族だ。そして、獣人族は俺たち人間族に仕えている者たちがほとんど。そして、この学校も世界の縮図みたいものだ。だから獣人族は人間族と一緒に勉強するのも少し前まではありえないことだった。だけど、三年前に就任した今の国王様が『異種族間交流』や『種族間の平等』ということを打ち立てたため、今ではこうやって獣人族も希望者には学院で学ぶことができるようになったんだ」
「ほう? やるな、国王⋯⋯」
「しかし、現状は獣人族が上に上がれるのは最高でC組までとなっている。だからA組に獣人族が存在することはありえない」
「なんだ? その上に上がるとか上がらないとか⋯⋯。同じ一年生なのに『差別』があるのか?」
すると、ここで別の獣人族の女の子が声を上げる。
「そうよ! ちなみに寮の部屋だってクラスによって違うわ。当然A組の部屋は広さも豪華さも全然違うからね。ちなみに一番貧相なのはもちろんD組よ。まあ、これも人間族の考え方では『差別』じゃなく『区別』だそうよ、フン!」
「や、やめろよ、エマ」
狼型獣人のラルフが兎(うさぎ)型獣人のエマという女の子を宥(なだ)める。
「いいじゃない! ハヤト君はいろいろ聞きたがっているんだから」
「い、いや、でも⋯⋯」
「うむ。エマの言う通りだぞ、ラルフ。いろいろと教えてくれ」
「お、俺の名前も!?⋯⋯あ、ありがとう、ハヤト君」
「何を言う。当然だ」
ラルフは自分の名前を呼ばれると表情は少し嬉しそうにしているだけだが、尻尾を見るとブンブン振りまくっているので実際は相当喜んでいるみたいだった。
気がつけば、教室にいる全生徒が最初と違ってハヤトにかなり興味を示していた。
不思議だが⋯⋯このハヤト・ヴァンデラスという男と話すと知らず知らずに皆が惹き込まれていく。
無論、かくいう俺もいつの間にかその一人になっていたが。
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