第22話013「世界の常識」
「というわけで、さっきの話だけどこの学院では国王様がいろいろと頑張っているみたいだけど『人間偏重主義』はほとんど変わっていないのが実状なの! そして、悲しい哉(かな)⋯⋯それは世界の常識でもあるのよ」
「よ! エマちゃん、かっくいい!」
兎型獣人のエマがハヤトに熱量増し増しのプレゼンを展開。それを見た仲の良い人間族の女子が合いの手を入れる。
「シャロン、君は獣人族のエマと仲が良いのか?」
「うん。私はエマちゃんのこと大好きだもん! 大きな声じゃ言えないけど個人的には人間も獣人も私にとってはあまり関係ないわ!」
「イエーイ! ありがとう、シャロン!」
「もちのろーん!」
パン!
そう言ってシャロンとエマが手を勢いよく叩き合わせる。
「そうか。そういう人間もいるんだな⋯⋯」
「待て待て待て、ハヤト・ヴァンデラス。このシャロンはどちらかと言うとマイノリティのほうだからな。勘違いするんじゃないぞ?」
「どういうことだ、ビンセント?」
「ビンセントが⋯⋯声をかけた」
今、ハヤトに話しかけたのはビンセント⋯⋯ビンセント・ミケランジュ。俺と同じ下級貴族ではあるが、かなりの天才でその名は上級貴族や四大公爵にも轟いている。
しかし、そんな天才がなぜD組にいるのかというと、魔術士ランキングや魔力量の判定が低いことと、何よりも『かなりの偏屈で変わり者』ということからD組となった。
まあ、本人曰く『別に私は何組でも構わんし、そんなことはどうでもいい』と言っていたので、この判定に特に不満は無いようだ。
「いいか、ハヤト・ヴァンデラス! さっきエバンスも言っていたがこの世界は『人間偏重主義』の奴がほとんどだ。七割⋯⋯いや八割そうだと言っても過言では無い。そんな世界の常識の中でいくら学院の中だけとはいえ『異種族平等』なんてことは絵空事なのさ、フン!」
ビンセントがイラついた様子で言葉を吐く。
「ビンセント⋯⋯君がそんなにイラついているということは今の『人間偏重主義』が面白くないと思っているのか?」
「ああ、面白くないね。ちなみに俺がムカつくのは今の話は何も獣人族だけの話でもないってことだ」
「というと?」
「この世界では人間族の中でも差別がひどい。この学院の常識でもわかるように基本『魔術師ランキング』や『魔力量』での差別はもちろん、家柄での差別が特にひどいのさ」
「家柄?」
「そうそう。ハヤト君は王宮魔術士のオリヴァーさんという人の家だからそれなりの待遇はあると思うけど、それ以外の下級貴族や平民は四大公爵と高級貴族の人たちからは『同じ人種』という扱いは受けないわ。だから、このD組とC組にいる者のほとんどは下級貴族か平民か獣人族で構成されているの」
シャロンがため息を吐きながらそう訴える。
そう、俺たちD組にいるクラスメートは皆、下級貴族、平民、獣人族しかいない。C組には能力の低い上級貴族がたまにいるがそれはほとんど稀だ。
「つまり、下級貴族、平民、獣人族はどんなに頑張ってもC組までしか上がることはできないということか?」
「そういうこと。ちなみにさっきの寮の部屋みたらわかるけど、C組やD組の私たちの部屋よりもA組やB組の部屋は広いし快適な作りになっているわよ。まあ、国が全面バックアップで資金提供しているから国の戦力になる人たちは優遇されて然るべき、というのが現実」
「なるほど。そういうものか」
「いや、そういうものであるはずがないっ!」
ここで机を思いっきり叩いて威勢を吐いたのは平民の男だった。名前は⋯⋯なんだっけ?
「お前は⋯⋯グルジオか」
「そうだ! グルジオ・バッカイマーだ。魔力の少ない平民だがその分、体術を磨いた。だから貴族相手でも負ける気はしない!」
「威勢がいいな」
「あたぼーよ! 中等部の頃は下級貴族相手に勝負して勝ったこともあるんだぜ!」
グルジオ・バッカイマー。平民ではあるが中等部では体術に優れているということで有名だった奴だ。
「平民の魔力量というのは貴族と比べて少ないのか?」
「なんだ、お前、そんなことも知らないのか? これだから貴族は?」
「む? 俺は貴族になるのか?」
「「「「はぁぁぁ〜〜〜???」」」」
俺を含め周囲の生徒が、ハヤトの発言に驚き叫ぶ。
「お前⋯⋯どれだけ世間知らずだよ?」
「俺は生まれて一回も学校に行ったことがないからな。世間の常識はそこまで知らん」
「いやいや、あんた王宮魔術士の息子でしょ? 学校に行ったことがないなんてそんなことあり得ないでしょ?」
「俺がヴァンデラス家に拾われたのは三年前で、その後はすぐに修行で家を離れたから⋯⋯」
「ちょ!? ちょ、ちょ、ちょっと待て!」
「ん? どうした、ライオット?」
「いやいや、ツッコミどころが多すぎて戸惑ってんの! ていうかハヤト⋯⋯『三年前に拾われた』って、それってヴァンデラス家は本当の家族じゃないのか?」
「ああ。養子というものだ」
「「「「えええええええええ〜〜〜!!!」」」」
「ちょ、ちょっと、そんなの初めて聞いたわよ」
「まあ、今、初めて話したからな」
「え? え? じゃ、じゃあ、元々はどこにいたの?」
「ここから遠く離れた村で生まれた。村の名前は『ルコット村』というところだ」
「ルコット村?! それってアリストファレスの西の端にある辺境の村じゃないか」
「ああ、そうだ」
「え? じゃあ、何でそんな村からヴァンデラス家の養子っていう話になるのよ」
「それはだな⋯⋯」
ハヤトはその村での奴隷のような生活をしていたことや学校に行かせてもらえなかったこと、そして父親に殺されそうになったところを王宮魔術士のオリヴァーさんに助けられそこから養子になったことを淡々と語った。
「あ、あんた、この歳でかなりヘビーな経験してるのね」
「私たち獣人族もまあまあヘビーだけどあんたも中々だわ」
シャロンと兎型獣人のエマが感心する。
「ハヤト⋯⋯お前がヴァンデラス家の養子で学校に行ったことがないこともわかった。しかし、国王様とのあの親しい関係はどういうことだ?」
ビンセントが冷静な態度で質問をする。
たしかにそれはすごーーく気になる。
「師匠と修行の合間に買い物に行ったときに魔物に襲われていた国王を助けたのがきっかけだな⋯⋯たぶん」
「たぶん?」
「こっちとしては別に助けはしたが、なぜ、国王があそこまで俺に興味を持ったのかは謎だ」
「何? ハッハッハ⋯⋯なんだよ、それ」
「「「「!!!!!!!!!」」」」
あの冷静沈着なビンセントが初めて人前で⋯⋯笑った。
その衝撃にハヤト以外の俺を含めた皆が呆気にとられていた。
「ハヤト⋯⋯お前、面白い奴だな」
「そうか?」
あの変わり者で偏屈のビンセントが笑うどころか、ハヤトに自分からアプローチするなんて⋯⋯ハヤト・ヴァンデラス、本当に不思議な男だ。
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