第46話???「初回セーブポイント*合宿一日目*」



「すごいですーハヤトさん!『初回セーブポイント』への到着はこれまでの挑戦者で最速ですー!」

「さすが、噂に違わぬ実力者ね⋯⋯」


 二人はそう言ってクスッと笑みを溢す。


「このゲームはこれまでのゲームとは違い『いまだ誰もクリアできていないゲーム』ですから四人の挑戦者が誰もクリアできなければ『最もクリア近くのセーブポイントまで辿り着いたか』が勝敗を決めます。なのでセーブポイントの最速奪取は確かに重要ではありますが、しかし⋯⋯たかだか序盤の最初のセーブポイントに最速で到達しようが最後に生き残ってよりクリアに近い場所でのセーブポイントの奪取が重要なのですよ、メルヴィア」

「仰るとおりです、アウレリアお姉様」

「それに⋯⋯」


 アウレリアがワイングラスを片手に立ち上がり窓際へと向かった。地上千メートルもある超高層ビルの最上階『ハイレイヤールーム』から眼下に広がる夜のビジネス街の明かりを見下ろしながら彼女はゆっくりと続きを話し始める。


「今回、我々がスポンサー契約しているマルティカが必ず『初のゲームクリア』という偉業を成し遂げ優勝します。そういうシナリオなのです。あなたもおわかりでしょう、メルヴィア?」

「はい、アウレリアお姉様」


 メルヴィアはそう言って窓際にいるアウレリアの元へ行くと窓の外でビュンビュン空中を行き交う『飛行フライトカー』や『飛行フライトタクシー』をウットリした目で眺める。そんなメルヴィアを横目にアウレリアが溜息まじりに呟いた。


「それにしてもメルヴィア⋯⋯⋯⋯あなたよくも飽きもせず飛行フライトカーや飛行フライトタクシーを見続けられるわね?」

「いやいやアウレリアお姉様。西暦二〇九九年を生きる我々にとってもはや当たり前となっているものも、ほんの百年前には存在していなかったものなのですー。そう考えながら空を飛び交う飛行フライトカーを見ていると感慨深いものがありますー」

「そういうものかしら?」

「そういうものですー」


 飛行フライトカーについての見解には温度差のある二人ではあったが、もう一つの『興味』については温度差はない。


「それにしてもこの突如現れたコネクトネーム『ハヤト』⋯⋯⋯⋯我々が思っていた以上の実力のようね」

「はいですー。現在、このゲームの出場権を獲得した四名のプレイヤーの中では最速の展開で進めているようですー! ただ、観客が予想する優勝候補はお姉様の思惑通り、プロゲーマー世界ランキング三年連続ナンバーワンプレイヤーで我が社の専属プロゲーマー『マルティカ』となってますー!」

「それはそうでしょう。ここまではまだ導入部分ですらないのだから。観客もバカじゃないわ。ただ、しばらくはハヤトが活躍して派手に動いてくれたほうがいいのだけれどね」

「はい、アウレリアお姉様」


 アウレリアが少し荒げた口調をメルヴィアへと向ける。しかしメルヴィアは特に気にすることもなくアウレリアの言葉を即座に受け入れる。


「さて、それではいよいよですね⋯⋯⋯⋯合宿二日目」

「はいー。ここからが『厳しい戦い』と『選択』が待っていますー!」

「では、お手並み拝見といきましょうか、メルヴィア」

「はい、アウレリアお姉様」


 そうして二人は、目の前に広がる二百インチの『フェムトELディスプレイ』に映るハヤトやD組たちの合宿二日目の様子に目を戻した。

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