第23話014「ソフィア・ハイマン」



 キーン、コーン、カーン、コーン。


「はーい! それではホームルームは終わりでーす。皆さん、次は魔術の授業ですから運動場へ移動してくださいねー」

「えー! もうそんな時間!」

「マリアちゃーん! まだ話終わってないから延長〜」

「ダメ! 早く移動してください!」

「ちぇ〜」


 最初、ハヤト・ヴァンデラスに興味がなかった俺たちだったが、いつの間にかハヤトの周りで話が盛り上がり気がつけば時間があっという間に過ぎていた。


 俺たちは更衣室へと向かい、運動着に着替え運動場へと移動する。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「遅い! 弛(たる)んでるぞ、D組!」

「「「「す、すみませんーーー!!!」」」」


 次の魔術の授業——先生はあのA組担任、ソフィア・ハイマンだった。


「フン。これだからD組の奴らは⋯⋯」


 ソフィア先生は遅刻した俺たちにほとほと嫌そうな顔を見せる(時間ちょうどだったと思うけどね)。


「ハヤト・ヴァンデラス。いくら国王様の『勝手な計らい』とはいえお前が不正をしたことは紛れもない事実だ。私は容赦はせんぞ?」

「ああ、すまない。国王には俺からもきつく言っておく」

「「「「!!!!!!!」」」」

「き、き、きっさま〜⋯⋯国王様にタメ口など⋯⋯」


『国王にタメ口』⋯⋯もう、それだけで本来であれば『刑罰』を与えられても文句は言えない。しかし、入学式では国王が『タメ口でいい』と認めるようなことを言っていたので、ハヤトは本当にタメ口で大丈夫なのだろう。しかし、


「しかも、教師である私に対しても『タメ口』とは⋯⋯貴様、許さんぞ」

「む? タメ口というのは何なのだ?」

「そのお前のしゃべり方だよっ!」

「すまん。俺は『教育』というものを今まで受けてきたことがないからな。許してほしい」

「いいや許さん。お前みたいなふざけた者は私が鉄拳制裁で教育してやるっ!」

「鉄拳制裁? なんだ、それは?」

「前に出ろ。特別授業だ」

「特別授業?」

「ああ、そうだ。私が直々に貴様に口の聞き方を教えてやる」


 国王様だけでなくソフィア先生にまでタメ口で接したハヤト。それに激怒したソフィア先生がハヤトに『特別授業』と言う名の『公開処刑』を行おうとしていた。


「何? 先生が直々に俺に授業を? 何だか悪いな、俺だけ」

「「「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」」」


 ハヤトはソフィア先生が自分だけに特別授業してもらうことを光栄に思っているようだ。


『無知って怖い』⋯⋯それが皆の総意である。


 ハヤトとソフィア先生が俺たちから少し前のほうへと移動する。


「あの⋯⋯ソフィア先生」

「なんだ?」

「その⋯⋯特別授業というのはどういうものなんですか?」

「ああ、それはな。特別授業というのはな⋯⋯⋯⋯模範戦闘のことだっ!」

「!!」


 ハヤトに説明すると同時にソフィア先生が魔力を体術に使った『超加速』でハヤトの懐に入り、顎へ拳を突き出した(早くてほとんど見えなかった)。


 フッ。


「な⋯⋯っ?!」

「「「「えっ!!!!!!!」」」」


 ソフィア先生はもちろん、皆がハヤトの顎に拳がヒットしたと思った瞬間、そこにハヤトの姿はなかった。


「ソフィア先生不意打ちとは⋯⋯なるほど、特別授業とは実戦形式の指導ということなんですね、素晴らしいっ!」


 消えたと思ったハヤトはいつの間にかソフィア先生の後ろに移動しており、先生に話しかけると同時に拳を繰り出していた⋯⋯が、


「甘いっ!」


 ソフィア先生はハヤトの拳を直前で顔を逸らすという最小の動きで躱し、ハヤトの腕を捕まえる。


 超接近で対峙する両者。


 ていうか、ハヤトってもしかして⋯⋯体術がすごいのか!


「なるほど。お前の武器は体術なのだな?」

「さあ、どうでしょう?」

「フ⋯⋯うぬぼれるなーー!」


 そう言ってソフィア先生が組んだ手を話すと同時にハヤトから距離を取った。


「体術は中々のモノらしいが、所詮は運動能力が多少良いだけに過ぎん。そんな奴はゴマンといる。そして、そんな体術の限界というのが何かわかるか?」

「知らん」

「それはな⋯⋯」


 そう言ってソフィア先生が手の平をハヤトに向ける。


「魔術との歴然たる差だっ! バーニングショット!」


 ソフィア先生は火属性の魔術『バーニングショット』を放った。しかも、先生はS級魔術士(クラスS)なので、


「でかっ! なんつーバーニングショットの威力だよ!」


 S級魔術士(クラスS)のソフィア先生が放つバーニングショットは、俺たち下級魔術士(ジュニア)が放つソレと比べて桁違いにデカかった。当然威力も段違いだ。ハヤトはソフィア先生のバーニングショットを何とか体術で避けている⋯⋯が、


「これで終わりだ! 少し、頭を冷やせ⋯⋯ハヤト・ヴァンデラス!」


 ハヤトが避ける先を予想していたのか、ソフィア先生はハヤトが避けた場所に同時にバーニングショットを放っていた。


「ハヤト⋯⋯っ!」


 誰もが『終わった』と思った。その瞬間——


「スウィングストーム」

「何っ!?」


 バシュン!


「「「「ええええええ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」」」」


 ハヤトは風属性の魔術『スウィングストーム』をソフィア先生に⋯⋯ではなく、ソフィア先生が放ったバーニングショットに当て軌道を変える。そして、さらに、そのスウィングストームをぶつけた勢いを利用してハヤトはその場から脱出した。


 二人が距離を置いて再び対峙する。


「な、なんだ、今のは!? 魔術を魔術で弾くなど⋯⋯」

「ま、『俺オリジナル』といったところだ」


 俺たちはもちろんだがソフィア先生もハヤトの魔術の使い方に動揺していた。


 そりゃ、そうだ。いまだかつてあんな魔術の使い方する奴なんて聞いたことがない。


「まー、力量さを補う技術は修行で身につけたからな」

「修行? 誰から習ったのだ?」

「それは秘密だ」

「⋯⋯」


 見ると、ソフィア先生のさっきまでの怒りはいつの間にか消えており、逆に今はハヤトに興味を抱いているのか、分析しているのかジッと見つめていた。


「フ⋯⋯まあいい。特別授業はこのくらいにしておいてやる」

「ああ、わかった」

「⋯⋯では授業を始めるぞ。ちなみにハヤトはもちろん、他の奴らも含めてD組だからって私は手を抜かんからな、覚悟しろ!」

「「「「えええええ〜〜〜!!!!!!」」」」


 この日の魔術の授業はソフィア先生の言葉通り『手を抜くこと』なく過酷を極めたのは言うまでもない。


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