第20話011「一年D組」
「ハヤト・ヴァンデラスだ。というわけで、これからよろしく頼む」
「「「「!!!!!!!!」」」」
さっきまで視線の中心にいた男⋯⋯ハヤト・ヴァンデラスがD組へと本当に移動してきた。
まずい。
非常にまずい。
そう思った俺は列の前で挨拶するあいつに気づかれないよう顔を俯いて隠れるようにしていた。だが、
「おー、そこにいるのはライオット・シャゼルバイゼンじゃないか。なんだ、お前D組だったのか? これからよろしくな、兄弟」
「!? お、おう⋯⋯」
クラスの皆の視線が俺の方へと一極集中する。
「え? ライオットの奴、あいつと知り合いなのか?」
「おいおいおい、あんな奴に関わったら命がいくつあっても足りないって!」
「あ〜あ、ライオットの奴⋯⋯相変わらずついてねーな」
皆が『あ〜あ、可哀想に』という表情を浮かべていた⋯⋯いや、普通に声に出してるし!
昨日ハヤトに声をかけたことを俺は心の底から後悔したのは言うまでもない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺たちD組の担任『マリアちゃん』こと、マリア・ウィンスター先生は年齢は俺たちよりももちろん年上だが(年上とは言っていたが何歳かは教えてくれなかった)、身長が155センチとかなり低いことと年上とは思えないロリ顔、そして昨日の入学式初日のホームルームで天然ボケをいくつもかましてうまくいかず、ついには泣きそうになったが、泣くのを我慢し必死に生徒のために動こうとしたマリア先生に俺たちクラスの皆が心を打たれた。
「「「俺たち(わたしたち)がマリアちゃんを支えなきゃ!!!」」」
それ以来、皆がマリア先生を『親の目』という視点から男女問わず『マリアちゃん』と呼ぶようになった。まあ、マリアちゃんはその呼ばれ方には全く納得していないようだが。
そんなマリアちゃんが入寮前に俺に声をかけてくる。
「あ、ライオット君! お、お話があります⋯⋯」
「何? マリアちゃん」
「もう! マリアちゃんじゃない! マリア先生ですぅー!」
「はい、はい、ごめん、ごめん。で、何?」
「ライオット君と相部屋で一緒になるのは⋯⋯ハヤト君に決定しましたーーーー!!」
「えっ!? な、何でだよ! 資料では別の奴との相部屋じゃ⋯⋯」
俺が必死になってマリアちゃんに抗議をしようとした時、
「うむ、そうだな。それがいい」
「やるな、マリアちゃん! これはグッジョブとしか言いようがありません」
「マリアちゃん、ナイス!」
「い、いや〜、みんな、やめてくださいよ〜⋯⋯てへへ」
俺の抗議など無視して、皆が言いたい放題に俺にハヤトを擦(なす)りつける作戦に出た。ていうか、マリアちゃんでさえ俺の抗議を無視してみんなの『ヨイショ』に全力で応え顔を綻(ほころ)ばせていた。
くっ! かわいいじゃねーか!
守りたい、その笑顔。
「同じ部屋か。これは楽しくなりそうだな、ライオット」
「え? あ、ああ。そうだな」
マリアちゃんの後ろからハヤトがヌッと出てくる。
「では、そういうことでよろしくね、ライオット君。ハヤト君もライオット君と仲良くなってくださいね」
「ふ、愚問だな。ライオットと俺はもうすでに友達だ。いや⋯⋯兄弟だ!」
「まあ! やっぱりすでに友達なんですね。先生の独断でライオット君とハヤト君を同じ部屋にしてよかったです〜」
「うむ。マリア先生の聡明なご決断⋯⋯素晴らしいです。あなたのような先生でよかった」
「まあ! ん〜もう、大人をからかうんじゃありませんよ! それじゃあ、よろしくね、ライオット君」
「うむ、よろしくな兄弟!」
「⋯⋯は、はい」
な〜にが『大人をからかうんじゃありません』だよ。あんたの容姿はまだまだ『子供』じゃねーか。
そういえば、これ⋯⋯マリアちゃんの『独断』て言ってたな。ちくしょう〜、押し付けられた。可愛い顔して大人みたいな汚いやり方しやがって!
「よーし! それじゃあ、早速行こうじゃないか、兄弟」
「あ、ああ⋯⋯」
この決定が覆ることはないと悟った俺は、ハヤトと一緒に一階の奥にある自分たちの部屋へと歩いて行った。
ハヤトが俺の後ろからニコニコと楽し気についてくる。
それにしてもこいつは何で俺をここまで信頼してるんだろう?
あの時は『こいつ調子に乗ってるからガツンと言おう』てな感じで声をかけたはずなのだが、なぜか異常に懐かれてしまった。
正直、こいつが『トラブルメーカー』であることは入学式やさっきのA組でのやり取りを見ればはっきりわかる。そんな奴に好かれた俺のこれからの学院生活はどうなるんだと考えるだけで胃のあたりがチクチクと痛くなった。
——しかし
後に、俺⋯⋯いや、俺たちクラスのみんなは、ハヤト・ヴァンデラスがD組に移動してきたことが『人生最大の幸運だった』と知ることになるのだが、それはもう少し先の話である。
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