第45話036「密談と第三者」



「我こそはジャンノアール・アリストファレスである!」


 合宿所の東屋に現れたのはジャンノアール・アリストファレス国王だった。


「何やら思いがけない拾い物があったようだな(ニッ!)」

「フン。相変わらず神出鬼没な⋯⋯」


 この国、アリストファレスの国王ジャンノアールがハヤトの前に現れたのはもちろん偶然なのではなく、必然の現状であった。


「ティアラが⋯⋯もしかすると『精霊スピリタスの寵愛』を受けられる存在かもしれない」

「ほう?『精霊スピリタスの寵愛』を? さすがは王宮魔術士オリヴァー・ヴァンデラスの娘だな。前にアシュリー・ブロッサムもオリヴァーの娘は面白い娘だ、と人嫌いなあいつが珍しく興味があるようなことを言っていた」

「お師匠様が? それじゃあ、やっぱり間違いないかも知れないな」


 ハヤトが「ここに国王がいるのはさすがにまずいだろ」ということで二人は森の中へと移動した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「⋯⋯ジャン。そっちのほうはどうなってるんだ?」

「ん? ああ⋯⋯今のところ我々の『計画』について感づいている上級貴族はおらん。問題ない」

「四大公爵も、か?」

「ああ、予定通りだ。入学式の我々のパフォーマンスはちゃんと四大公爵あいつらに狙い通りに解釈されてる」

「そうか」

「後は⋯⋯⋯⋯お前があのD組の生徒たちを『Xデー』までにどこまで鍛えられるか、だな」

「わかってる」


 入学式の時の『子供っぽさ』など見る影もないジャンノアールが鋭い目つきでハヤトに言葉をかける。


「我々の計画が動き出せば、この国⋯⋯いや、この世界は混乱を極めるだろう。大きな混乱を⋯⋯」


 ジャンノアールは夜空に浮かぶ月に目を細めながら呟く。


「ああ。だが、このまま何もせず変わらなければいずれ俺たち⋯⋯いやこの世界に存在する者すべてが滅亡する。それだけは食い止めなければならない」


 ハヤトがジャンノアールの横に立ち、決意のような言葉を発する。


「⋯⋯まったくだ。しかし、それにしても当初はそんなつもりで『計画』をしていたわけではなかったのだがな」

「まあ、結果的に求めるものは一緒なんだからそこは問題ないだろう?」

「おいおい、簡単に言ってくれるな。俺の当初の『計画』に『生命滅亡の回避』なんてそんな壮大なモンはなかったんだぞ?」

「フ⋯⋯まあ、そうだな」


 そう言って二人は互いに笑った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ところで父さんはどうなってる?」

「ああ⋯⋯オリヴァーか。とりあえず昨日やっと精霊スピリタスに受け入れられたと言っていたな⋯⋯涙ながらに」


 ハヤトとティアラの父でありアリストファレス王国の王宮魔術士であるオリヴァーは、師匠のアシュリー・ブロッサムとの修行時代から精霊スピリタスにはなぜか受け入れられていなかった。精霊スピリタスに受け入れられないということは『世界の糧』とみなされないということだったので師匠のアシュリー・ブロッサムはオリヴァーと精霊スピリタスの関係を調べた。


 すると、精霊スピリタスが『世界の糧』以外の別の理由でオリヴァーを受け入れなかったことがわかった。ハーフエルフのアシュリーは精霊スピリタスと会話できるので受け入れない理由を聞いた。すると、精霊スピリタスの答えは「来るべき時が来たときに受け入れる」というものだった。


 詳細な理由は精霊スピリタスが教えてくれることはなかった為、オリヴァーはハヤトと同じ精霊スピリタスからの魔力供給は一旦諦め、体内魔力で魔術を極めることに専念し今に至る。


「そうだろうな。でも精霊スピリタスからの魔力供給を知ってて「今は受け入れられない」と言われたら相当辛かったと思う。さすが父さんだよ」

「まあな。だからこそ、私はオリヴァーを王宮魔術士に任命したのだ。あれだけ強くても驕らず芯が強い男はなかなかいないからな」

「ということは、今、父さんは⋯⋯」

「うむ。師匠のアシュリー・ブロッサムの元へ行って精霊スピリタスによる魔力供給による戦闘訓練を行っている。それと⋯⋯」

「『選人エレクター』⋯⋯」

「そうだ。オリヴァーもまた娘と同じ『選人エレクター』だからな。精霊スピリタスを取り込む魔力供給に体が馴染み能力上昇が落ち着けば、次は精霊女王スピリタスクイーンとの修行となるだろう」

「ということは、いずれ近いうちにお師匠様はオリヴァーを精霊女王スピリタスクイーンに紹介する為に直接顔合わせをする必要があるというわけか。お師匠様⋯⋯アシュリーの心底嫌そうな顔が目に浮かぶな」

「フッ⋯⋯まったくだ」


 二人が揃って笑い合う。


「とりあえず、オリヴァーの件も含めこっちは順調だ。後はハヤトがD組の生徒たちをいかに劇的に早く精霊スピリタスからの魔力供給が可能となり、能力上昇できるかにかかっているぞ」

「大丈夫だ。D組の生徒たちは個人差はあれど皆⋯⋯⋯⋯『精霊スピリタスの寵愛』を受けられる者たちばかりだからな。それに⋯⋯」

「それに?」

「俺の思っている以上に、D組の生徒やソフィア先生、ティアラの友人のイザベラとマリーも精霊スピリタスからの魔力供給は一ヶ月もしないうちに体得できると見ている」

「優秀だな」

「ああ。だから二ヶ月後の学院トーナメントまでには全員の能力上昇は間に合うだろう」

「そうか、助かる! では、私もお前の言葉を信じてもう一段階、計画を進めていくぞ?」

「ああ、頼む」

「うむ、ではな。次に会う時は学院トーナメントだ」

「ああ」


 大きな想いを内に秘め覚悟をすでに決めている二人は一度見つめ合うと、ジャンノアールが森の中へスーと闇に溶け込むように消えていった。


「⋯⋯さて、合宿二日目あしたの準備でもするか」


 そんな独り言を言いながらハヤトは合宿所のほうへと歩き始めた。


 この時、ハヤトもジャンノアールも気づいていなかった。


 ハヤトとジャンノアールの会話を聞いていた『第三者』の存在がいたことを。


「ハヤト・ヴァンデラス⋯⋯ジャンノアール・アリストファレス⋯⋯計画⋯⋯いったい何を⋯⋯?」


 誰もいなくなった東屋には、その『第三者』が一人深い思考に入り込む姿だけがあった。


 合宿一日目の夜が終わった。


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